運命の人は無言、エロっぽい。
めぐみの眼光が鋭くなり、瞳の奥がキラリと光った――
「この期に及んで、まだ分からぬとは……戯け者を絵に描いた様な奴だっ! ヤリ捨てた九百二十八人の女性の中にお主の運命の人が居るのだ! 覚悟を!」
「えぇっ! マジでぇ? この中に僕の運命の人が居るの? まぁ、都内の良い女なんて……皆、僕の所有物みたいなものだからさ。フッ、驚きはしないよ」
「ほほう……心の準備が出来ておるとは、お見事! 流石、千人斬りの木村殿だ。それでは早速、始めよう」
「始める? 何を?」
「木村殿、お主がこの巨大ルーレットのボールになって、ポケットに入って貰う。それが運命の人なら……真実の愛を掴んで、このカジノから出る事が出来るっ!」
「チョ、待てよっ! ボールって、僕がアレに入るの? 罰ゲームじゃん。それに、選んだポケットが違ったら……どうなるのさ? まさか、当たるまで帰れません、みたいな事? 選べないなら賭けじゃないでしょ? 運命の人を当てたら、この中から一番、良い女をお持ち帰りに出来るとか……無いの?」
「木村殿、これは賭け事。答え合わせは……出来ませぬ」
「賭け事? 冗談じゃない、虐めだよ! 虐待だよ!」
木村が怒って帰ろうと一歩、足を踏み出した瞬間、運命のルーレットが回り出した――
「うわぁ――っ! どんどん早くなっている! クソッ、足が追いつかない……」
木村は足がもつれ、盤上を転がり続けた――
「うわぁああ―――――――――――――――っ!!!」
そして、回転速度が落ちて止まりそうになった時、木村は朦朧とする意識の中で、ポケットの女性を選り好みした――
「ミス・キャンパスか……モデルの彼女か……妥協して、ギャルのあの子でも良いかなぁ……」
だが、無情にも三半規管が壊れて、目指した女性とは別の方向に勝手に足が向かい、パニックになった――
「チョ、待てよっ! それじゃないって、ちげーよっ! 数をこなす為にヤッた女なんて、ヤリマンなんて嫌だぁ――――――――っ」
必死で走り続けたが、ルーレットが止まった瞬間、つまずく様にポケットに落ちた――
見上げると、そこには見目麗しい社長令嬢が居た――
木村は笑顔になり喜んで立ち上がると、頬を平手打ちにされた――
「馬鹿にしないで下さい! あなたを信じた私が馬鹿でした……最低っ!」
「チョ、待てよっ! 誤解だって、君だって楽しんだでしょう?」
めぐみの神判が下りた――
「はい、ハズレ―――っ、次行ってみようっ!」
無慈悲にもルーレットが回り始めると、木村は慌ててボールの中に入った――
「走るくらいならこの方がマシだ、何とか運命の人を見付けなけば……」
轟音を響かせて回っていた運命のルーレットが止まり、ボールはポケットに落ち、木村はボールの中から出ると安堵した――
「ダンサーで、アスリートの……ナイスバディの彼女なら……まっ、いっか」
「なによ今更! ざけんじゃないわよっ! そんなみっともない顔で『まっ、いっか』とか笑わせないでよっ!」
ダンサーでアスリートでナイスバディの彼女は、格闘家に転身していて、右ストレートからの回し蹴りで、膝を突いた木村に踵落としをお見舞いした――
「チョ、待てっ……いえ、結構です」
「はい、ハズレ―――っ、次行ってみようっ!」
無慈悲に回り続けるルーレット。木村は美人、ブス、ヤリマン、不思議ちゃん、美人、美人、エロい、ブス、デブ、豚、エモい、キモい、と目の前を走馬燈の様に過ぎ去って行く女性の品定めに苦しんでいた――
そして、ポケットの女性たちが口を開いた――
「その顔で生き続けるのが本当の罰ゲームじゃないの、ざまぁ!」
「死んだ方がマシなら、今直ぐにでも、ユー、死んじゃいなよっ! あはは」
「顔しか取り柄の無いあんたは、もう、お終いデス!」
九百二十八人の女性達の恨み節が炸裂して木村は泣き崩れた――
「どうしてだよ……皆、僕との夜を楽しんだ癖に、恨み言ばっか言いやがって! ざけんなよっ!」
めぐみはニヤリと笑うと核心に入った――
「木村殿、お主は中学、高校と女性に裏切られた事で女性不信になり、その反動で大学に入ってから遊び放題。運悪くモテたものだから、ひとりふたりと経験すると味をしめ、次こそは運命の人に出会えると期待した。だが、次に期待すればするほど愛を見失い、何時しか直霊が曲霊となり、何時の間にやら何十人。そして、それに気付かず、女を弄ぶようになった。哀れよのぅ……」
「そうだよっ! 全部お見通しなんじゃないかっ! もう、弄ぶのは止めてくれっ!」
「皆の者、笑ってやるが良いぞっ! はぁーはっはっはっ、はっはっは。モテない男の気持ちも、弄ばれた女の気持ちも少しは分った様だな。褒美に、お主の運命の人を教えてやろう」
「ざわ…ざわ…」「ざわ…ざわ…」「ざわ…ざわ…」「ざわ…ざわ…」「ざわ…ざわ…」「ざわ…ざわ…」
「お主の運命の人は……あの人だっ!」
めぐみが指を差した先に居たのは、身長百五十五センチ、体重七十キロ、眼鏡を掛けたぽっちゃりさんだった――
「おぉぉお―――――――――――――っ!」
「チョ、待てよっ! 歓声とか要らないからっ! 運命の人ってアレ? 本当に、アレが僕の運命の人なの? まさかぁ、嘘でしょ? 僕だよ? 僕にも選ぶ権利が……無いの? マジかっ!」
「こんにちは。江藤静香でぇーす」
「えっ、君、会った事有った? 全然覚えてないんだけど……僕の事を知っているの?」
「………………」
「無言かよっ! 色っぽくねぇーしっ! 何か言えよ!」
「木村殿、九百二十八人の女性の中で唯一、ひとりだけお主を笑ったり罵倒せず、無言を貫いている事が運命の人を証明しているのだっ!」
木村はショックのあまりに慟哭した――