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日陰者の宿命。

 唇を噛み締め、沈黙して震えている茜に手を掛けようとした時だった、後方から見知らぬ男の声がした――


「ニ代目誠真会の構成員だな! 不法侵入と暴行の現行犯で逮捕するっ!」


「何だわりゃぁ!」


「おやおや、これはこれは、申し遅れました。フッフッフ、マル暴の斎藤だっ! 仁義のねぇ、手前ぇらに挨拶してやったんだっ! 神妙に縛につけってんだぁ、馬鹿野郎、この野郎っ!」


 高倉の自宅前には、七海の通報で駆け付けたパトカーが二台と、マル暴の覆面三台が取り囲み騒然としていた。そして、めぐみと別れ、帰宅途中の高倉をけたたましいサイレンが追い抜いて行った――


「まさか……」


 高倉の予感は的中した――


 家に着いた時には丁度、雅美と優太が救急隊員によって外に運び出されていた――


「雅美っ! 優太っ!」 


「あんた、あたいが居ながら済まないね……優太が……茜は……」


「なにっ! あいつ等が……此処へ? 優太、確りしろっ!」


「親族の方ですね? 応急処置は済みました。命に別条は有りませんが入院が必要ですから後で手続きをお願いします。どなたか同行をお願いします」


「高倉。酷い目に遭ったな、誠真会の連中がとうとう関東に進出して来やがった」


「これは、斎藤さん……まさか、警察の方に助けて貰うなんて、面目有りません」


「助けたのはオレじゃねぇよ、あの子だ。あの子が通報していなかったら、今頃どうなっていた事やら……」


「えっ、七海ちゃんじゃねぇか? 通報してくれたんだってなぁ、ありがとうよ」


「もうっ! 父ちゃん、何やってんだよー、タコ焼き屋のおじさんが袋叩きにされてゲロったから通報したんよー、昨日からゲロばっかだお! 茜! 父ちゃん来たからもう大丈夫だよっ」


「父ちゃーん、母ちゃんが……兄ちゃんが……どうして、こんな酷い目に合されなきゃなんないのー、うわぁぁぁぁあ――――――――ん!」


 茜は父親の顔を見て安堵すると、抑えていた恐怖と感情が一気に込み上げて泣き出してしまった――


 そして、高倉が茜を抱き締めると、突然、めぐみの声が聞こえた―――


〝 悪行は恨みとなって消える事は無い ″


「フッフ、そうよ、消える事の無い悪行を消す為には……償いなんかじゃぁ追いつかねぇ、食うか食われるか、恨んでいる奴を始末する以外の道はねぇんだ……それが、お天道様の下を歩けない日陰者の宿命なんだよ……めぐみさん」


 救急車には茜と警察官が同行し病院に向った――


「高倉。奴等は昨日の巫女さんと財布を探している様だ。心当たりは有るか?」


「さぁ、心当たりが有りません。私は自治会長と同行していましたから、事の成り行きは、全く知らねぇんですよ」


 斎藤は高倉の嘘を見抜いていた――


「高倉。誠真会は川崎の村田組にワラジを脱いでいる」


「村田組に…………」


「警察としてもよぉ、治安維持の為に相模と横浜に挟まれた町田をくれてやったのに……却って奴等を調子に乗らせてしまったなぁ……でもよぉ、多摩川は越えさねぇからよ」


「へっへ、脅さないで下いよ斎藤さん。通りすがりの巫女さんと財布如きでマル暴が出張って来るなんて……大袈裟過ぎやしませんか?」


「おうっ、奴らが血眼になって探しているってこたぁ、財布の中身は裏帳簿か何かだろう。二代目誠真会は麻薬取引で莫大な利益を得ている。その金で銃火器を大量に密輸して抗争に備えている事は掴んではいるが、証拠が出て来ねぇんだ。当然、奴らも尻尾を掴まれる前に仕掛けて来るぜ。用心しな」


「…………へいっ」


 七海はふたりの会話を、こっそりと盗み聞きをしていた――――




 喜多美神社は神聖な空気と静寂に包まれていた――――


「めぐみ姉ちゃ――ん! めぐみ姉ちゃん!」


「あらっ、七海ちゃん、こんな時間にどうしたの?」


「大変なんだよー、タコ焼きがゲロって、茜の母ちゃんと優太がボコボコでピーポーなんだよー」


「何ですってっ! こうしては居られないっ! 典子さん紗耶香さん、今日は早退しますので後はよろしくっ! 七海ちゃん、お姉ちゃんは今日は遅いから学校が終わったら真っ直ぐお家に帰ってね、じゃあねっ!」


「めぐみ姉ちゃん…………」


 めぐみは参道を静かに歩き、鳥居をくぐると一礼をして陽炎の中に消えて行った――


「でも、めぐみさんって、あれで七海ちゃんと会話が成立するのが凄いわね……」


「めぐみさんはぁ、引っ張りダコで羨ましいですぅ、嫉妬しちゃいますよぉ」




 軌道エレベーターで天の国に戻ると、双子の巫女が出迎えた――


「あらっ、めぐみ様、こんな時間に、どうかしましたの?」 


「ちょっと、神官に用が有ってねっ!」


「ふーん、神官なら蔵の整理をしていますけどぉ……」


「それそれ、それに用が有るのっ!」


 蔵の中では神官がめぐみの要望の銃火器を探していた――


「ふうっ、これもダメですねぇ……」


「あー、居た居た。神官っ! ここにあるヤツどれでも良いの?」


「ダメですよっ、使用許可が下りないんですよ。ふうっ」


 めぐみが神官のパソコンを覗くと、銃火器のリストが有った。しかし、殆どが持ち出し禁止になっていて、途方に暮れた――


「めぐみ様。刀剣なら全て持ち出せますが、銃火器となると…………」


 双子の巫女が後ろから声を掛けた――


「それならぁ、ハッシュタグを付けて、検索すれば良いのではありませんかぁ?」


 アドバイスをされて神官は検索をし直した――


「うーん、#広島、#軍港、#第二次世界大戦、#三国同盟、#戦後、#抗争、#神様…………ポチっと」


 すると、パソコンが読み込みを始め、画面が待機中になった――


「おやっ! ヒットしましたよ、驚き! なるほど……死神と鎌で検索すれば良かったのですねぇ……」


 神官が蔵の奥へ行き、台車に積んで持って来たのはナチス・ドイツ軍のマシンガンだった――




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