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令和残侠伝―死んで貰います。

 高倉の表情に翳りが見えた――


「半グレの中身は暴力団準構成員だ。蟻の一穴、隙を見せりゃあ、直ぐに食われる弱肉強食の世界なんでねぇ」


「だったら、昨日みたいに警察を呼べばいいじゃないですか?」


「あっはははっ! 冗談でしょ? はははっ、笑わせないで下さいよ。めぐみさん、極道が警察に助けを求めるなんて、はははっ、こいつは面白えや」


「血の臭いの原因は……これなのね……」


 めぐみの予感は確信に変わっていた――


「めぐみさん、極道ってのは肩で風切って居る様に見えても、お天道様の下を歩けない日陰者だよ。誰かの作ったルールに従う道理が無えから、手前勝手に生きているんだ。神社に結界が有る様に、入れ墨は堅気との結界であり決別なんだよ」


「決別……ですか?」


「あぁ、若い頃は気が大きくなって、やりたい放題やっても、厳しい上下関係や締め付けで堅気に戻りたいって……里心みてぇなものが起きねえようによ。俺達は真人間には戻れねえんだよ」


「高倉さん、この世に真人間も極悪人も居ませんよ。善行と悪行が有るのみです。その親分を利用しているのは誰ですか? 企業ならそこで働く者、政治家なら、その政治家を選んだ者も全てが悪ですよ」


「めぐみさん。めったな事は云うもんじゃ有りませんよ。まったく、とぼけているのか、お見通しなのか……はっはっは。散々、仕事をさせておいて、いざ支払いとなりゃあ反社だからと踏み倒す企業が一流と言われている世の中だ……」


「でも、何とかしなくては……このままでは、死人が出ますよ……」


「茜がねぇ、悪行は恨みとなって消える事が無いってさぁ……何度も何度も言うんだよ。でもよぉ、償う事なんて出来やしねぇ! 日陰者は誰も守っちゃくれませんよ」


「高倉さん!」


「もうこれ以上、関わっちゃいけませんよ! それじゃ、あばよっ!」


 めぐみは去って行く高倉の後ろ姿に死相を見た――



 その頃、ニ代目誠真会は大騒ぎになっていた――


「おうっ! 浴衣を着た小娘にやられたなんて、ゆい訳が通用するとでも思うとるんか?」


「嘘じゃなぃんじゃ……信じてつかぁさい……」


「縁日でジャブを打つはずが、カウンターパンチを食ろぉたなんてぇ事が、下の者に知れたら示しがつかんのぉ」


「あの財布に、貸金庫のカードキーが入っとった以上、只じゃぁ済まんぞ」


「ワレ、ちゃっちゃと取り返して来んかいっ!」


「へぇ、すぐに取り返して来ますけぇ、どうか許してつかぁさい」


 三人は慌てて出て行った――


「じゃがよ おやじさんよお……岩田の腕を捻り上げて、杉浦にコテを投げて突き刺すなんてこたぁよ……普通の人間にゃぁ、出来ねえ仕業で」


「その小娘が奴らの仲間だとすりゃぁ、手遅れかも知れんね」


「こうなったけぇゃぁ、殴り込んで、力ずくで奪い返すしか有らんぜ!」


「まあ、待て。カチコミなら三人が戻って来てからでも遅ぉはなぃんじゃ。東京の連中に挨拶代わりじゃけぇよ。取られたもんを取り返すだけじゃ、タマを取ると面倒じゃけぇ生かしとけ」


「へいっ!」



 三人が再び縁日に現れると、そこに優太と茜の姿は無かった――


「おうっ! 昨日ここにおった小僧と小娘はどこにおるんか言えっ! ゆわんと痛い目に合わせるぞっ!」


「何処って……昨日あんたらが、店を壊したんだろーよっ! 居る訳無いだろう……」


「ワレ舐め腐っとるなっ! ヤサが何処か言わんかいっ!」


 隣の模擬店でたこ焼きを売っていた男が、路地で袋叩きにされ自白を強要されると、耐え切れずに白状してしまい、三人の男達は高倉の自宅に向った――



 血の臭いと重苦しい空気が漂う中、七海はひとりだけ心が晴れ晴れとしていた。暴走族から足を洗い、めぐみのお陰で対立関係だった幼馴染の茜と優太と仲直りが出来た事がとても嬉しかった――


「茜がねぇー、あっシに償うだなんて言っちゃってさぁ……きゃはっ! そうだ昼休みに縁日に顔出してみっかな。酷い目に遭ったから落ち込んでるかもしんねぇーし、手伝う事が有るかも! うふふっ」



 模擬店はブルー・シートが張られたままで、ふたりの姿は無かった――


「あんだお、いねぇーのかよっ、チッ、無駄足かぁ……ん? それにしても臭ぇーなっ!」


 隣のタコ焼きが真っ黒焦げで、炭化して煙さえ出ていなかった。誰も居ない模擬店の異変に気付いて周りを見ると、地べたに這いつくばり血だらけの男が居た――


「ちょっと、おじさんっ! 怪我してっけど、大丈夫?」


「うぅ……あんたは昨日の……うっ……あいつ等がよぉ、取り返しに来たんだよぅ……財布を……ぐぅっ、兄貴のヤサを言っちまったんだ、助けを呼んでくれ……頼む……あぅっ」


「おじさんっ! しっかりしてっ! 今、救急車を呼ぶからっ!」 



 めぐみの予感は的中した。だがそれは、想像を遥かに超えるものだった――


「ドン、ドン、ドンッ!」「ドン、ドン、ドンッ!」「開けろっ!」


「誰だい、まったくもう、そんなにドアを叩くんじゃないよ」


雅美がカギを開けた瞬間、勢いよくドアが開け放たれると、男達が土足で上がり込んで来た――


「何だいっ! 何をする気だよっ! 手荒な真似をするとタダじゃ済まないよっ!」


「威勢のええ女じゃ! 昨日のガキどもを出さんかい!」

 

「う、うちの子が何をしたって言うんだよっ!」


 岩田は雅美の髪を掴み引き摺り倒すと、容赦なく平手打ちを食らわせ、口の中が切れて血を吐いた――


「うちの子に指一本でも触れたら許さないよ、さっさと出て行きやがれっ!」


 雅美は子供たちを守るために必死の抵抗をしたが、岩田が固めた拳で顔面を殴ると気を失ってしまった。茜と優太は奥のダイニングでお昼ご飯を食べていた――


「茜、何だか玄関が騒がしいから見て来るよ」


杉浦と山田が玄関から中に侵入してきた――


「ガッシャ―――――ン!」


「あっ、おまえ等!」


「おうっ! ワレ、昨日の財布どこにした? ちゃっちゃと返さんと、おかんの命はないぞコラッ、出さんかい!」


「母ちゃん! ちっくしょうっ、財布なんか知らないよっ! おまえ等が勝手に何処かに落としたんだろっ! 人のせいにすんなっ!」


「こんガキゃぁ! 何をとぼけとるんじゃーっ!」


 気を失った雅美を蹴り飛ばすと、優太の頬と左目を思い切り殴り、その勢いで優太はダイニングテーブルの角に頭をぶつけて倒れると身動き一つせず、床に血溜まりが出来て行くのが分かった――



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