恋の女神は出張中。
「ふっふっふっふっ、はっはっはっは、むはははぁはぁ―っ」
「めぐみ姉ちゃん、そんな悪代官みたいな笑い方をしてーっ! 何を企んでんの?」
「七海ちゅぁーん。企んでいるなんて、人聞きの悪い事を言わないで貰えますかっ! さてさて、ゴロゴロはしていられなくなったな。まぁ、次のステージに入ったから安心、安心。ふっふっふっ」
めぐみは神官に「日報」を送り、麻実のエラーコードに着手する事を報告した。
――翌日
めぐみは仕事を終えると、巫女装束を風呂敷に包み、自転車に乗って麻実の美容室に向った。
「こんにちは。予約した鯉乃めぐみです」
「鯉乃様。お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
席に案内して、準備をするとめぐみの髪に驚いた――
「お客様、見事な黒髪ですね。こんなに長いのに……切れ毛も折れ毛も全然無いなんて信じられない!」
「私、人間では有りませんから」
「えっ…… あっ」
「冗談ですよ。あはは……気にしないで下さい。只の巫女ですから」
「信じられないなんて言って……すみませんでした。手入れが大変でしょう? どうすればこんな綺麗な黒髪が維持出来るのかしら?」
「特に何もしていません。近所のスーパーで買ったシャンプーとトリートメントを使っているだけです」
「羨ましいですねぇー。こんな綺麗な黒髪だから絵元結も似合いますね。でも日本髪にしてもとてもお似合いだとと思いますよ。神前で結婚式をする時は是非、私に結わして下さいねっ」
「いいえ。私にはまだ相手がいませんから……麻実さんは?」
「私はバツイチでコブ付きですから…… 再婚は考えていないんですよ」
「でも、気になる人が居るのでは在りませんか?」
「えっ!」
「あー、図星ですね? 私が恋の女神だったら『出会いを大切に! 行動あるのみ』とアドバイスしますけど」
「恋の女神ですかぁ……私も結婚した時は『恋の女神が微笑んでくれた』と信じて疑わなかったなぁ。でも、理想と現実は違い過ぎましたよ。もう、懲り懲りです。結婚なんて……」
「恋の女神は微笑んだりしませんよ。出会いと試練を与え見守るだけです」
「あーっ、耳が痛いなぁ……本当にシンデレラになった気分で有頂天になっていたんですよねぇー。周りが何も見えなくなっていたのかなぁ。本当に馬鹿ですよね。笑っちゃいますよ、ふふふっ」
すると、颯太が出て来た――
「お母さん、お腹が空いたよぉ」
「鯉乃様。少々お待ちください」と言い残し、店の奥に行き「颯太、そこに作って有るのを食べて待っていて。ブローして仕上げのカットで終わるから。ねっ」と説得した。
「鯉乃様。お待たせしてすみませんでした」
「可愛いですねー。何歳ですか?」
「六歳なんですよ。あの子は色んな人から可愛いがられて……本当に羨ましいですよ。嫉妬しちゃいます。ふふふっ」
めぐみの眼光が鋭くなり、瞳の奥がキラリと光った――
「でも、実の父親には可愛がられなかった……可愛そうに」
麻実はその言葉に驚き用意していたハサミを落とした――
「あっ、失礼しました。それでは乾かしますね……でも、何故そんな事を?」
「恋の女神はお見通しですよ。シンデレラ気分って言いましたよね? ガラスのハイヒールを履いて嬉しかったのは束の間。脆く粉々に砕けて足は血だらけ傷だらけ……」
「鯉乃様……もう、それ以上は勘弁して下さい! 私はもう男性が信じられないんです。颯太だけが生き甲斐なんです。そっとしておいて下さい」
「勘弁ならぬっ! お主の独りよがりのシンデレラ・スト―リーのせいで周囲にどれだけ迷惑を掛ければ気が済むのだ! 颯太だけが生き甲斐などと片腹痛いわ! 颯太を不幸にしているのはお主自身だ! この戯け者!」
麻実は何も言えなかった。乾かしていためぐみの髪に涙が落ちた――
「颯太の直霊は幸せを真っ直ぐ掴もうとしておる。なのにお主の曲霊がそれを妨害しているのだ。今なら未だ間に合う、お祓いをして進ぜよう」
めぐみは着付けの部屋を借りて巫女装束に着替えた。そして麻実が絵元結すると颯太を呼んで、ふたりのお祓いをした――
「これで良し! 麻実さん颯太君をもっと愛して下さい」そう言うとふたりに御守りを渡した。そして、再び着替えると支払いを済ませ、自転車に乗って帰路に就いた――
めぐみは部屋に戻ると何時もの様に「日報」を書いていた。母子家庭故にお祓いの出張に行った事と藤田の行動について神官に報告をした。
「ピン・ポーン」「ピン・ポーン」「めぐみ姉ちゃん、居る?」
「はい、はい、居ますよ七海ちゃん!」
「もう、神社に行ったら帰って居ねーし、学校終わって此処へ来たらいねーし、何処ほっつき歩いてんのよー、時間潰してとんだ散財だよぉ!」
「ゴロゴロすんなって言ったのは何処の何方ですか? 我儘ね、女って……」
「うーん、新作のパンが完成したから、一番最初にめぐみ姉ちゃんに食べてもらいたかったんだよぉっ! 人の気も知らないで、何だよぉ!」
「新作って! どんなの? 実食、実食!」
「食いしん坊だなぁ……これだお、ほれ、ほれ」
「うわぁー、カレーパンだよっ! 最高だよ七海ちゃん!」
「めぐみ姉ちゃんがカレーを誉めてくれたからさぁ、何時か作ろうって思っていたのよっ」
「パンの香ばしい香りとスパイスの香りが見事なハーモニーね! パンの酵母の甘味が辛さを程良くしているねー」
「ほとんど大人が買うのよ。だから少し辛めなんだけど、そっちの丸いのは子供用なの。甘口でちょっと辛いだけでフレーバーを楽しむ感じなんだけど……どう?」
「良いよ! 口福、口福、食べやすいし飲み物とも合う。お菓子っぽくて良いよ。子供も大喜びだと思うよ」
「何処に行っても褒められる『褒められっぱの七海』だよ。でも、めぐみ姉ちゃん褒められるのが一番嬉しいんよっ!」
「七海っ! 来いっ!」
「めぐみ姉ちゃーんっ!」
めぐみが両手を広げると七海は胸に飛び込んだ。そして、互いに「ガッシッ」とハグをすると、めぐみが頭を撫でた。
「よしよし」
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