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運命のあの日に帰りたい。

 時が過ぎて、夏の後ろ姿が見えて来た頃――


 めぐみは津村の結婚式に出席する為、旅支度をしていた――


「めぐみ姉ちゃん、何処行くんよー、あっシも連れてってよー」


「ダメよ。結婚式に出席するだけなんだから。行っても遊んで来る訳じゃないのよ」


「結局、世間は夏休みだってーのに、働きっ放しで何処にも行けねーしっ! 花火大会の時だって茜や優太達には御守りあげたのに、あっシにはくれねぇーしっ!」


「七海ちゃんには多摩川であげたじゃないの。それに、私が一緒に居るから良いのよ。うふふっ」


「あーあ、なーんかハブられてるっ! つまんないのっ!」


「別に仲間外れにしている訳じゃないよ。七海ちゃんには、お土産いーっぱい買って来るからさ、それで勘弁してよ。ねっ! じゃあ、行って来るからさ、後はよろしくねっ!」 


「うんっ、分った。期待して待ってからっ! 気を付けてね。行ってらっしゃーいっ!」



 めぐみは羽田発、十八時五十五分の直行便で機上の人となり、高知龍馬空港に二十時二十五分に到着する予定だった。天の国からは見る事の無い下界の景色に運命の日の事を思い出していた――


「考えて見れば、あの日の決断が無かったら今頃どうしていたのかしら……地上に降りて色んな人達と出逢えたのも津村のお陰なのかなぁ……でも、スピーチで死んだのが御縁で……なーんて言ったら、新郎が心霊かよっ! て言われそうだし……ふうっ」


 高知龍馬空港に到着するとサザン・スカイ・ホテルのお迎えが来ていた―― 


「鯉乃めぐみ様。ようこそ高知県へ、お疲れさまでした。数あるホテルの中から、再度、私共を御指名頂き、誠に有難う御座います。鯉乃様。お久しぶりです、覚えてらっしゃいますか? 四か月前にアテンドした高橋です。ご案内いたしますのでこちらへどうぞ。ふふっ」


 リピート客獲得に情熱を燃やす高橋さんの案内でホテルに着くと、部屋に案内された――


「鯉乃様。モーニング・コールは八時で承りました。それではゆっくりとお休み下さい。失礼致します」


「ありがとうございました。おやすみなさい…………明日になったら、津村さん、おめでとうございます。って言わなきゃなんないのよねぇ……ちょっと照れ臭いなぁ、あはは」


 津村はカブトムシのコンバ―チブルに乗って、既に高知入りしていた――


「いよいよ明日だなぁ……道路の使用許可も取ったし、この車をブライダルカーに仕立てておかないとねっ、楽しくなって来たな、これで、良しっ!」


 ブライダルカーのバンパーには沢山の空き缶が紐で括りつけてあった――



 ――翌日


 結婚式当日の八月二十八日は先負、戊申、天赦日であり、午後からの式だった――


「津村さん、陽菜さん、御結婚おめでとう御座います」


 白無垢に綿帽子の陽菜は美しく輝いていた――


「めぐみさん、お久しぶり。来てくれてありがとう。あなたにはどんなに感謝しても、感謝しきれないわ」


「陽菜さん、とても綺麗ですよっ! 溜息が出ちゃうぅー!」


「フッ。当然だよめぐみさん、オレが選んだ人だからねっ!」


「もう、黙っていれば、それなりなのに……ニヤけちゃって、違う意味で溜息が出るわっ!」


「あっはっはっはっはっはっはは――――――――――っ」


 挙式は出雲大社の分祀で厳かな雰囲気の中、家族だけで執り行われた――


 神社の神職と巫女に導かれて、新郎新婦、両家の親の順に本殿に向かい、身の穢れを祓い清め、神職が神にふたりの結婚を報告し、幸せが永遠に続くよう祈り、三々九度の盃で夫婦の永遠の契りを結んだ――


 指輪の交換、誓詞奏上(せいしそうじょう)玉串拝礼(たまぐしはいれい)を終えると、ふたりの門出を祝い、雅楽の調べに乗せて、巫女が舞を奉納した――


 神職が式を執り納めたことを神に報告して一拝すると、陽菜は瞳を潤ませていた。本殿を退場して、神殿の前で集合写真を撮り終えると、披露宴会場に向った――




 ザ・グランドパレス高知に到着すると、招待された学校の職員と全校生徒、吉田喜三郎は曾孫と玄孫を連れて来ていた。そして、津村の関係者の中にはグラビアアイドルの藤城玲奈も居た――


「しかし、盛大な披露宴ねぇー、女子高生が大勢居るせいなのか、盛り上がり方が違うねっ!」


「だろっ? 令和の派手婚はこうでなくっちゃねっ!」


「イベント企画をやっていだけの事は有るはね、凄いよ」


 暗転になり、お色直しをしてゴンドラに乗って登場すると、レーザー光線にスモークが焚かれ、ご当地アイドルのライブが始まり、祝福の歌が会場に響き渡った。ふたりが誓いのキスをすると披露宴は最高潮になった――


 だが、その時―― 


 めぐみのケータイがブルブルブルブルと震えアラートを知らせた――


「えぇっ! この会場に? 誰だろう……何処に居るのだろう……」


 会場の数百人の中に居る誰か――


 めぐみは真っ先に藤城玲奈を疑ったが、心の整理がついており、何の問題も無かった。ライブが終わりイリュージョンで二人を祝福すると会場は歓喜に包まれた――


「一体どこに居るの…… 津村の関係者でも陽菜の関係者でも無いとすると……まさか生徒?」


 焦るめぐみを他所に、若者に大人気のお笑い芸人が出て来て、結婚ネタを披露して、会場は大爆笑と拍手喝采で大いに盛り上がっていた――


 だが、その時、めぐみの眼光が鋭くなった――


「間違いないっ! 彼女だ……」


 会場の笑顔の中に、笑っていない淋し気な少女が居た――



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