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キモヲタだって恋愛したい。

 めぐみはその写真を見ると即答した――


「ああ、昨日の。絵馬なら有ると思いますよ」


「ええっ!」「やっぱり」「来たんだっ!」


「ええ、昇殿参拝しましたから。こんなに可愛い三人組アイドル・グループの祈祷をしたのは初めてでしたよ。うふふっ」


「でもでも、それらしい絵馬なんて何処にも無かったデスぅ、はぁい」


「やっぱり、誰かが盗んで持ち去ったんすよっ!」


「熱烈なファンならまだしも、ライバルの妨害行為だったら許せないよっ!」


「ちょっと、待って。ファンなのに彼女達の絵馬が分からないなんて、あり得ないわ。あなた達、似非かニワカでしょう、神罰が当たりますよ、今直ぐ退散しなさいっ!」


「いやいや、違います違います、僕達はドッケンなんデス。はぁい」


「そうっすよ。知らない事なんて無いっす」


「あっ、解説しますね。ドッケンとはドル研の愛称みたいなものであります。そして、始めから話すのなら、ドル研はJ・アイドル研究会の略で、本邦で初めてアイドルの研究に於いて、科学的根拠に基づいた数値による表現でアイドルのスペックとスキルを公開する事で、全てのアイドル・ファンからの支持を得た唯一の公的存在なのです。以上」


「ふーん。話が長いわねぇー、結局、見付けられなかった時点で、程度が知れているわ」


 三人はめぐみの言葉に心が折れたが、このままでは帰れないと意を決して尋ねた――


「巫女さん、その絵馬がどれか教えて頂けませんか? せめて、ヒントだけでも……」


 めぐみの眼光が鋭くなり、ニヤリと笑った――


「ヒントねぇ……よおーしっ、行くわよっ! 佐土原凛さん、藤花葵さん、錦織優奈さん。彼女たちのシンボル・チャームは、なーんだっ!」


「あざーっす! よしっ、チャームが付いている絵馬を探そうっ!」


「おうっ!」


 三人は表から目に付かない様に絵馬の裏側に付けたチャームを探す為に必死で絵馬をめくっていた――


「ダメねぇ、人様の奉納した絵馬を乱暴に扱わないで。それではここで第二ヒントです。凛さんのシンボル・チャームは太陽、葵さんは星、優奈さんは月ですが……メンバー・カラーは何色でしょうかっ!」


 すると、三人は血眼になってチャームの付いた絵馬を探し出した――


「来た――――――――――っ!」


「よっしゃぁぁ――――――――っ!」


「あったぁ――――――――っ!」


 雄叫びを上げ歓喜に沸いた。だが、その絵馬に書いてある願い事を読むと、人目も憚らず泣き出した――


「えーい、泣くな泣くなっ! 大の男がみっともない、そのルックスでピュアだからキモいって言われる事、分かってるっ?」


「だってぇ、だってぇ……」


「自分達の願いじゃなくて……うぐっ、僕たちファンの事を。すんすんっ、ふぇ――っ」


「感謝の気持ちで、僕達ファンの幸せを願うなんて……これは、解散を示唆しているんですよぉ……うぁぁ――――っ!」



 典子と紗耶香はその様子を授与所から見ていた――


「紗耶香さん、盛り上がっているなんて言って。ほーら、めぐみさん、泣かしちゃたわよ」


「でもぉ、意外とぉ、話が合うのにぃ驚きましたよぉ、良い感じに盛り上がってたじゃないですかぁ」


「ふんっ、粘着質でストーカー気質のキモヲタなんか相手にしてもしょうがないでしょう? 味を占めて毎度毎度来られたら大変よ、メイドじゃないのよ私達っ!」



 ふたりの心配を他所に、めぐみは三人の話に耳を傾けていた――


「この秋に、アイドルの頂上決戦が有るっす」


「あ。あー、頂上決戦の勝者になれなければ、解散すると思われます、デス。はぁい」


「あっ、解説しますね。頂上決戦とは天下一大会とも呼ばれるJ・アイドル・オータム・フェスティバルの事であります。アイドル三国志とも言われる令和の今、このフェスの勝者が大箱で七日間、カウントダウンとニューイヤー・コンサートを開催する権利を獲得します。以上」


「何だ何だ、お前等っ! まだ負けてもないのに、最初から諦めて泣き喚くとは、何事だっ!」 


「だって、勝てる見込みが無いっす……」


「マジでマジで、プロモーションで完全に負けているデス。はぁい」


「あっ、解説しますね。アイドル・ファン全体の中で、エンターテイメントに振り切ったグループがシェアの三割、そして、最大のライバル・グループがシェアの五割を確実にグリップしています。元々、彼女達が持っていたシェアを、ライバルの登場によって奪われ現在に至る。以上」


「この、へなちょこ、ポンコツ、おタンコ野郎がっ! あなた達が本当のファンなら、勝つ事だけを考えるはずよっ!」


「……………………」


「あー、嫌だ嫌だ、まぁ、オタクなんて所詮その程度よねぇ、尤もらしい事を言っているけど、解散したらしたで、さっさと次のアイドルに鞍替えして、萌だの神だのと喚くだけ……凛さん、葵さん、優奈さんが不憫でならないわぁ」


「僕達、似非じゃないっす……」


「僕らはニワカなんかじゃないデス。はぁい」


「あっ、そのぉ、解説した通り……科学的データから読み取ると、勝算が有りません……それどころか更にシェアを奪われつつある状況かと思われ……」


「あっそう? そんなにデータで先読み出来るなら、絵馬を奉納する意味なんて無いでしょ? 彼女達の事は忘れて、さっさと次のアイドルでも発掘しなさい。私は応援しますうーっ! 応援し続けますからっ! さよならっ!」


 三人の男は項垂れて肩を落とし、授与所の前を通り過ぎて行った――


「紗耶香さん、ほーら見なさい、めぐみさんに叱られてペシャンコにへこんでいるわよ」


「叱られていると言うよりもぉ、シメられたって感じですよぉ……」


「聞こえてますけど? シメただなんて人聞きの悪い事を言わないで下さい。メソメソするなと言っただけですよ」

 

 力無く参道を歩いていた三人だったが、突然ギンガムチェックのデブがきびすを返して突進して来た――


「あっ、あの、巫女さん、応援するなら……いや、して貰えるなら、良かったら、是非これを使って下さい。勿論お金は結構です。差し上げます、デス。失礼しまぁーすっ。はぁい」

 

 斜め掛けのカバンの中から紙の袋を取り出して、めぐみに手渡すと皆の後を追いかけて去って行った――



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