ちんこ連呼も恋愛ですか?
日差しの強い或る日の午後、ふたりの男性が鳥居をくぐった。
その二人を見て典子と紗耶香が色めき立った――
めぐみは意味が分からなかったが、翻訳アプリでふたりの祈りを解析して驚いた。
「えっ? 男同士で何で? どゆこと?」
ふたりは参拝を済ませると授与所でお揃いの根付け型の御守りを買ってイチャイチャとお互いのケータイに取り付けて去って行った――
「今のは何だったんだろ? まぼろしーっ!」
「めぐみさんっ! 知らないの? 今の人達、芸能人よ!」
「はぁ。ゲイ能人? 知りませんけど……」
「背の高いガタイの良いヒゲメンが俳優の坂崎憲二でぇ、もうひとりのぉ、チョっと柳腰の人が声優の四ツ矢雄二さんなんですよぉ。超人気なんですよぉ」
「そうですか。それで納得! ふたりは相思相愛ですからねっ!」
「めぐみさん、あのふたりが相思相愛……って事?」
「はい。もうドロッドロの肉体関係です」
「イッヤァァ―――――ッ!」「キャァァァァ―――――――ッ!!」
「ワイルドな売れっ子イケメン俳優と超人気声優がガチホモって、ヤバくない?」
「ヤバいどころかぁ、文秋砲で木っ端微塵ですよぉー」
「ん? すみません典子さん『ガチホモ』って何ですか? 日本語って難しくって、てへ」
「めぐみさん、今更ぶりっ子しないでよ。ガチンコのホモって事」
「がちんこのほも? がちんこのほも! 十回クイズです。どうぞ!」
「がちんこのほも、がちんこのほもが、ちんこのほもがちん、このほもがちんこ、のほもがちんこの、ほもがちんこのほもが……チンコのホモがチンコのホモっ!」
「やんな―っ!」「言わせんなーっ」「きゃは―――っ」
めぐみは真顔になった。
「恋愛に―― いいえ、人を愛する事に性別なんて…… 関係ありませんからっ!」
「めぐみさん…綺麗に纏めたわねぇー。でも、ショックだなぁ……」
着物姿の女性が三人の会話の終わるのを静かに待っていた――
「すみません、御朱印帳をお願いしたいのですが、よろしでしょうか?」
「これは、気が付かなくて申し訳ありません、お待たせしてすみませんでした!」
三人は仲良くなり過ぎて、私語が多くなりがちな事を深く反省し落ち込んだ――
「めぐみさん……って言ったかしら? 『人を愛する事に、性別なんて関係ありません』って……感動しました。お若いのにあなたは出来た人。立派です。なかなか言える事では有りませんよ」
「あっ、いえ、本当の事を言ったまでですから……はい」
「あなたって心が綺麗なのねっ、そうだ、こんな時代だから家内安全の御守りと御札もよろしいかしら?」
典子と紗耶香が授ける準備をしていると、めぐみが感嘆の声を漏らした――
「着物の柄も素晴らしいけど帯も帯揚げも帯留めも全てが完璧な調和を成している……襟の抜き方と言い、纏められた髪の髪飾りにも美学を感じる……美しいぃ!」
「めぐみさん! あなたって心が綺麗な上に正直なのねっ! あはは、うふふふっ『美しい』なんて最高の褒め言葉まで授けて下さって、心より感謝申し上げます」
典子と紗耶香が御朱印帳と御守りと御札を授けると「また、お会いしましょう。本当に有難う御座いました。うふふふっ」と言って去って行った――
「今日は何の日かしら? 四月四日は既に過去!」
「めぐみさん、あの人はぁ、美容研究家でぇー、メイクアップアーティストでぇー、マルチクリエイターの三宅一慶さんだって分ってますぅ?」
「三宅一慶? さぁ……知りませんが? 何か?」
典子と紗耶香が声を揃えて言った。
「男よ! 男! チンコ付いている漢! イッケイさんよ!」
「おふたりともチンコ連呼して、嫌だぁ、下品ねぇ――――――っ、どんだけぇ――――」
「知ってんじゃないの――っ!」
「えっ?」
めぐみは仕事が終わると、メールをチェックした。七海から「最近、母ちゃんが調子良くなって、お医者さんから外出の許可が出たから、一緒に外食するんだ。だから、ひとりで淋しくても泣かないでちょ!」とメッセージが有ったので真っ直ぐ部屋に帰った。
「泣きはしないが……『ひとり』と云うのは寂しいものよのぅ」
ひとりの部屋に戻るとめぐみはいつもの様に「日報」を書いて神官に送った――
そして、特記事項として「イッケイさんのエラー・コードがグチャグチャで解読不能。分析の依頼をしましたが『審議中』になった為、継続不可能になっておりますので指示をヨ・ロ・シ・ク!」
風呂から上がって玲子から貰ったタフウーマンを正しい作法で飲み干した。
「ん旨い!『毎日働く女性の頑張りをサポートします。強く優しくしなやかに!』そんな感じがするするっ!」
そして、パソコンをチェックすると神官からメールが有り――
「イッケイ様の祈りは相手の男性の幸福を願う、利他的かつ徳の高いものでしたので、恋愛と認識が出来なかった事、お相手の男性にも問題が有りましたのでエラー・コードが重複して表示されなかった事をお詫び申し上げます」
「エラー・コードが不明のまま任務遂行と云う事だなぁ……相手の男性が分かれば良いけど……まぁ、今日の所は寝るとしよう」
――三日後
「めぐみさん、来ちゃったー、この間、御札を授けて頂いたでしょう、そうしたら売り上げが上がったって喜んでいたのよ。うふふふふっ」
「喜んでいた……と言うと、どなたかに授けた訳では有りませんよね? まずいなぁ……」
「えぇっ! だって御守りも御札も家族とか友人の為に買って行くじゃありませんか?」
典子が優しく微笑んだ。
「あっ、大丈夫ですよ、心配なさらな……」
めぐみが目配せをした。
「うぉっほん! うぉっほん! 心配ですから私が見に行きましょう」
「めぐみさんが来て下さるの? あなたって、心が綺麗で正直な上に親切なのね。お仕事が終わる頃にご連絡差し上げますので……」
ふたりは連絡先の交換をした。この時、恋の女神のホット・ラインだとは知る由も無かった――
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