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吹けよ風、呼べよ嵐。

 めぐみは津村の言葉が気になって、何を聞いたら良いのか分からないままJ・アイドル研究会に連絡をした――


「リリリン、リリリン、リリン」


「はい。あー、もしもし、J・アイドル研究会ですぅ」


「もしもし、喜多美神社の鯉乃めぐみです。担当者をお願いします」


「もしもし、あっ、あー、めぐみさんですか? 僕です、僕です。もー、大変なんです、SNSは大荒れで、ネットの巨大掲示板にはアンチの誹謗中傷が凄い事になっていますデス、はぁい」


「誹謗中傷? 何でそんな事に……ちょっと待って」


 めぐみはネットの書き込みを確認した――


 〝 話題作りご苦労さん、フェス前にあんなに頑張ってもビリとか草 ″


 〝 無料だから集まっただけ。結局、チケット売れてねぇじゃん、童貞工場はオワコンなんだよ ″


 〝 あんなに話題になっても、チケットが全く売れないのが現実だから。涙拭けよっ ″


 〝 実力は上かも知れないけど、結局、人気なんだよなぁ。童貞工場はもう古いんだよ、あきらメロン ″


「うーん、読み進めれば進める程、個人攻撃になっている。酷いわね」


「アンチを装ったライバル・グループの運営によるものと思われますデス、はぁい」


「なるほど……寝た子を起こしたのかぁ、申し訳ないなぁ……」


「めぐみさんは悪くないデスッ! 昨日のライブで、ファンは何より大切な一体感を取り戻して、原点に戻り全力で応援する態勢なので、最高の状態なのですっ! 全部全部めぐみさんのお陰ですっ! 感謝しかないデス、はぁい」


「それを聞いて安心したよ。それならファンの皆に伝えておいて。絵馬に書いた願いは天の国に届いているって。うふふっ」


「はいっ! 後は運を天に任せますデス、はぁい」


「そう、運は天に任せなさい。じゃあね」



 J・アイドル・オータム・フェスティバルは三週間後に明治神宮野球場の特設ステージで行われる予定だった。アンチの煽りを物ともせず、事務所側は早朝七時半開場、八時開演のアナウンスをした。昼までの四時間を所属のタレントも含め全力で走り抜く決意表明にファンは歓喜した――



 十月十日 先勝 辛卯 日曜日 快晴


 大方の予想を覆し『ちぇりー・factory』のファンは全国から集まり、前日に東京入りしていた為、朝の六時には野球場に集まり始めていた――


「今日は歴史に残る一日になりそうな気がするっす!」


「あ、あー、この時間に、これだけ人が居ると云う事は……そんな気がしますデス。はぁい」


「ストリーミングの効果とライブが話題をさらったのが効いたんだね。やはり観れば納得、一気にファン層を広げたね。分からないのは、前売りが売れなかった事だなぁ……」


「あ、あー、前売りのレースで負けて、アンチがSNSで叩いたのが却って火を付けたと思われます。地方のファンは明日は仕事なので、朝の方が都合が良かったという話も有りますデス。はぁい」


 野球場には続々と人が押し寄せ、七時五分前にはキャパオーバーになり、運営は特設ステージ以外にスタンド席も開放する事を決定したので、これまでの動員の記録を大幅に更新した――


「やった――――っ! 遂に僕達が勝ったっす!」


「あ、あー、運を天に任せて良かったデス。はぁい」


「この記録は越えられないよっ! 信じられない、奇跡が起きたんだ!」



 そしてライブは始まった――


「みんな起きてるぅ――――――っ! 佐土原凛でぇーすっ!」 


「お早う御座います。藤花葵でぇーすっ!」


「こんな朝、早くから皆、何やってんの? 嬉しくて泣きそうだよっ! 錦織優奈でぇーすっ!」


「さぁ、行くよ――――――っ!」


「ウォオオォ――――――――――――ッツ!!!」「パチパチパチパチパチパチ――ッ」



 最も動員が多いグループが勝者として、カウコンとニューイヤーコンサートの権利を獲得する、J・アイドル・オータム・フェスティバル。勝利を確信したファンの応援は殊更、熱が入っていた――


 そして、四時間に及んだライブが無事終了した時「どうっ」と風が吹くと、快晴の空が一気に曇天になり『七色・シロツメクサV』のライブの後半になると、雨が落ち始め、ヨンパチ系のライブが始まると、雷がゴロゴロと鳴り響き、ゲリラ豪雨に見舞われ、とうとう中止になってしまった。『ちぇりー・factory』は動員数の記録を大幅に更新して圧勝した――



 めぐみは天の国に戻り、天国主大神アメクニヌシノオオカミにファンの感謝を伝えると、何時もの様に日報を書いていた―― 


 すると「そっそそっそそっそそっそ」と足の音と「サシサシサシサシ」と衣擦れの音が聞こえた――


「コッツ コッツ コッツ」


「はい、どうぞ」


「ガチャッ!」


 ドアが開くと、双子の巫女が入って来た――


「キヤァ―――――ッ、もう、最高のライブでしたわぁ」


「まあねぇ、雨に降られなくても勝利したのだから、大した物よ。うふふっ」


「猫だって杓子だって名刺を作れば即アイドルと言いますけどぉ、四時間、歌って踊って楽しませるのは凄い事ですぅー」


「そうね。孫や子供に連れられて来た、おじいちゃんやお父さんは、若者が全力で頑張っている姿を目の当たりにして、涙腺崩壊していたし。アイドルって……軽く見られいるのかもね。でも、ヲタ芸も凄かったねぇー!」


「普段、あんなに大人しい人達がぁ、豹変するのがぁ、ちょっと理解出来ましたわぁ」


「ちょっとなんだ。やっぱり。意外と夜も激しいタイプよ……ふんがっ!、ふごっ!」


「イッヤァ――――――ッ! キャァ――――――――ッ!」


「ゴメンゴ。変な想像させちゃって」


「うぉっほんっ! まーた、ドアが開けっぱなしですよ、困りますね。しかし、今回は不特定多数の全国のファンの縁を結ぶ事が出来ました。天国主大神アメクニヌシノオオカミ様も御喜びで高く評価されました。ちなみに、雨を降らせたのはライバル・グループに言い訳の余地を残しつつ、来年のフェスが更に盛り上がる様にとの配慮からで御座いますので……あっ、私はそこの日報を頂いて、これで」


 三人は顔を見合わせ、不思議に思っていた――


「神官も天国主大神アメクニヌシノオオカミ様も隠れヲタだったりして?」


「キャハハハ―――――ッ、……マジで?」


 双子の巫女が冷たい甘酒をお盆に乗せて差し出すと、一気に飲んだ――


「ふう――っ、冷たい甘酒の美味しさを感じられるのも今日までかなぁ、季節はどんどん移り変わって行く……ふたりとも有り難う! じゃあね」


 二人の巫女に見送られて地上へ戻ると、喜多美神社は神恩感謝のオタク達で溢れていた――


「めぐみさーんっ! 神様を信じて良かったっす! 遂に、年末年始にドームコンサートが出来るっす! 感謝感激っす!」


「あ、あー、諦めないことの大切さを知りましたデス。最後まで全力でやり切ったファンの皆にも感動しましたデス。全てに感謝デス。はぁい」


「データだけ見て諦めていた事を猛省しております。又、『ちぇりー・factory』の逆転劇でライバル・グループも結果として再注目され、アイドル・ファンの活動が活発になり、アイドル自体が再評価されている事は驚異的です。以上」


「まぁ、神様が味方に付けばこんな物よ。ところで、そちらの方達は?」


「あ、あー、アイドル研究会にも女性会員が入りましたデス。はぁい」


「昨日の会場で出会って、意気投合したっす!」


「何だか、ウキウキしていま――すっ! 以上」


「うふふふっ。良かったわね、めでたし、めでたし。頑張ってねっ!」



 あの日、喜多美神社に参拝をした三人のオタクは、六人の男女となって帰って行った――



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