翔んだ再会。
恭一も、人様の家庭とは言え、生まれて初めて家族団欒を経験した気分で、良い心持になっていた――
「美味しかったです、御馳走様でした」
「お粗末様でした。そしたら、お風呂をどうぞ」
「あぁ、いやぁ、奥さん、一番風呂は気が引けますよ」
「良いんですよ。私達は気にしませんから」
「そうですか。まぁ、一番風呂は湯が固いとも言いますし、お言葉に甘えさせて頂きます」
恭一は、入浴の為「お風呂セット」を部屋に取りに戻り、実は工場で残りの仕事と向き合い、雅美は食事の後片付けをしていた。そして、良太は一人でテレビを観てい寛いでいた――
「良太君、お母さん忙しそうだから、お風呂に案内してくれないか? 」
「あぁ、うん。良いよ」
良太の案内で、風呂場に向かった――
「服を脱いだら、この籠に入れて」
「あぁ、分かった」
「父さんのだけど…」
「大丈夫だよ」
「男同士だもんね。適当に入れるとさぁ、お姉ちゃんが、怒るんだ」
「ははぁ――ん。良太君は、お姉ちゃんが怖いんだ?」
「怖くなんか無いよっ! でもさぁ、面倒臭いじゃん、女って」
「あはは。まぁな」
「あ、それから、こっちのシャンプーと石鹸は僕と父さんのだから使っても平気だけど、そっちのトリートメントとシャンプーはダメ。お洒落なボトルの奴は絶対にダメだよ」
「それなら大丈夫。自分で使うのは、ちゃんと持って来たから」
「男同士なんだから……そんなの、気にしなくて良いのに。じゃあ、ごゆっくり」
「有難う」
恭一は、服を脱いで籠に入れ、シャワーでかけ湯を済ませて、湯船に浸かった――
「ふうぅ――――――――――――――ぅ。いい湯だなぁ……」
湯船に浸かりながら、シャンプー類のボトルを眺めていた――
「トニック・シャンプーにメンズ・スクラブ、女性用の大きいボトルに、天然由来で高級そうなボトル。まるで家族が並んでいるようだなぁ……」
恭一は、持参した自分のボトルを隣に置いて、身体を洗い始めた――
「ただいま。はぁ……疲れたぁ……」
沙織は、帰宅すると直ぐに二階の部屋に行き、着替えて降りて来た――
「あぁ……母さんは夕飯の後片付けか、じゃあ、先にお風呂にしよっと」
「はい。どうぞ、奥の突き当りですから。ごゆっくりどうぞ」
「はぁ? 何だろ? 母さんは、時々、後ろに眼が付いている時が有るけど『ごゆっくりどうぞ』だなんて、他人行儀ねぇ……」
〝 ガチャッ! ″
沙織が、脱衣所のドアを開けると、丁度、風呂から上がった恭一が、真っ裸でタオルを頭から被って髪の毛を拭いていた――
「はっ!!」
「えっ…?」
〝 きゃあぁぁ――――――――――――――――――――――――ぁっ! 痴漢っ! 変態っ! ″
〝 うわぁ――――――ぁあっ! すみません、違います、違いますっ! 僕は痴漢なんかじゃ有りませんっ! ″
〝 バタ――――ンッ! ″
沙織は慌ててドアを閉めた。すると、悲鳴を聞き付けた家族全員が、お風呂場に集まった――
「どうした? 何が有ったんだ?」
「お父さん、知らない男の人が、脱衣所に居るのっ!」
「なんだ沙織。人騒がせだなぁ……それなら、今日から寮を借りて頂いた、稲村さんだよ」
「今日から? だって……」
「そうだよ、お風呂も壊れているし、ガスも電気も未だだから、此方で用意したんだ」
「あのぉ、恭一さん。娘が失礼をして申し訳ありませんねぇ。沙織っ! お前、何時の間に帰っていたんだい? ちゃんと『ただいま』って言わないから、母さん、気が付かなかったじゃないか」
「いや、ただいまって……言ったよ?」
「でも、お姉ちゃん。裸を見たのはお姉ちゃんなんだからさぁ、痴漢は、お姉ちゃんの方だよ?」
「良太、何言ってんのよっ!」
「そりゃぁ、そうだな」
「本当だねぇ」
〝 あはははははははは、はははははは、あ――っはっはっはっは ″
三人が大笑いをしている中、ドアを隔てた恭一と沙織は笑えなかった――
「私は『ただいま』も言ったし、大体、そう云う事なら、そう云う事と、言ってくれれば良かったじゃないのっ!」
「言おうと思ったけど、その前にお前が『今日は仕事で遅くなる』って言うから。言いそびれたんだよぉ」
「そんな、大切な事を言いそびれただなんて。信じられないっ!」
「お姉ちゃん、もう、良いじゃん」
「良太の言う通りだ。沙織も何時までもそんな事で怒っていないで、夕飯にしなさい」
「そんな事って、父さん……」
「沙織。今、夕飯の用意をするから待っていてね」
「もう、何よっ!」
沙織が、苦情を訴えていると、髪の毛を乾かして綺麗な服を着た恭一が、居間にやって来た――
「お風呂、お先に頂きました。有難う御座いました。あの、良太君のお姉さん、先程は、すみませんでした」
背中を向けていた沙織が、頭を下げる恭一の方に向き直った――
「はっ!!!」
「え――ぇっ!!!」
「ん?」
「おや?」
「はぁ?」
見つめ合う恭一と沙織の姿に、実と雅美と良太は何かを感じていた――
「どうして、あなたが?」
「君こそ……どうして?」
「どうしてって、此処は、私の家ですから……」
「私の家? そうなんだ……」
「おいおい。何だ、ふたりとも知り合いだったのか?」
「うちの会社の、社員さん……」
「うちの会社って、あんたの会社は、只の清掃の会社じゃないか?」
「ビル・メンテ。だから現場、出向先の会社よ」
「そう云う事だったのねぇ」
「驚いたなぁ。日本光学の社長と知り合いだなんて」
「え? 今、何て言った?」
「何って、沙織。稲村恭一さんだよ、TVや新聞で見た事が有るだろう?」
「いやぁ……」
「お姉ちゃんは、TVも新聞も見ないもんね」
「何だい、沙織。そんな事も知らなかったのかい? 馬鹿な子だねぇ」
「いえ、沙織さんは悪くありません。僕も言いませんでしたから。むしろ、社長だと知らない方が好都合だったので、バレない様に契約社員のフリをしていたんです」
「あぁ…………」
「改めまして、沙織さん。今日からお世話になります、稲村恭一です。色々と御迷惑をお掛けする事も……いや、もう、掛けちゃったかもしれませんが、どうぞ、宜しくお願います」
「あぁ、はい……こちらこそ、宜しくお願いします……」
「あぁっ! お姉ちゃん、顔が真っ赤だよ」
「コラッ、良太っ! 大人を揶揄うんじゃ有りませんよ」
恭一との久し振りの再会は、とんだ災難だった。契約社員が日本光学の社長で、痴漢が恭一で、全裸の姿と目の前にいる恭一の姿を一度に重ね合わせて、沙織は、頭がクラクラして、顔は真っ赤になっていた――
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