騙したつもりが騙されて。
めぐみを乗せた車は渋谷に向っていた――
木村のホワイトニングした白い歯が夕日にキラキラ輝いていた。地下駐車場に停めて、少し歩くと到着したのは会員制のクラブだった――
「やあっ! 皆、紹介するよ。鳥居の中に咲く一輪の薔薇……めぐみさん、こっちへ来て!」
「こんばんは、鯉乃めぐみでーす。よろしくねっ!」
「おぉぉ――――――――っ!!!」
クラブは大いに盛り上がりザワついた。そして、何故かバーテンダーがカウンターの中でしゃがみ込み電話をした――
「もしもし、安田先輩! 大変ですよ、木村が本当に巫女を連れてきましたよ!」
「えっ、木村が? アッハハッ『どんなナンパ師でも竿師でも巫女は落とせないぜ』って、からかったのを真に受けやがって、あの馬鹿、賭けに勝ったつもりでイキってんだろ?」
「もうヒーロー気取りで大変ですよ」
「馬鹿な野郎だ。クックックッ、まぁ、こっちは騙されたフリして利用するだけだからな」
「サークルのメンバーに連絡しますか? それとも………ヒッヒッヒ」
「そうだなぁ………ひとりでヤッてもつまんねぇーからなぁ。巫女って事は、処女だろ………カメラ用位してフルメンバーで輪姦そうぜっ! ケッケッケッケ、面白くなって来たぜ!」
招集をかけられメンバーが続々と集まった。そして、木村をおだて上機嫌にさせてほくそ笑んでいると、程なくしてラスボス安田が到着した――
「ハアァ――イ! 木村君! やっぱ、君はその辺のヤツとは違うなー、有限実行、賭けはオレの負けっ! 完敗だから乾杯しようぜっ!」
「だから言っただろ? この僕に落とせない女なんて居やしないのさ。フッ」
木村は騙されている事も知らず、めぐみを残してVIPルームに連れて行かれた――
めぐみは何も知らずに「スペシャルサワー」と称するアルコール度数96のスピリタスをサワーに混ぜたものを飲まされていた――
「うぇ――――いっ! 乾杯! 何か楽しくなってきちゃったっ! 皆、飲んでる?」
「いえ――――――いっ! 巫女さんノリが良いねっ! もっと飲んでっ! 乾杯!」
メンバー達はめぐみの飲みっぷりに、速攻で泥酔して意識を失う事を確信した――
「ヒッヒッヒ、インカレサークルの正体がレイプサークルとも知らずに、女って馬鹿だな」
「スペシャルサワーの後はオレ達のスペルマシャワーだからなっ! チョロいもんよっ!」
「こんなに美人の巫女を皆でヤレるなんて、ゾクゾクするぜっ! 今夜は最高!」
「アーハッハッハッハッハッハッハ―――――――」
VIPルームは不穏の空気に満ちていた――
「賭けに勝った以上、約束通りナンバーワンの座を降りてもらうよ。今後のイベントは僕が取り仕切る。リーダーとして君臨するのは僕だから。分かったね、安田君」
「賭けに勝った? お前、本気でそう思ってるの? リーダーはオレだ。お前はオレのパシリだ。獲物を捕獲してこのオレに献上したって事が、まだ分らねぇ―のかよ、バーカ!」
「何っ! 獲物って……まさかっ!」
「そのまさかだよ。あの巫女はこれから皆で輪姦して楽しむんだよ。クックック、そんな事も分から無ぇ―のかよっ! お前もヤリたかったら、このオレに土下座しろやっ!」
「ざけんじゃねーぞっ! 糞野郎!」
木村は激昂し、安田の胸座を掴み、思い切り殴ろうとしたが、足がふらつき意識が朦朧とした――
「飲み物に何か入れやがったな……クソッ!」
「今頃かよっ、木村さーん。フッフッフフ、お前はお人好しを通り越してトロいんだよ。バーカ!」
「クソッ、身体が言う事を聞かない……目が回る……」
木村はドラッグのせいで意識を失った――
安田は二ヤリと笑うとVIPルームを出て、皆の待つホールへ向かった。しかし、そこで見たのは想像を絶する恐怖だった――
「何だこれはっ! 皆………どうしたんだ………確りしろよっ! オイッ!」
レイプサークルのメンバーが全員が酔い潰れて意識を失い倒れていて、身動きひとつしない。ふと目をやるとカウンターにはめぐみとバーテンダーが居た。バーテンダーの顔は土気色をしていて、生気を失い、奥歯をガタガタと震わせていて目には涙を浮かべて居る様だった――
安田は大声で叫んだ――
「どうしたんだっ! 何が有ったんだよ………どうしてこんな事に………何か言えよっ!」
薄暗い間接照明の中で目を凝らして良く見るとバーテンダーの右手にはアイスピックが突き刺さりカウンターに打ち付けられていた――
めぐみはバースプーンをクルクルと回していて、ブラックライトも無いのに巫女装束が白く輝いていた――
「これは、お前の仕業だなっ! こんな事をしてタダで済むと思っているのかっ!」
「フッフッフフ、ハッハッハッ 騙されているのに騙せていると思って疑わない、馬鹿で間抜けな安田さーんっ! これは天照大御神からよっ! 食らえっ!」
めぐみが手裏剣を投げる様に持っていたバースプーンを投げると、まるで弾丸が如く飛んで行き、安田の額に突き刺さった――
「ギャアァ―――――――――――――――ッ!」
バースプーンは頭蓋骨に突き刺さって抜けなかったが、力いっぱい引き抜くと血が噴き出し、安田はその血を見ると逆上した――
「このアマ! ぶっ殺してやるっ!」
そう叫ぶと、近くに有った椅子を持って襲い掛かったが、めぐみはひらりと体を躱して背後に回り、頸動脈にペティ・ナイフを突き付けた――
「大人しくなさい! 動かない方が身のためよ。ここを切ると、血がドバーッと吹き出して止められないのよー。二十秒位で気持ち良ーくなるわ。失血死って言うんだけど、救急車は間に合わないわねぇ………」
「助けてくれっ、何でもするから………」
「ホントですかぁ? 安田さーん。めぐみ嬉しいぃー、じゃあ、仲良く乾杯しましょー、うふふっ」
安田とバーテンダーはめぐみの監視の下で店の有りっ丈の酒を飲み切った――
「さーてと、急性アルコール中毒で死ぬか、助かるかは………天の神に任せてっと。もうひとりのポンコツ野郎を始末しなければならないわね」
朦朧とする木村に活を入れ、横っ面にビシバシと平手打ちを食らわせた――