仁義なき戦いは終わりなき戦い。
めぐみはその古い木箱を見て、意気消沈した――
「あーぁ、期待しなければ良かった……そんなに古いのしかないのですかぁ?」
「めぐみ様。八十年前の年代物ですが、実力は今回の案件にピッタリだと云う事なんですよ……えーっと、人呼んでヒトラーの電動のこぎり、またの名を死神の鎌で御座います」
グロスフスMG42機関銃 口径7.92mm 銃身長533mm 使用弾薬7.92x57mmモーゼル弾 装弾数ベルト給弾式ドラムマガジン式 作動方式ローラーロック式ショートリコイル 全長1,220mm 重量11,6kg 発射速度1,200-1,500発/分 銃口初速975m/秒
884m/秒 有効射程1,000m――
「あら、凄いのね……納得。それでは小烏丸と短刀を……って、あなた達、何をしているの?」
「うふふふっ、この機関銃はぁ、銃身の交換とぉー、弾薬補充をする者が必要ですわぁ、ふふっ。持ち運びもぉ、おひとりでは大変ですしぃー、まぁ仕方が無いのでぇ、お供致しますわぁ。へけっ!」
「あぁっ、そう……でも、その格好は何なのかしら?」
「天の国に代わってお仕置きするならこれしか有りませんわぁ、ふふふっ。やっぱり機関銃と言えばこれで決まりですわぁ、きゃはははっ」
「ふたりとも、コスプレ大会に遊びにでも行く気なのっ? もう、仕方無いわねぇ……」
めぐみと双子の巫女は神官に見送られ、軌道エレベーターに乗って地上に戻って行った――
茜と優太が襲われた、ほぼ同時刻に六代目岡田組も襲撃されていた――
「親分っ! これは一体……」
「高倉、お前は無事だったのか……」
「留守にしている間に女房とガキ共が襲われました。酷え事しやがるっ……代貸! 何でこんな事に……」
「健二……村田組の若い衆が、お前の事で話が有るって言うもんだからよぉ、俺が出て行ったら財布を出せって……知らねえって言った途端に発砲しやがった、何が何だかさっぱりだ……痛ぇっ!」
「大丈夫ですかいっ! あの財布が……」
「高倉、お前ぇ、何か知っているなっ!」
「へいっ、昨日のいざこざで、訳あって私が預かっております。その財布の持ち主ってえのが二代目誠真会の組員で、村田組に草鞋を脱いでおります」
「村田組が! ちきしょうっ、町田の件で手打ちにしたはずなのに、是政橋を渡って府中辺りをチョロチョロしているとは聞いていたが、裏切りやがったか……」
「親分、元はと言やぁ、私の監督不行き届きです。破門しておくんなさい」
「健二っ……おめえっ!」
「代貸、これ以上、御迷惑をお掛けする訳には参りません。覚悟は出来ております、へいっ」
「そうか……覚悟したんだなぁ……律儀な野郎だ、分かったよ」
「親分、最後にお願いが有ります」
「おう、何だ、言ってみな」
「ダイナマイトを五十本、宜しくお願い致します」
村田組が裏切り、二代目誠真会が東京に進出する手引きをしている事と、岡田組が襲撃され高倉に破門状が出た事を知ると、関東の極道達は大規模な抗争に発展する事を恐れ、震え上がっていた――
「ごめんなすって」
「何だてめえは?」
「へいっ、私は六代目岡田組に世話になっていた高倉と申します」
「岡田組が何の用だ」
「こちらに二代目誠真会が草鞋を脱いでいると聞きまして……ご挨拶をと思いまして、へいっ」
「そうかい、要件はそれだけじゃねぇよな? おぉ」
「へいっ、預かっている財布の事で……お話が有ります」
「入りなっ!」
高倉はジャケットを脱ぎ、腰の短刀を差し出し、身体検査をまんまとすり抜けた――
村田組は高い石垣と塀に囲まれ、監視カメラが三メートルおきに配置され、内部も同様に玄関、廊下、階段、踊り場まで集中管理システムで監視されていて、親分の居る大広間は大理石の床に大きな柱が並ぶ見事な洋館だったが、唯一、鏡張りが不自然だった――
高倉の行動はマジック・ミラーで監視されていた――
「昨日は誠真会の者を可愛がってくれたそうだな」
「可愛がるだなんて……テキ屋風情が、とんでも御座いません」
「まあ、カチコミはその借りを返しただけだ、悪く思うな。それより財布をサッサと出しな」
「へいっ、見ての通り、丸腰で何も持っちゃいません。親分さん、どうか岡田組に手を出すのは……手荒い真似は止めておくんなさい」
「フッフッフフ、ケチな稼業人如きがこのワシに意見してんのか? おぉっ!」
「指図も意見もありゃあしません。全ては私の責任で御座います、組を破門して頂きましたので、もう関係は有りません」
「てめえ、良い度胸してんなぁ、このオレと取引でもしようってのかっ、おうっ!」
「手を出さないと約束して頂きたいだけで……へいっ。もし、約束して頂けない時は……あの財布は出るところに出ます。それでも良いんですかい」
「何だとっ!」
集中管理室では組員が防犯カメラで監視をしていた――
モニターがずらっと並ぶ中、警告のランプが点いたので眼をやると画面には巫女装束の女と、その後ろにはセーラー服を着て台車を押す双子の姿が写っていて、モノクロの画面に白く浮かび上がるその姿は、心霊写真の様だった――
そして、モ二ーター画面に浮かんでは消え、浮かんでは消え……あっと言う間に正門前に現れた――
「おいっ! 正門に変なのが来たぞっ! 排除しろっ!」
「…………シュゥ―――――――…………」
「おうっ、返事しろっ! おいっ!」
モニターに眼をやると、既に正門を突破して門番が血を流して倒れていた。そして、隣りのモニターには正面玄関に現れるや台車に積んだ箱から三脚を取り出しているふたりの姿が映し出されていた――
「ひとり居ないぞ……まさかっ!」
慌てて監視室から出ようとドアを開けると、そこには千早を羽織り、頭には前天冠を着け、長い黒髪を後ろで絵元結にしためぐみが居た――