夏休みの告白。
未祐の夏休みは、午前中に自宅で勉強を済ませ、午後は図書館で読書をして過ごしていた――
何時もなら本の世界に飛び込んで翼を広げる未祐だが、昨日の披露宴が頭を過ぎり、気が散ってしまい現実に引き戻されてしまった――
「ふーんっ。なんか、集中出来ないなぁ……昨日の乙女ちゃん、キラキラ輝いて綺麗だったなぁ……あんな風に皆に祝福されて結婚出来たなら……どんなに幸せだろう……はぁ……もう、帰ろうかなぁ」
未祐は自殺未遂を起こしてから、家庭に居場所を失い、外で過ごす事が多くなったが、その事で、以前より親の監視が厳しくなった為、寄り道をせずに帰宅する事にした――
図書館を出て駐車場を歩いているとスゥーッと後方から一台の車がやって来た――
「プッ、プゥーッ!」
「あっ、えぇっ! 倉持先……じゃなくて津村先生っ!?」
「未祐さん、一緒に帰りましょう。送って行ってあげるから。ねっ!」
「あの、先生……新婚旅行に行ったはずなのに、どうして此処に居るのですかぁ?」
「こっそり帰ってきちゃったの。うふふっ。ふたりだけの秘密よ、誰にも言っちゃダメよっ!」
「でも、あのぉ……私……」
「行動履歴がケータイのGPSで直ぐにバレるから、心配しているのでしょう? 先生が電話しておいたから大丈夫よっ! 早く乗って」
「はいっ、失礼します……」
めぐみは未祐を乗せると五台山の展望台に向い、山頂の駐車場に着くと車を停めた――
「ねえ、未祐さん。展望台まで歩きましょう? ちょっとお話がしたいの。良いでしょ?」
「はい。分かりました……」
未祐は話が何なのか分からず、不安になった――
「あのぉ……先生、話って何ですかぁ?」
「二年前の事。どうしても気になって……それで、ふたりきりで、お話がしたいと思ったの」
「先生、二年前の事なら、私……何も話したくありません。話す事なんて、何も有りませんから……」
「笹岡亜里沙さんの事でしょう?」
「ぇっ……………………」
「ビンゴ! 図星なのね。昨日の披露宴で、あなたと亜里沙さんだけが悲しそうで、笑っていなかったから、気になったの」
「先生、私……もう良いんですっ! 忘れて下さい。私も、もう忘れたいんですっ!」
「嘘ね。嘘はダメよ未祐さんっ! 忘れる事なんて出来っこない、一生、後悔して苦しむ事になるわよ」
「うぐっ、先生……」
「マリア様の前で自分に嘘は吐かないって誓ったでしょ? あれは嘘? 未祐さん。さっき言った事を覚えている? ふたりだけの秘密。女には秘密が有るのよ。だからあなたの秘密を聞かせて。良いでしょう?」
未祐は黙り込み泣いていた――
めぐみは肩を優しく抱いて、心を開いて話し始めるのを待っていた――
「先生、私……亜里沙の事が好きなの。入学式で私が迷子になっていたのを助けてくれて……でも、ひと目惚れなんかじゃないよ、この人だって感じたの……」
「そう。よく話してくれたわね……ありがとう未祐さん」
「えへへっ、思い込みかも知れないけど、消しゴムを無くした時も、嫌いな子に意地悪された時も守ってくれたの。私が困っていると何時も『ほら』って手を差し伸べてくれて、気が付くと、どんどん好きになって、もう止められなくなって……」
未祐はめぐみの胸で号泣した――
「亜里沙と出会ってから毎日が楽しくて、毎日一緒に居たくて、いつも二人で帰ったの。お休みの日もふたりで出掛けたりして。入学してから、ずっと一緒だったのに……」
めぐみは陽菜の姿を借りていた為か、柄にも無く貰い泣きをしていた――
「ちょうど二年前の今頃だったけど、勇気を出して亜里沙に告白したんです。それで、関係が壊れてしまって……」
「亜里沙さんに、何か酷い事を言われたの?」
「うぅん、違う。でも『そんな事を言われたら、もう、友達にも戻れないじゃんっ! 未祐の馬鹿っ!』って言われて…… 先生、一度壊れた関係は、もう元には戻らないよね。奇跡でも起こらない限りもう、戻れっこないよ。だから、もう良いの。えへへっ、先生まで、泣かないでー」
「切ないなぁ……辛かったね未祐さん。先生に打ち明けてくれてありがとう。でも奇跡は起こらない。恋の女神も微笑まない。奇跡は起こす物なのよ」
「……えっ? 先生、何を言っているの」
未祐とカフェに寄ってお茶を飲み、お互いに笑顔になると家まで送り届けた――
「ただいまー」
「お帰り、未祐。倉持先生、わざわざ送って頂いて、どうも有難う御座います。どうぞお上がり下さい」
「はい。失礼いたします」
リビングに通されると、家庭訪問になった――
「未祐さん、お母さんと話が有るから、席を外して貰えるかしら?」
「はい。先生、ごゆっくりどうぞ、失礼します」
「本当に未祐さんは礼儀正しくて良い子ですね。うふふっ」
「先生……家の子に何か有ったのでしょうか?」
「はい。実は自殺未遂の原因が分かりましたので、お話ししたいと思いまして」
めぐみが原因とこれまでの事情を話すと母親も納得をした――
「やはり、そうだったんですね。気付いてはいたのですが……話す勇気が有りませんでした。あの子が心を開いて、少しでも前向きになれたのは先生のお陰です。有難う御座いました。只、主人にはこの事は……」
「ショックを受けて過剰に反応するかもしれませんから、本人の口から伝えられる日まで、そっとしておいたら如何でしょうか?」
めぐみは家庭訪問を終え、車を陽菜のマンションに戻すと、元の姿に戻ってホテルに帰った――
「笹岡亜里沙さんに会って、心を確かめないといけないわね。明日は重要な一日になりそう……」
めぐみはシャワーを浴びて身を清め、何時もの様に日報を書いて神官に送り、七海に電話をした――
「もしもし、七海ちゃん、お土産を受け取って貰えたかな? うふふっ」
「めぐみ姉ちゃん、うふふっじゃねーしっ! こんなに沢山、食べ切れないお。どーすんのよーっ!」
「私の分はお母さんと食べて。七海ちゃん、愛しているよっ! じゃあねっ」
「めぐみ姉ちゃん……あ」
「ツ―――――ッ」
七海は自分の気持ちが言えなかった――