肉体関係と純愛関係。
「我慢をし自分を押し殺せば殺す程、そのお腹の胎児は成長し、そして痛みが増すのです。お腹の子はイッケイさん、あなた自身です!」
「痛い!うぅっー、痛い!ぐうぅっ、助けて……」
痛みを堪えて顔を上げると、千早を羽織り、頭には前天冠を着け、長い黒髪を後ろで絵元結にしためぐみが鎖鎌を持って立っていた――
ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン、シャ―――ンッ! クルクルクルッ!
イッケイの身体に鎖が巻き付き身動きが出来なくなり、めぐみの眼光が鋭くなった――
「本当の自分が―― 押し殺した自分が、殻の中で死にそうになっている! 生かすか殺すかっ! 今直ぐ返答せい!」
「へ、返答せいって…… 産める訳が無いじゃないのっ!」
「うむっ、あい分かった! 堕胎するぞっ! これまで耐えてきた自分に別れを告げよ!」
めぐみが鎖を手繰り寄せて行くとイッケイの顔は恐怖に歪んだ。そして、倒れて仰向けになったイッケイの大腿部に馬乗りになると、鎌でお腹を掻っ捌いた――
「キャアァァ――――――――ッ!!」
めぐみが胎児をお腹から取り出すと、それはガラスのボール様な殻に覆われていた――
「お腹を切られたのに痛くない…… お腹の陣痛も取れた! 血も出ていない…… どういうことかしら……」
めぐみが取り上げた殻の中の胎児を見ると、苦悶の表情にそれが自分自身だと分った――
「さあっ! イッケイ殿っ! この胎児の息の根を止めればもっと楽になります、覚悟は良いかっ!」
「待って、殺さないでっ! 私を殺さないで…… なんて可哀想な私…… お願い殺さないでっ!」
めぐみの瞳の奥がキラリと光り、ニヤリと笑った――
「その願い聞き届けたぞっ!」
そして、鎌を振り上げ――
「えいぃ――――――――――つっ」
胎児を閉じ込めたガラスの殻を打ち破った――
殻は粉々に砕け散り直霊の胎児は解放されるやいなや、見る見るうちに成長してイッケイと同体となり身体の中に入って消た――
「イッケイ! イッケイ! 起きろよ、大丈夫か? お前が酔い潰れるなんて珍しいな……」
「あっ、義男さん……」
目を覚ますとそこはビストロ・フルール・エ・レーヴだった――
「どうして此処に…… こんな不思議な事って…… 夢? まぼろし?」
「ワイン二本も飲んでおいて、何言ってるんだよ」
イッケイは夢の中なら正直に言えると覚悟を決めて正直に告白をした――
「義男さん。私はあなたを愛しています! ずっと……出会った時から……」
「ああ、知っているよ」
「えぇっ!」
「アッコが何時も言っていたんだよ『あなたは私とイッケイさんに愛されて幸せね』って」
「敦子さんが……そんな事を……」
「イッケイ、俺もお前を愛しているよ! 心からね」
「義男さん、本当? 嬉しい、嬉しくて涙が出ちゃう」
「気が付くと何時もお前に支えられていたんだ。傷つけられても歩みを止めず、前進し続けるお前に励まされていた事に気付いたんだよ。只……」
「只…何よ? ハッキリ言って!」
「お前と肉体関係にはなれないなぁ……と思ってさ。まぁ、これが現実さ」
「げぇんじーつ――――――――――っ!」
「あっはははは、面白いなぁ、そういう所が大好きだよ! これからもよろしくなっ!」
小林はイッケイを優しく抱きしめた――
めぐみは天に昇り、鎖鎌の返却を済ませると「日報」を書いていた。
すると「そっそそっそそっそそっそ」と足の音と「サシサシサシサシ」と衣擦れの音が聞こえた。
足音が止まるとドアをノックした。
「コッツ コッツ コッツ」
めぐみが「はい、どうぞ」と言うと「ガチャッ」とドアが開いて双子の巫女が入って来た。
「チェケラ! チンコ連呼でぇ、仁術に忍術ぅ、胎児を退治ぃ、おカマを鎌でぇ ヘイッ、ヨー! どんだけぇ―――――っ! キャ―――――ッ! 今回は同性の恋愛なんでぇー、冒頭から下ネタ満載になるかと心配しましたわぁー」
「嘘吐くなっ! 期待していたクセにぃー」
「うふふっ、チョッとだけ期待しましたけどぉー、男同士のぉー 恋愛がぁー 最後は純愛になるなんてぇー 感動ですわぁ、泣けました」
「まぁ、男と女でも、お互いに尊敬し合うと言うのは難しいのよね……あのふたりはお互いを高め合う関係って事ね」
「納得ですぅー」
すると、足音も無く静かに神官が入って来た。
「うぉっほんっ! また、ドアが開けっぱなしですよ、困りますね。しかし、今回は同性の恋愛で大変難しい任務でしたが、肉体関係の無い恋愛を純愛関係にした事は天国主大神様が目を丸くして、高く評価されました。私はそこの日報を頂いて、これで」
「神官の歩き方が柳腰だったけど……もしかして?」
「まさかー!」
「…………」
三人は顔を見合わせて黙り込んだ。そして、双子の巫女が御守りを渡すと、冷たい甘酒をお盆に乗せて差し出した。
めぐみは甘酒をゴクゴクッと飲み干した。
「ん旨い! 夏は冷たい甘酒が最高! ありがとう!」
めぐみは二人の巫女に見送られて、軌道エレベーターに乗って地上へ戻って行った――
「ただいまぁ――っす」
「おかえりなさいっ! めぐみ姉ちゃん、遅ぇ―よっ! 又、イッケイさんとふたりでフランス料理かよぉ――っ、ズルいなぁ」
「行って無ぇーし、そんなにご馳走にばかりなれないでしょう? クンクンすなっ! 酒飲んでねーつーのっ!」
「あっシは腹ペコなんだよぉ!」
「ははーん、それで気が立っているのね。じゃあ、シースーでもつまむかい?」
「マジかっ! 夢にまで見た中トロ、コハダ、穴子にウニ、イクラ……」
「夢、見過ぎだからーっ!」
ふたりが夜の街に出ると、夜空には上弦の月が輝いていた――
「やってねぇ―――しっ! 何で定休日なんだよぉ――っ! フランス料理も寿司も、あっシの心を弄びやがってっ……ぐっすん」
「ラーメンで良い? ダメ。 じゃあ、中華は? ダメかぁ…… よしっ! 奮発してティボーン・ステーキにするよ! 七海ちゃん、それで機嫌直して!」
「マジでっ! ステーキ、オッケイ、素敵なイッケイ!」
「チェケラ?」
ふたりはステーキ・ハウスで食事をする事に決めた――
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