出現! 運命のルーレット。
―― 恵慈医大病院 ――
「木村様―― 木村克也様―― 診察室にお入り下さ――い」
「ハイ、どうしました?」
「すみません、今朝、起きたらこんな事になってしまい……どんどん大きくなっているので診て貰えますか?」
マスクを外すと看護師が悲鳴を上げた――
「キャ――ッ! 先生、変態ですっ! もとい、大変です! 鼻がとんでもない事になってます!」
「おやおや? これは…………先週はおカマの人が妊娠するし、今週は顔にチンコが生えた人と遭遇するなんて……この地域の患者はどうなっているのかね?」
「先生、垂れ下がって唇に届いてます」
「君ねぇ、見れば判りますよ。少し持ち上げて気道を確保して下さい」
「先生、少し固くなってきました。うふふっ」
「君っ! 『うふふっ』じゃないでしょう? 患者さんは苦しんでおられるのだから……どれ」
「先生! 伸びていますっ! しかも、カッチカチですぅー、うっふん」
「君っ!『うっふん』はいけませんよっ!『うっふん』は! しかし、まるで天狗の様だな……」
木村は懇願した――
「お願いします、治して下さいっ! これじゃあ……死んだ方がマシですっ!」
「先生! 触診の準備のために消毒をしたら、ドックン、ドックン脈打って……いやぁーんっ!」
「君っ! こすっちゃダメだろ? 刺激してどうするのっ!『いやぁーん』とか、そんな声を出しちゃダメでしょっ!」
「あっ! 先生……こんなん出ちゃいましたぁ……はぁうぅっ!」
「君っ!『はぁうぅっ』て何だね、変な声を出したり変な汁を出すんじゃありませんよっ! けしからん……どれ。うーん、鼻水ではなさそうだ……」
木村は色んな意味で果てていた――
「病院でも何も分からないなんて、どうすれば良いんだよ……もう、終わりだ! こんな顔で生きて行ける訳が無い……クソッ!」
鏡に映る自分の情けない顔を見ていると自然と涙が溢れて来た。そして、何処からともなく、めぐみの声が聞こえた――
〝 恥知らずよ、恥を知れ ″
「めぐみさん? どこに居るのっ! もしかしたら……これが神罰なのか?」
夏の真昼の静かには――
喜多美神社の蝉も鳴き止み――
神聖な空気と静寂に包まれていた――
木村は一縷の望みを託して鳥居をくぐった――
「めぐみさん、この間はゴメンね、実は……教えて欲しい事が有るんだ。チョッと良いかな?」
「これはこれは『千人斬り』で有名な木村さーん! 一体、何の御用でしょう? 教えて差し上げる事なんて何も有りませんよ。うふふっ」
「しぃーっ! 大きな声を出さないで。からかわないでくれよっ! マジで大変なんだよ……ほら、こっち見てるじゃん、内緒で話がしたいんだよ。頼むよ……」
真夏だというのに、顔の下半分にスカーフを巻いている木村の姿を、典子と紗耶香が怪訝な表情で見ていた――
「大変? 何が大変なのか全く、分かりませんねー。典子さん、紗耶香さん! 来て来て、このスカーフの中が大変なんですってっ!」
「チョ、待てよ! 何で呼ぶんだよっ、スカーフの中って……知って居るじゃん!」
三人の巫女に囲まれ、木村は覚悟を決めてスカーフを取った。すると、典子と紗耶香が悲鳴を上げた――
「キャァァ―――――ッ! イケメンがエレファントマンになっているっ!」
「いやぁ――ン、キモイって言うかぁ、エモいって言うかぁ、エロいって感じでぇ―、眼のやり場に困りますぅ――っ!」
典子と紗耶香は顔がフルチン状態の木村を見て、顔を両手で覆ったが、中指と薬指の間からシッカリと見ていた――
「あーぁ、でも、何だかスッキリしたよ。もう隠す事は何もない……めぐみさん、これが神罰なんだろ? 僕が悪かったよ……どうすれば許して貰えるの? 助けてくれよ……頼む」
木村は泣き崩れ、めぐみに土下座した――
典子と紗耶香はその姿を見て哀れに思い、木村の腕を両脇から抱える様にして立たせた――
すると、顔のチンコも立った――
「えぇいっ! 反省して居るフリをして、何気にふたりのおっぱいの感触を確かめるなど言語道断っ! しかも、フル勃起など有り得んっ! 成敗してやるっ!」
めぐみは木村の腕を掴むと昇殿し、拝殿を抜け本殿に閉じ込めた。木村が必死で扉を開けようとすると、床が抜け奈落の底に落ちて行った――
「うわあぁぁ――――――――――――っ!」
暫くの間、気を失っていたが、生暖かい風が「どうっ」っと吹いて目を覚ました――、
「ここは何処? 真っ暗で何も見えないよ……何でも言う事を聞くから、助けてくれ、お願いだよ……めぐみさんっ! 居るんだろっ? 出て来てくれよっ!」
すると壁のランプがひとつ、ふたつと点き始めると、一斉に点灯し、天井には見た事もないスケールのシャンデリアが輝き出した――
「ようこそ、千人斬りの木村さーんっ! 見ての通り、ここはカジノよ。あなたは賭け事が大好きでしょう? だから用意したのよ、ほら」
木村は目を疑った。目の前には千のポケットが有る巨大なルーレットが出現した――
その広さは国立競技場クラスだった――
「チョ、待てよっ! ルーレットなんてやっている場合じゃないって! 分かるだろ? からかうのは止めてくれよっ! 頼むから真面目にやってくれよ」
「ほほう、真面目にと……お主が千人切りと豪語するから真面目に千のポケットが有るルーレットを発注したが、サバを読んで見栄を張ったなっ! 実際には九百二十八人ではないかっ! 経費を無駄にさせおって……」
めぐみが指をパチンと鳴らすと、九百二十八人の遊ばれてヤリ捨てられた女性達が入場して来て、ポケットに座った――
「何をする気だ? 君達が、どうして此処に? これから一体何をするんだっ! 教えてくれ――っ!」
「ざわ…ざわ…」「ざわ…ざわ…」「ざわ…ざわ…」「ざわ…ざわ…」「ざわ…ざわ…」「ざわ…ざわ…」
木村の鼻は恐怖に縮み上がっていた―――――