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テングになるなら天狗になーれっ!

 めぐみはピッチャーの水を飲ませると、頭から掛けた――


「木村! 木村、しっかりしろっ!」


 ぼんやりとした景色の焦点が合い像を結ぶと、のぞき込むめぐみの顔が見えた――


「うぅっ……めぐみさんっ、無事だったんだね………良かったぁ………」


 木村はそう言うとめぐみの胸の谷間に顔をうずめようとした――


「何が『良かったぁ』だぁ? この戯け者がっ! お主のせいで危機に晒されたのだっ! ドサクサ紛れに人のおっぱいの感触を確かめようとすなーっ! このお調子者がっ!」


 幸いな事に木村が下戸だったため、地下駐車場から車を出し、めぐみを送って行く事になった――


「めぐみさん、君のお陰で助かったよ、サンキュッ!」


「ったく、まんまと騙されて、情けないわねぇ」


「ちげーよっ! 騙されてなんかいないって、あいつ等の言う事を信じるの? 嘘でしょ? めぐみさんだってヤバかったじゃん!」


「あなた『千人切りの木村』で有名なんだって? 最低!」


「いや、待って、待って、僕はサークルとは関係無いから、誤解しないで。あいつ等は何時も僕のおこぼれに与かっていただけで、まさか、レイプなんて……考えてもいなかったんだよ」


「まーだ、言ってる。一応、救急車は呼んでおいたけど、サークルの坊や達は自業自得だから、どうなろうと知った事では無いわ。でも、木村君。あなたもこれで済むと思ったら大間違いよ」


「えっ……もう済んだ事じゃん、水に流そうよ」


「済んでなんかいないのっ! 神社の御神木に壁ドンしたり、巫女を口説いたり、しかも、その理由が男同士で賭けをして『巫女とヤレるか』だぁ? この罰当たり者がっ! 覚悟して神罰を受けなさい」


「脅さないでくれよ……めぐみさんには迷惑を掛けたけどさぁ。でもさ、女の子が付いて来ちゃうから仕方ないだろ? 皆、僕の彼女になる事が自慢だったんだ。僕が相手をしてあげていたんだよ。フッ、モテる男は辛いのさ。分かってくれるよねっ!」


「学習能力が無いと云うか……懲りない男ねぇ、忠告してあげる。巫女の前で軽口を叩くのは止めた方が良いわよ、天の神に筒抜けだから。好い気になってテングになっているけど、モテ期なんて一瞬よ。あなたなんて直ぐに誰も見向きをしなくなるわ」


「フッ、だからぁ、強がらなくても良いよ。僕の前では肩の力抜いて良いんだよ?」


「残念でしたーっ! 最愛の人が私を待っているのっ! 夕飯を買って帰るから。あっ、そこで降ろして」


 車はハザードを付けて停車した――


「じゃあ、めぐみさん! 今度はふたりっきりで……邪魔者無しで会おうねっ! フッ」


 木村が精一杯、強がっている事をめぐみは知っていた――



「ただいまー、今帰ったよんっ!」


「おかえりー、めぐみ姉ちゃん、早かったねぇー、お務めご苦労さんですっ!」


「刑務所帰りみたいに言わないの。ふーん、クンクンして酒臭ぇーとか、遅ぇ―よっ、何処ほっつき歩いてんのー、とか言われると思ったのに、拍子抜けだわ」


「だって、典子さんと紗耶香さんが任務だって言ってたしさぁー、あんなチャラ男は糞野郎だって事くらい、めぐみ姉ちゃんは知っているでしょ? あっシは信じてっからさっ!」


「そうね、誰かと違って七海ちゃんは学習能力がハンパ無いねっ、七海ちゃんは良く分かっているよ。関心、安心」


「安心?? ねぇ、めぐみ姉ちゃん、その手に持っている奴は、もしかして……夕飯?」


「そうっ! ミシシッピー・バーベキュー・ボブのスーパー・バーレル!」


「やったぁ――――っ!」


 ふたりは手と口をベタベタにしながらチキンとポークリブにかぶりついた――


「しっかし、此処まで大味だと、ぐうの音も出ねぇっつーか、天晴れだお、クッソ旨いなぁ……フレンチフライもガリッガリのハードで止めらんないよぉー」


「確かにそうね、ホワイトソースが更に追い打ちを掛けて、癖になるわねっ!」


「マリネがスゲーんだよっ。トマトとホットチリでシンプルだから、尚更、肉の味が強調されてんのよー、参った、降参っ!」


「七海ちゃんは研究熱心で良いわね。うふふっ」



――翌日


 木村は目を覚まし、何時もの様に洗顔をしてタオルで顔を拭くと、鼻の頭が赤く腫れている事に気が付いた――


「昨日の騒ぎでどこかにぶつけたのか……覚えてないなぁ……ま、いっか」


 だが、街を歩けば人が目を逸らし、女子高生が走り去って行く。電車に乗ると小学生がクスクス笑い、おじさん達はマジマジと顔を見ている――


「なんだよっ! 気分悪いなぁ……人の顔をジロジロ見るなよっ、失礼だろ」


 電車を降りてトイレに入って顔を見ると唖然とした――


「うわぁ、こっ、これは一体! どうなっているんだ……鼻が、鼻がペニスの様になっているっ! これじゃ恥かしくて、人前に出られないよ……」


 〝 何時までもモテると思うな、調子に乗ってテングになっているお前にはお似合いだ ″


「めっ、めぐみさん?」


 木村は焦って周りを見回したが、めぐみの姿は見えなかった。そして、僅か数分で木村の鼻は原型が無くなり、見事なチンコに成長していた――


「うっわぁっ! 何だよコレッ! マスクしても隠せなくなっている……とりあえず病院に行かなければ」


 木村はイケメンでなくなると、何の取り柄も無い自分に絶望した――



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