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失敗したなら倍返しで。

 お泊りの七海と一緒に湯船に浸かっていた――


「めぐみ姉ちゃん、何それ? 今日は髪の毛洗わないの?」


「美容室に行って来たんでねっ!「髪切った?」とか言えないかねぇー、無関心は離婚の原因だってよ」


「まーだ、結婚もしてねーのに、気が早えっつーの!」


「そう言えば……どうなったん? ほれ」めぐみはそう言って親指を立てた。


「何それ? いいね!マーク?」


「とぼけるなよー、男だよ、メンズだよ。デートしたんだろ?」


「あー、あれか。とっくに終わっとるのよんっ!」


「早っ! 若いって……恐ろしい!!」


「引き摺らないのっ! あっシ、立ち直りが早いんでっ! 気が付かなかったでしょ? 無関心はお互い様っつ―ことだよ」


「七海ちゃんに一本取られたー! でも何か嬉しい、学校行く様になって成長著しいなぁ……」


 風呂上がりに正しい作法でコーヒー牛乳飲み、七海は米蔵涼子の「ドクターEX」を夢中で観ていたので、めぐみはパソコンをチェックした。


 神官からメールが有り「お祓いは不調に終わりました。原因は颯太の直霊(なおひ)が最大になった事で麻実様を傷つける結果となっております」と有った。


 めぐみは驚いて添付されたデータを開くと「元旦那のDV被害から守るために、乳飲み子の颯太を抱えて命辛々の逃避行の末、現在に至る」そして更に詳細を見て愕然とした。


「背伸びした恋愛で終わるはずが、颯太の懐妊によって高望みの結婚を実らせてしまったのか……しかし、その結果、麻実の生い立ちや生活態度に腹を立て、日々、辛く当たったと有るなぁ…… とんでもない旦那と姑だっ! しかし、元を正せば麻実さんの独りよがりの恋愛のせいなのだが……お祓いのはずが神罰を与えてしまった様な物だなぁ」


「めぐみ姉ちゃん、何ブツブツ言ってんの?」


「私、失敗したんです!」


「まぁ、失敗してなんぼだよっ。失敗しないのドラマだけだから。安心しなっ!」


「慰められても嬉しくないのっ! 素直になれない私なの。 いぃや、立て直して見せる!」


 めぐみは窓を開け夜空に向って吠えた。


「倍にして返しやるからなぁあぁ――――っ!」



――翌日


 麻実は忘れかけていた悲劇を思い出して落ち込んでいた。旦那の暴力は日常的だったが、幼い颯太に手を上げるとは思って居なかった。頭叩き、泣きじゃくる颯太を蹴った時の冷酷な態度と、それを冷笑する姑の悪意に満ちた視線に、離婚を決意して家を飛び出した――


「全部、私が悪いのよ。めぐみさんが言う通り颯太を不幸にしているのは私なんだ。私が颯太を頼っているんだ。情けない母親……」


 すると、お店の前に保育園の送迎バスが止まり、颯太が元気よく降りて来た――


「おかあさん、ただいまっ!」


「おかえりなさいっ! 今、おやつを作ってあげるからねっ」


「うんっ!」


 麻実は必死で笑顔を作りパンケーキを焼いた。そして、お口いっぱいに頬張って、喜んで食べている颯太に心を癒され幸せを思い出していた。


すると、その時「リリリリリーン、リリリリリーン」と電話が鳴った。受話器を取ると藤田の明るい声が聞こえて来た――



「こんにちは。麻実さん。先日はありがとうございました。油壷マリン・パラダイスのキャンペーンに当選しましたよっ! アシカのメイちゃんとイルカのジョイ君と撮った記念写真と記念品が届きましたので、お渡ししたいのですが、都合の良い日を教えて下さい」


 麻実は感極まって泣き出してしまった。

「はい……私の方は……何時でも大丈夫です」


「ん? どうかしましたか?」


「いいえ、何でも有りません、当選するなんて颯太は運が良いですね……」


「今夜、三人で外食でもしませんか? いつも手料理でもてなして頂いてばかりでは申し訳ありませんから。気分転換に如何ですか?」


「はい分りました」


「良かった! では、仕事が終わる頃に伺います。颯太君によろしく伝えて下さい」



 喜多美神社は神聖な空気と霧雨に包まれていた――



「今日はぁ、参拝客も無くてぇ、する事が無いですよぉ」


「紗耶香さん、する事なら一杯ありますけど? 整理、整頓、棚卸し!」


「嫌だなぁ、典子さん、もう終わってますよぉ……外を見て下さいよぉ、私、霧雨の神社の幻想的な雰囲気が大好きなんですぅ。ふふつ」


「実は私も大好きなのよねぇ。ふふふっ。でも、今夜は本降りになりそうね……」


 すると、めぐみがお盆に温かい甘酒を持って来て振舞った――


「沁みるわ―、心まで温まる感じね」


「霧雨の神社でぇ、温かい甘酒をいただくとぉー『日本人に生まれて良かった』って感じますよぉ」


「美味しかった。ご馳走様。めぐみさん? 何も喋らないけど、どうかしたの?」


「今夜が決戦なので精神統一をしておりました」


 典子と紗耶香が声を揃えて言った。


「決戦?! めぐみさん! 遂に男が出来たのね! そして、去って行くのね……私達を残して……良いの、残され人の事は忘れて……」


「私なんてぇ、巫女装束でなければ全然モテないんですよぉー。良いなぁ……」


「いやいや、違いますよ、サッカー! そう、サッカーですよ! 絶対に負けられない試合が今夜有るのですよ。あははは……」


 典子と紗耶香は猜疑心の塊になっていた――



 めぐみのケータイには「おみくじの効果が有りました。藤田の行動予定の報告」とアテンション表示され、今夜の外食が勝負だと確信していた。


 霧雨は何時しか小雨になっていた。決戦の夜は雨だった―― 


「おじちゃん!」


「やあ、颯太君。元気だったかい?」


「うんっ!」


「藤田さん、こんばんは。お誘い頂き有難う御座います」


「とんでもない。お礼を言うのは私の方です。外食するなんて何年ぶりだろう? なんだか楽しい気分ですよ!」


 藤田は厳格な両親と外食した事が殆ど無かった――そして、何時もと違いドレスアップしている麻実に心を奪われた――


「麻実さん。素敵ですよ。とても綺麗だ……」


「うんっ! お母さんは綺麗だよ」


「ありがとう!」


 麻実は藤田の言葉に反応する自分の心に気が付いていた。三人で居る事が心強く感じて「こんな風にみんなで笑い合える温かい家庭が夢だったなぁ……」と思った。だが、その夢に手を伸ばす勇気が無かった。




お読み頂き、ありがとうございます。



「面白かった!」



「続きが気になる、読みたい!」



「鯉乃めぐみは今後どうなるのっ…?」



と思ったら



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