残り時間は無限の時間。
帰りの車中で颯太が指揮者になって「お父さん。お母さん」と言って、ふたりの会話を後戻り出来なくさせていた。そして、家に着く頃にはすっかり雨も上がっていた――
「あんなに雨足が強かったのが嘘の様だ……」
「お月様が綺麗ですね……」
「風が吹いてー、カミナリ様を連れて行ったんだよ!」
藤田は真っ暗な家に帰ると、何時もの様にシャワーを浴びてビールを飲んだ。そして、おみくじを眺めていた。
‘’条件など考えずに人を愛すれば道が開ける‘’
「神の声に従って行動したら本当に道が開けた…… 神様って、居るのかなぁ……」
めぐみは天に昇り忍者仕様で術を使用した報告と手続きを済ませて「日報」を書いていた。
すると「そっそそっそそっそそっそ」と足の音と「サシサシサシサシ」と衣擦れの音が聞こえた。
足音が止まるとドアをノックした。
「コッツ コッツ コッツ」
めぐみが「はい、どうぞ」と言うと「ガチャッ」とドアが開いて双子の巫女が入って来た。
「オレー、オレ、オレ、オレ! ゴォォ――――――ルッ!! やりましたねっ! 残り時間七秒でしたよ! 失敗したらロス・タイム無しで即ゲームセット、良く頑張りました! 雨の中のインフロントキック! またひとつ、明日に繋げる歴史を作りましたねっ! 感動、感涙」
「まぁ、そおっスね、厳しい戦いでしたが、課題も見つかりました。あざーっす!」
「キャァ――――――ッ!!」
すると、騒ぎを聞きつけ神官が入って来た。
「うぉっほんっ! また、ドアが開けっぱなしで、困りますね。しかし、今回は大変重い任務でしたが機転を利かせたのが功を奏しました。条件の合わないシンママと孤独な男性を良縁に結び付けた事は天国主大神様が高く評価されました。それではそこの日報を頂いて、私はこれで」
神官が去って行くと、双子の巫女が呆れていた。
「私は『これで』なんて……もう少し言う事が有るでしょう? 冷たい男ね、ふんっ」
「何も言わなかったなぁ……」
「えっ? 何がですか?」
「元旦那とレストランでバッティングさせたのは神官の仕業なの。私は射抜いただけよ」
「ナイスアシストじゃないですかーっ! 自分の手柄でも有るのに……それを言わないなんて……クールな男だったんだなぁ、キュン!」
三人は顔を見合わせて頷いた。そして、双子の巫女が御守りを渡すと、温かい甘酒をお盆に乗せて差し出した。
めぐみは甘酒を、ふうふう言いながら飲み干した。
「ん旨い! 体の芯まで冷え切っていたから生き返るよ! ありがとう!」
めぐみは二人の巫女に見送られて、軌道エレベーターに乗って地上へ戻って行った――
部屋に戻ると七海が待っていた。
「めぐみ姉ちゃん、遅ぇーよっ! ったく何処で遊んでんのよ? 洗濯物がびしょ濡れだよっ!」
「洗濯物じゃなくて、これから洗うのよんっ! 雨で濡れて部屋の中に入れられないから、そこに掛けておいたの」
「そっかー、んじゃ手伝うよ。……あっ! これ……忍者の衣装だ! めぐみ姉ちゃん、何処で『くのいちごっこ』やってんのよぉー、あっシも混ぜてよぉ! 隠し事は離婚の原因だお。正直に言ったんさい。ほれ。」
「遊びじゃないよの忍者は、ほっほー」
「えっ? カラオケ屋の? 隣の?」
喜多美神社は大勢の参拝客の賑やかな声で溢れていた――
藤田は正しい作法で確りと丁寧に神恩感謝を済ませると、おみくじを結んだ。
「これで良し! 後は巫女さんにお礼を言わなくてはね」
「うんっ!」
三人は授与所に向って歩いていた――
「あっ、鯉乃様! 鯉乃めぐみ様、先日はご来店頂き、お祓いまでして頂いて有難う御座いました。感謝しております」
「えっ! 麻実さん、お知り合いなんですか? 私におみくじを授けて下さったのも、こちらの巫女さんなんですよ」
「どーも、ありがとーございましたっ!」
「あはははは、可愛いねぇー、まぁ良いじゃないですか。おふたりの恋愛は成就した様ですね。めでたし、めでたし」
「御守りを返品だなんて、本当に失礼な事言って申し訳ありませんでした。でもめぐみさん、急所を蹴るのはやり過ぎですよ」
「天照大神のメッセージだと思って下さい」
めぐみは懐から三つの御守りを取り出すと、三人に授けた。
「これは?」
「移り気な心を留め、直霊を守り、絆を結ぶ御守りです。三人で持っていて下さい」
三人はめぐみに礼を言うと深々と頭を下げて去って行った――
「まさかシンママと結婚するなんて……ねぇ」
「条件の合う若い女性とか言ってたのにぃー、何なんですかぁー、もうっ!」
「彼の願いは家族だったんですよ。笑顔の絶えない温かい家庭。心に蓋をしていたから自分では気が付かなかっただけです」
「そうか…… 全てを一気に手に入れたということね……」
「納得ですぅ」
めぐみは颯太の直霊の成長に喜びを感じていた――
「ピピピピッ、ピピピピッ、ピピピピッ」所長室の内線が鳴った。
「藤田巌様からお電話です。お繋ぎしますか?」
「はい」
「あー、もしもし、御婚約おめでとうございます。良かったですね。えっ、あー和彦君の事なら大丈夫ですよ。でも、賭けは私の勝ちですよ。彼は大きく成長しましたから。えっ、あーあー、分ります。あははは、もう大丈夫ですよ。では」
所長は藤田を呼び出した――
「今後、君には色々な弁護を引き受けて貰うよ。お金にならない手間ばかり掛かる厄介な弁護もね。良いね?」
「はい、喜んで。立場の弱い者のために精一杯頑張ります。今後ともよろしくお願い致します」
「うんっ、君がそう言う日が来ると信じていたよ。迷惑なんて言わないね? 時間は有り余るほどあるんだ。粉骨砕身、頑張ってくれ給え! あははははははっ!」
「所長そんなに笑わないで下さい」
「あはは、人生は面白いね。素晴らしい。はっはっはっは!」
今日も喜多美神社は神聖な空気と静寂に包まれている――
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