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かかあ天下と義理人情。

 淋しさに目頭が熱くなり、涙が零れぬ様にと社務所の天井を眺め、深く長い溜息を吐いた――


「はぁ――――――――――ぁ。流れ流れて 流離いの、長の暇が 仇となり、馴染みの顔が 知らん顔。旅に出たのが 運の尽きかぁ。涙、涙の……」


「ちょっと、何言っちゃってんだかなぁ『探さないで下さい』って言ったのは自分じゃ無いのっ!」


「おろ? そんな事言ったけかなぁ?」


 めぐみは、茶箪笥の引き出しに仕舞って有った手紙を突き付けて啖呵を切った――


「おうっ! ある日突然 いなくなり、四方八方 隅から隅と、探して見りゃぁ 置手紙。緑のインクで したためた、別れの手紙で それっきり。帰って来るなり キャラ変で、何処の何方か 分かりゃあしねぇ。捨てて出てって おきながら、自分の不義理は 棚に上げ。揚げ句の果てに 薄情者と、被害者気取りで、意見をするたぁ、何事かって、言ってんでぇぃ!」


「あぁ、そう言えば、そうだったのぅ……」


「その口調には騙されませんよっ!」


「まぁ、色々有ってとはいえ、これからも、よろしく頼むぜ」


「ふんだっ!」


 めぐみとピースケは、背中を向けて無視をした。諦めたスーさんは、お土産を一人で食べる事にした――


「何でこうなるんだよ、嫌んなっちゃうなぁ……今や、おいらの慰めは、赤福っ! お前ぇだけかぁ……トホホ」


「赤!」


「福!」


 めぐみとピースケは、赤福に反応し顔を見合わせ振り返った。スーさんは、おもむろに取り出した包みを丁寧に開け、あんこの海に、すっとヘラを入れた――


「ふぅ―――――――――――ん……」


「ゴクリッ……」


「ゴクリッ……」


「もぐもぐ、うぅ――――――――――ん。ちゅぱっ、ちゅ、ちゅ」


「あぁ、ピースケちゃん、スーさんにお手拭きね。それから、お茶を淹れたら?」


「めぐみ姐さん、気が利かなくて済みません。今、新しいお茶を淹れますから」


 スーさんは、めぐみとピースケに囲まれて、仕方なく赤福を差し出した――


「食べる?」


「モチの」


「ロンッ!」


 めぐみとピースケは舌鼓を打った――


「う―――ん、旨いですねぇ」


「鯛焼きの、砂糖たっぷりで、確りしたコクのあるあんこも良いんだけどねぇ……」


「そうなんですよぉ。小豆の粒感が最高なんですよ。しかし、この赤福のさりげない甘さと滑らかな舌触りは、永遠に食べ続けられますよ」


「そうなの。そんな感じ。サッパリしているもんね」


「確りの後のサッパリ」


「あんこの競演。贅沢だねぇ」


「はぁい」


「おいおい、ふたりで盛り上がってないで、おいらにも……あぁっ! 食べきっちゃたよ。一個しか食べていないのに……」


「まぁ、私達が味方になってあげるから」


「そうですよ」


「本当かい? 助かるぜ」


「じゃあ、私達は仕事が有るから。ピースケちゃん、行くよ」


「はい」


「ちょっと、おいらは?」


「遊び人なんだから、遊んでいれば良いでしょう? 寝る所なら、拝殿でも神楽殿でも好きにすれば良いじゃない。じゃあねっ!」


「そりゃぁ無いぜ……」



 日も傾き、喜多美神社が静寂を取り戻していた頃、恭一は、身の回りの買い物を済ませて帰宅し、夕飯を食べに出掛けようとしていた――


「さて、この街の飲食店を検索して、いや、散策しながら決める方が良いかな」


  

 〝 コンコンコンッ! ″



「はい」


「大家の滝沢です」



 〝 ガチャッ! ″



「何か?」


「あの、もし良かったら、夕飯とお風呂を用意しますが?」


「えぇ? 本当ですか!?」


「こんな、ぼろ屋を借りて頂いて、しかも、電気もガスも未だですから、キャンプみたいじゃないですか? せめてその位の事はさせて頂きますよ」


「それは、願ったり叶ったりです、お言葉に甘えさせて頂きます」


「はい、そうして下さい。では、準備が出来たらお呼びしますので、又、後程」


「有難う御座います」


 買い物を済ませたと言っても、未だ何も届いていない部屋の中は、ランタンとシュラフにマグカップが一つだけで、正にキャンプの様相だった。そして、暫くして呼びに来た実と共に滝沢家へ向かった――


「どうぞ、お上がり下さい。散らかってますけど」


「お邪魔します」


「あぁ、妻の雅美です」


「初めまして。稲村恭一です。突然、引っ越して来て、食事にお風呂まで用意して頂いて、心より感謝申し上げます」


 雅美は、恭一の凛々しい姿と、折り目正しい挨拶に恐縮しつつ「何故、日本光学の社長が目の前に?」と、頭が混乱した――


「初めまして、妻の雅美です。日本光学の稲村さんですよね? TVや新聞で見た事が有りますよ? どうして、こんな所に?」


「あぁ。もう社長じゃ有りません。求職中なので、つまり無職です」


「はぁ?」


「おい、雅美。無職と言ってもだなぁ、大金持ちには変わりは無いんだから、心配するな」


「心配なんてしてないわよ。あんたが言わなかったから……稲村さんだと知っていれば、もうちょっと、奮発したのに」


「何時もの夕飯で良いんだよ。ねぇ、恭一さん」


「えぇ。何時もの夕飯が有り難いです」


「おい、ふたりは?」


「今日は、仕事で遅くなるって。良太は、そろそろ帰って来ると思うけど」


「まぁ、良いか。先に始めよう」


 実と雅美は、立派な長男が出来た様な気分になり、恭一も家族になった様な気分で食卓を囲んでいた――



 〝 ガラガラガラッ! ドタドタドタッ! ″


「おぉ、帰って来たな。恭一さん、家には子供が二人いましてねぇ……」


「母さん、大変だよっ! お化けだよっ! 寮の中に灯りが点いて黒い影が……あ? お客さん?」


「初めまして。寮を借りた稲村恭一です」


「あ、始めまして。滝沢良太です」


「多分、窓を開けていたから、風でカーテンが揺れて、ランタンの灯りが揺れて見えたのだと思いますよ」


「全く、そそっかしい子だねぇ。手を洗って、食事にしなさい」


「はぁ――いっ!」


 食卓を四人で囲むと、良太は借りて来た猫の様に大人しかった。だが、雅美は、家族の事から近所の事迄、マシンガン・トークが炸裂した――


「おい、雅美。言い過ぎだぞ」


「だって、第三者に聞いて貰った方が良いじゃないの」


「まぁ、人間、自分が可愛いですからね。あまり、期待しない方が良いですよ」


「そうですよねぇ。全く、町会の集金位でゴネられたら、たまったモンじゃないわよ。東京と言ったってねぇ、近所付き合い位は、ちゃんとして貰わないと。昔から住んでいる住民が肩身の狭い思いをするなんて、嫌になっちゃうわ」


 女一人に男が三人。形勢逆転したにも拘らず、雅美は饒舌になり、却って元気になっていた――  






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