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阿鼻叫喚なんて言わせないっ!

 しかし、翌日が敬老の日だった為、孫を連れたお年寄りや、家族連れが沢山集まったのは計画には無い想定外の事だった――


「あわわわわー、追いつかないよ、迷子まで出始めて来ちゃった。ふう―っ!」


「めぐみ姉ちゃん、あっシのパンは売り切れちゃったから、茜と優太のフォローをするから、開演十分前には、運営の人達に顔を出してねっ!」


「あっ、は、はい、分かりました。何だか皆、手馴れているわね。慌てているのは私だけか……はぁ、ふぅ」


 開演十分前のアナウンスが流れる頃には、立河武蔵野グラウンドは人が入り切れない程になっていて、ファンとオタクの人達は臨戦態勢に入り、小さなお子様は、お父さんに肩車して貰ったり、今か今かと、その時を待っていた――



「みなさーんっ! こんにちはぁー、本日のMC担当! ファニー・岡村でぇ――――すっ! イエ――――――――イッ!」


「………………………………」「シ――――――――ンッ」


 MCがトークを始めると、グラウンドは水を打った様に静まり返ってしまい、津村とスタッフに戦慄が走った――


「これは不味いなぁ、場を温めるはずのMCが、一般のファンやヲタを凍り付かせているっ! どうにかならないのか……そうだっ! めぐみさんっ! 君がMCをやってくれっ!」


「えぇっ! 私? 無理だよ、無茶言わないで。MCなんて出来る訳無いでしょう? 着替えて帰りますので、後はよろしく……」


「めぐみさんっ! ライブは生き物なんだよっ! このシラケた、テンション下がりまくりで開演したら、全てが水の泡になってしまう。それでも良いのかよっ!」


「あ、いやっ、そんなムチャ振りされても……」


「おっさんMCじゃ駄目なんだよっ! 巫女装束のまま、めぐみさんがステージに立てば、目立つし場の空気が一変する。一機にテンション爆上げにするんだっ!」


「いや、それは、ちょっと勘弁して下さい……」


 津村が背中を押し、尻を蹴飛ばされてステージに出ると、会場の注目が集中した――


「あー、テス、テスッ、皆さんこんにちは……喜多美神社の鯉乃めぐみです……」


「………………………………」「シ――――――――ンッ」


 静まり返ったグラウンドに、アイドル研究所のギンガムチェックのデブの声がした――


「めぐみさーん、しっかりっ!」


「…………よーしっ、こうなったら、やけクソだっ! おまえら――――っ! よく聞けっ! こんな空気じゃ、ライブは中止だぁ――っ!」


「えぇ――――っ!」「ざわ……ざわ……ざわ……ざわ……」「ガヤ、ガヤ、ガヤ」


「今しかない、この瞬間をっ! 全力で応援する気が有るのかぁ――――――っ!」


「イエ―――――――スッ!」「ワァ―――――――ッ!!」


「聞こえねぇ――――ぞっ! 一生に一度しかないこの瞬間をっ!『ちぇりー・factory』に魂を捧げる覚悟は良いか――――っ!!」


「ウォオオォ――――――――――――ッツ!!!」「ワァ――――――ッ!!」「キャァ――――――ッ!!!」


「覚悟が出来たら――――っ! さぁっ、行くよっ!」


 十四時丁度に音楽が響き渡り、打ち上げ花火が上がると、ステージを覆い尽くしていた風船が空に舞い上がり、その中から『ちぇりー・factory』の三人が登場するとグラウンドは大歓声に包まれた――



〝 君に夢中なーんだー 君と一緒なーら 全てがー 上手くいくよー ″


「イエスッ! ハイッ! ハイッ! ハイッ! フゥ――ッ!」


 〝 毎日が キラキラと 輝いてー 喜びに 溢れてい――――るからっ ″


「チャッ、チャッ! チャッ、チャッ! ウゥ――ッ、ハイッ!」


 〝 君と―― 一緒にー 歩いて行きた――――いなっ ″


「イエ―――――――スッ!」「凜ちゃん、優奈ちゃん、葵ちゃーんっ!」 



 会場の熱狂はストリーミング配信され、全国のファンの元に届けられていた――


 検索ホット・ワード、トレンドの上位になり、子供のお客さんの為に、持ち歌のアニメ主題歌と新曲の発表をすると、視聴者の数は加速度的に増えて行き、殆どの女性が曲を知っていてもライブ・パフォーマンスを観た事が無く、その完成度に驚いていた。又、デビュー当時の事しか記憶にない一般客と子供達には大きなインパクトを与える事に成功した――


「皆さんっ! はぁっ、今日は沢山の人に、はぁっ、このライブをお届けする事が出来てー、凜は幸せでぇ――すっ! そして、報告が有りまぁーすっ!」


 オタク達は引退発表かと思い、固唾を飲んだ――


「私達『ちぇりー・factory』はぁー、たった今、ツイッ太で世界トレンド一位になりましたっ!」


「ウォオオォ――――――――――――ッツ!!!」「キタァ――――――ッ!」「パチパチパチパチパチパチ――ッ」


「凛ちゃんと優奈と私の三人になって、それでも今日、こんなに沢山の皆様に囲まれて、ステージに立つ喜びを感じています」


「ウォオオォ――――――――――――ッツ!!!」「パチパチパチパチパチパチ――ッ」


「えーっ、言いたい事は、ふたりに言われてしまいましたがぁ、三人になったのにぃ、皆さんの応援がパワーアップしてぇ、本当に嬉しいでぇ―すっ!」


「ウォオオォ――――――――――――ッツ!!!」「パチパチパチパチパチパチ――ッ」


「それでは、最後の曲になりました『思い出の中では生きてゆけない』聞いて下さいっ!」


「ウォオオォ――――――――――――ッツ!!!」「パチパチパチパチパチパチ――ッ」


 日が傾いたグラウンドにステージの照明が輝きを増し、衣裳がキラキラ輝いていた――


 大いに盛り上がったライブはアンコールに応え、無事に終えた時には四時間を超えていて、関係者はこのプレ・イベントに予想以上の手応えを感じていた――





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