ビフォーアフターと内緒のおねしょ。
イッケイは途中でドラッグストアに寄り道をして、ヘアカラーを買ってめぐみの部屋に上がり込んだ。
「おふたりとも、少し手直しが必要よ。めぐみさんは黒髪はそのままで良いけど、眉毛がダメ。七海さんは眉毛に髪型、その錆びた髪の色がダメね。やるわよっ! ゼッタイ、可愛くするから!」
そう言うと鏡越しにウインクをした――
「ゲジゲジ? 歯ブラシみたい―――っ!」
「えっ? そんなにダメですか?」
「きちんとカットしてー、長さを揃えてー、眉頭はこの位。眉山はほんの数ミリだけど整えて、眉尻に繋げるとー、ほらっ! こんなに美しくなるのよ―っ」
「すっげ―――っ、めぐみ姉ちゃんに透明感が出たっ!」
「そんなに曇っていたかしら? あっ……」
「ねぇ。ふふふふふふっ。じゃあ、今度は七海さんねー、髪のお色を変えてー、髪形も変えるから。ヤンキースタイルも良いけど……もう、卒業ねっ!」
「そんなに明るい色なん? でも……あっシは舐められたくないのよー、あんまり可愛くしないでー」
「ブリーチしてあるからねぇ……ミルクティーベージュはハイライトに使うからね。アッシュベージュがベースだから心配しなくて良いのよー、トーンは選んで来たから大丈夫。まかせなさい!」
イッケイは手際良く染め、髪色が決まると持参したメイクボックスから髪用のハサミを出して髪をカットした――
サクッ、サクッ、シャキッ、シャキッ、シャキッ―――― バサッ
「ひえぇ―――――っ! こんなに切っちゃったよー、どーすんの? ぐっすん……ぴぇん」
「枝毛、切れ毛だらけで、あなたの髪はもう死んでいるのっ! 死んだ髪に用は無いのよ! 云う事を聞きなさい!」
サクッ、サクッ、シャキッ、シャキッ、シャキッ――
何と云う事でしょう―― だらしなく伸びた髪が耳かけボブになって―― 黒髪に錆びていてドキツイ印象の髪色は―― ハイライトが美しく、表情が豊かになりました――
めぐみは感嘆の声を上げた。
「こっ、これがっ、ビフォーアフターッ! イッケイ・マジックなのか! 七海ちゃん、鏡見てみ。ほれ」
「キャ―――ッ! あっシがアッシュで坂系になったよっ! マジでアイドルじゃね? きゃはっ!」
「そうでしょー、良くなったでしょー、秋になったらグレージュにして大人っぽさを出してレイヤーを入れるとさらに良くなるわよー、もう、どんだけ――――」
「なっ、七海ちゃんが、鏡の中の自分にうっとりしているなんて……」
「まだまだ、この眉毛も……喧嘩上等で元気が有って良いけど……綺麗に整えて可愛くしたいでしょう?」
「めぐみ姉ちゃんみたいな感じにしたい、したい! 」
「もーッと、可愛くなっちゃうかもよ――っ! まかせなさ――い」
イッケイは全ての仕事を終えた――
「若いからって胡坐をかいてはダメ! メイクについてはまた今度ねー。今日は楽しかったー、お休みなさーい!」
イッケイを見送り、部屋に戻ると何時もの様に「日報」を書いて神官に送った。そして暫くすると返信が有り、進捗状況を確認すると「アラート異常有り!」となっていて、イッケイが「恋を諦めている状態になりつつある」と有った。
「うーんっ、日ごとに自分の殻を固くして行っている。これはまずいなぁ……」
ふと横に眼をやると七海が爆睡しているのでイッケイにホット・ラインを繋いだ――
「イッケイさん。無事帰宅されましたか? 今日は沢山ご馳走になり、七海ちゃんも大喜びでした。本当に有難う御座いました」
「楽しかった―――っ! とんでもないわよ―っ、私の方が有難う。感謝いたしますぅー」
「話したい事が有るのですが、今、お時間よろしいですか?」
「ええ、もちろんよ。何かしら?」
「実は小林シェフの事なのですが……」
「義男さんの事? どうかしたの?」
「この間お伺いした時に、敦子さんの亡霊は完全な実体となり、小林シェフの心の中で生き続ける事になりました」
「うん―― そうね。義男さんが元気になって良かった。めぐみさんのお陰よ。ありがとう」
「イッケイさん、小林シェフを心の底から愛していますね。諦めないで!」
「どうして、その事を…… めぐみさんは巫女さんだから……お見通しなのね」
「いいえ、私では有りません。天の神は全てを知っているのです」
「でもね、ふたりの間には……とても入って行けないと思ったの。分かるでしょう? 義男さんの心の中に私の入り込む余地なんて全く無いって事が良く分かった……」
「お辛い気持ちは痛いほど分かります……ですが、それでも愛して欲しいのです」
「義男さんの心の中で生き続ける敦子さんに嫉妬しながら生きるのは嫌よ! めぐみさん、残酷過ぎるわよっ!」
「イッケイさん、どうか聞いて下さい、この電話はホット・ラインです。天の神に直結しているのです、ですから正直なお心を……」
「プッ、ツゥ―――――――ツゥ―――――――」
「あっ、イッケイさんっ、切れちゃったよ…… あぁ――――っ、やらかした―、どうしよう」
その声で七海がむっくりと起き上がった――
「あーんっ、気持ちよく寝てたのに……うっせーなぁ…… もう、めぐみ姉ちゃん大人なのにぃー、おねしょするなんて笑われっぞっ! 誰にも言わないからね……内緒にしとくから……安心して……」
「してねーしっ! チョ、待てよ! 寝んなって、おねしょなんてしてないからっ! 誤解だから!」
「…………ここは、二階だお……めぐみ姉ちゃん……むにゃむにゃ…」
夜は更けて行った――
――数日後
イッケイはテレビ、ラジオに紙媒体の取材と大忙しだった。
「ハイッ! イッケイさんオッケーでーすっ! 桜井ちゃん、セット・チェンジよろしく! 収録再開まで休憩入りまーす!」
ザワ、ザワ、ザワ、ガヤ、ガヤ、ガヤ……
「マネージャー、私、御手洗いに寄って行くから、先に楽屋に戻っていてね」
「はい、分りました。お飲み物用意しておきます」
イッケイは体調に異変を感じていた――
「うえぇっ、おぉっ、ほげぇーっ、ああ、気持ちが悪いー、最近お腹が張るし……食べても美味しくないし……せっかく頂いたお仕事で迷惑は掛けられないし、病院に行った方が良さそうね……」
「お疲れ様です。何時もの美容ドリンクとお茶をご用意しておきました。どうぞ」
「マネージャー。あのね、実は膨満感で苦しいの……時間が空いた時で良いから、ちょっと病院で診て貰って来ても良いかしら?」
「大丈夫ですか! 勿論ですよ、良い病院を知ってますから早速、予約しておきますね」
「有難うございます。御心配をお掛けしてすみません」
この時、イッケイは食べ過ぎかストレスによる疲労くらいにしか思っていなかった――
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