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胎児の退治。

 三宅様―― 三宅一慶様―― 診察室にお入り下さーいっ。


「失礼します……」


「どうされました?」


「お腹が張るのと…… 時々、吐き気がしまして……」


「症状を感じたのは何時頃からですか?」


「何時かしら? 焼肉を皆で食べに行った……五日位前だと思います」


「症状としては、まるで妊娠初期の様な感じですね……触診しますから、はだけて下さい……うんっ? これは随分張ってますねぇ……まるで妊娠後期の妊婦の様だ……」


 看護師が間髪入れずに耳打ちした。

「先生、こちらの方はおカマ、男性ですよ」


「知ってます。その位のこと知ってますからっ! 只、症状があまりも似ていると言ったまでです!」


「あの……先生、私の身体はどうなんでしょうか?」


「うーん、便秘でもないし、胃の具合が悪いと云う事でも無いですし、腹部膨満感とは症状が一致しませんね。念の為、エコーで診てみましょう」


「先生、三宅様は男性ですよ、大丈夫ですか?」


「はぁ? 大丈夫ですか…だぁ? 君ねぇ、私を誰だと思っているのっ! 地方の医学部卒の東京でマーケティングに明け暮れている金儲け主義の医師とは違うんですっ! 医は仁術! 人命を救う博愛の道を邁進する私に、何てぇー事を言うのですかっ! 帝大舐めんなっ! さっさと準備し給え!」


 おなかの外からプローブをあてた――


「キャ――――――――――ッ! 先生っ! 大変ですっ! 胎児が……胎児が動いています!」


「ほーら、見なさい『私、誤診しないんでっ!』 いやっ、そんな事を言っている場合では無い! 世界的発見だっ! 経膣プローブを準備して!」


「先生……何度も言うようですが男性ですから……膣は有りませんが……」


「分かってますよっ! 君しつこいね? 他の穴が有るでしょう? 肛門ですよっ! 世界初の症状なんですよ、肛門からイキますよ」


「あの……おふたりとも、お取り込み中ですが肛門から経膣プローブを入れるなんて拷問です! 勘弁して下さい。私、真剣に生きているんです……」



―――数日後


「困ったわ……つわりは止まったけどお腹がこんなに……週刊誌や周りのスタッフからも『イッケイさんが激太り』なんて言われてしまうし……このままではお仕事が来なくなっちゃう……マネージャーには内緒で…… もう一度、病院に行くしかないわね」


 しかし、予約も診察券も全てマネージャーに任せていて連絡先が分からなかった――


「そうだ、薬局でお薬を貰っていたから、それに書いてあるわね」


イッケイは病院で貰った薬をそのままにして手を付けていなかった――


 白い袋を開けると薬とその説明書と一緒に入っていたのはプリント・アウトした胎児の画像だった――


「キヤァ―――――――――ッ! こっ、これは……」




 喜多美神社は神聖な空気と静寂に包まれていた――



「めぐみ姉ちゃーんっ! 仕事終わった? 早く帰ろうぜっ! 新作のパンも焼いたんだよ」


「七海ちゃん、お疲れ様。私も疲れたし、帰ろう……ちなみに新作ってどんなん?」


「クイニーアマンとクレーム・ド・ブリュレ風のヤツ」


「うーん、何か似て非なるものって感じだけど……美味しいね!」


「だって、本物食った事ねーからっ! 苦労した割になんちゃってなんよー、フランス料理食わせくれよー」


「分かったわよ。でも、七海ちゃんはお洒落着を持って無いからなぁ……髪型と合ってないよねー、その毒々しい服。何時も美味しいパンを食べさせてくれるからお礼に買うか? 可愛いワンピでも?、お金はお姉ちゃんが出してあげるから心配すんなって!」


「マジでぇー! 大好きだよ、お姉ちゃん! 坂系のヤツ? スカートひるがえす感じ? スカートなんて女の子になった気分だお!」


「女の子だろ―がっ!」


「きゃははははー」



 そこにイッケイが現れた――


「あっー、イッケイさんだ! この間はカラオケに温泉に焼肉まで馳走になって、最高だったよー。マジでクッソ旨くて、他の焼肉が食べられなくなったよー」


「先日は本当に有難う御座いました。又、電話で失礼しました……」 


「めぐみさん、七海さん、今晩は。実は……めぐみさんにちょっとお話ししたい事が有るの。お時間頂いてもよろしいかしら?」


「はい。勿論です。七海ちゃん、先に帰って待っていて」


 そう言って、部屋の鍵を投げるとキャッチした七海はイッケイさんに別れを告げて去って行った――

 

 ふたりはひと気の無い神社の裏で話をした――


「めぐみさん、私……あの日以来、身体の具合が悪くて……病院に行っても原因が分からなくて……こんな事、あり得ない! 何か知っている事が有れば教えて欲しいの」


「お腹の胎児の事ですね」


「どうしてその事をっ! やっぱりめぐみさんは知ってたのね……」


「私では有りませんよ。天の国の神は何もかも見ています―― イッケイさんはこれまで、散々、傷つけられて来ましたね。そして耐えて来た……」


「だったら……だったら、どうして神様はこんな試練を……酷過ぎますっ!」


「イッケイさん、その中であなたは笑われても、どんなに侮辱されても耐える事を覚えました―― そして、いつしか自分を押し殺し、本来の直霊(なおひ)を殻の中に閉じ込め、受け入れているフリをし、傷ついていないフリをしましたね。そしてひとりきりで泣いていた――」


「……そう。全てお見通しなのね……女は何も気にせず女であれば良い。男も只、男でいれば良いけど…… おカマは常に女以上の存在にならなければいけないのっ! 存在価値が無いのよっ!」


「それは違います。あなたは類稀な才能をお持ちです。それは、誰も奪う事の出来ない物……神の与えたギフトです」


「才能なんて要らないわよっ! 類稀な才能なんて……苦しいだけじゃないのっ! 私は好きな人と一緒に慎ましく暮らして、歳を重ねて行きたかっただけなのに……」


「イッケイさん、報われないと知っていても、小林シェフを献身的に支えて来ましたね。諦めてはいけません、これからも愛し続けて下さいっ!」


「簡単に言わないで! 無理よ、義男さんは私の事なんか……」


「小林シェフの心の中には敦子さんが住んで居ます。だからこそイッケイさんの大きな愛でおふたりを愛して下さい!」


「そんなの無理よっ! そんな事……出来る訳ないじゃない……」


「小林シェフはもう二度と女性を愛する事は有りません。そして心の中の敦子さんだけでは、再び愛の亡霊に苦しめられる事になるやもしれません。イッケイさんが支えてくれれば敦子さんも喜びます!」

 

「えぇっ、敦子さんが…… うぅっ! 痛い、お腹が……」


 イッケイの陣痛はより強くなり、立っていられなくなった――

お読み頂き、ありがとうございます。



「面白かった!」



「続きが気になる、読みたい!」



「鯉乃めぐみは今後どうなるのっ…?」



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