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帰って来たスーさん。

 バイクと一緒にヘルメットとグローブを購入し、販売証明書を持って店を出ると、狛江市役所へ行き、移転の手続きとナンバーの取得を済ませた――


「こんにちは。ナンバーを貰って来ました」


「お客さん、早いですねぇ。混んでいませんでしたか?」


「えぇ。誰も居ませんでしたよ」


「はぁ……運が良いですねぇ。何時もは混んでいるんだけど。じゃあ、ナンバー付けますね。ただねぇ、納車整備にはチョッと時間を頂きたいんですよ」


「あぁ。直ぐには無理ですか?」


「いやぁ、このバイクは実質輸入車だからねぇ、グリスは入っていないし、組付けの精度も悪いんですよぉ。だから、一旦、分解をして組み直さないとダメなんですよ」


「そうですか。そう云う事なら、お任せします」


「有難う御座います。それでは、納車の準備が出来次第、ご連絡しますので」


 恭一は、店を出ると、その足で、車を購入するためにディーラーに向かった――


「御免下さい」


「これはこれは、稲村様。本日は突然の御来店ですが……何か?」


「あの車が欲しいのです」


「はっ。Gクラスで御座いますね?」


「いいえ、違います。その手前の小さい方です」


「?」


「スマート・フォー・ツーのカブリオレです」


「はぁ……しかし、あれは、中古車ですが?」


「相応しい車をと何時も仰っていたじゃないですか? 僕は、もう社長では有りません」


「あぁ……はい、畏まりました」


「それで、任意保険についてですが、バイクを購入したので、ファミリー・バイク特約をお願いします」


「あぁ……はい、畏まりました」


「振り込みは今日中にします。納車は何時でも構いませんので、準備が出来次第、連絡を下さい」


「あぁ……はい、畏まりました。至急やらせますので」


 恭一は、次は身の回りの物を買いに街を歩いた――


「この辺りに家具屋は無いなぁ……仕方が無いから、渋谷か銀座辺りまで足を延ばすか」


 恭一が買い物に歩いている頃、実も工務店と打ち合わせをしていた――


「あ――、もしもし。俺だよ。たっちゃん、例の風呂の修理を頼むよ」


「おや? 実ちゃん、どうした風の吹き回しだい? 母ちゃんが怒りゃしないかい?」


「馬鹿だなぁ。遂に借り手が付いたんだよ。だから、大丈夫さ」


「本当かい? そりゃぁ、良かったじゃねぇか?」


「あぁ、本当に。これで一安心だよ。それでねぇ、三部屋の内、二部屋の床が抜けているだろ? ついでに、あれも直して欲しいんだよ」


「あぁ、お安い御用だよ。どうせやるなら全部やった方が良いからねぇ」


「それで、借り手の希望なんだけとねぇ、確りとした、頑丈な床にして欲しいんだよ」


「確りとした頑丈な床って?」


「大量の本を持って来るそうなんだよ」


「あ――ぁ、そりゃぁ、重量が有るから、あんな床じゃ駄目だな。分かったよ、根太からガッチリやってやるよ」


「ありがとう。よろしく頼むよ」


 実は、電話を切ってホッとしていると、背後に視線を感じた――


「ちょっと、あんたっ! 修繕ってどう云う事だい?」


「何だよ。中途半端に立ち聞きして。借り手が付いたんだよ」


「え? 借り手って……」


「お前は『あんな部屋、誰も借りやしない』なんて言っていたけど、ちゃんと、借り手が付いたんだよ」


「本当かい? でも、あんた、外国人とか、面倒な人に貸すと……」


「きちんとした、立派な人だっ! お前は、悲観的過ぎてダメだ」


「何時、引っ越して来るんだい?」


「今日。もう住んでいるよ」


「だって、部屋の中はボロボロじゃないか?」


「馬鹿っ! 男って云うのはなぁ、そんな事は、関係無いんだよっ! それから、ガスも電気も未だだからな。夕飯とお風呂を用意してやってくれ」


「何だって? 赤の他人にそんな事まで……」


「良いか、良く聞け。 部屋を三部屋と駐車場まで借りてくれたんだぞ? それ位したって罰は当たらないよ」


「部屋を三部屋と駐車場って……毎月、十八万!?」


「そうだっ!」


「そ、そりゃぁ、逃がしちゃいけないよ。夕飯くらい用意しなくちゃねぇ……あたし、買い物に行ってくるよっ!」

 

 雅美は、スキップで買い物に出掛けて行った。家賃収入によって、滝沢家の力関係は完全に逆転していた。そして、喜多美神社は、神聖な空気と静寂に包まれていた――


「ただいま戻りましたぁ」


「めぐみ姐さん、お帰りなさい。何か良い匂いがしますね」


「大福は売り切れていたから。鯛焼き」


「やったー! お茶淹れますね」


 めぐみがピースケとお茶を飲んでいると、社務所の前に人影が有った――


「ピースケちゃん、アレ」


「はぁ? 何でしょうね」


「さっきから、行ったり来たりしているのよね」


「声を掛けられたいみたいですね?」


「寅さんじゃあるまいし。此処は、とらやじゃないっつ――のっ!」


「でも、めぐみ姐さん。声を掛けないと不味いですよ……お参りの人かもしれませんし」


「ったく、お参りの人が、あんな、着流し姿な分け無いじゃないの。しょうがないなぁ……」


 めぐみは、社務所の戸を開けて声を掛けた――


「あのぉ、何か御用ですか?」


「おっと、気付かれちまったかぁ」


「チッ、気付かれようとしていたクセに」


「俺だよ俺」


「はぁ?」


「見て分かんねぇかなぁ?」


「はい。どう見ても遊び人の金さんですけど?」


「それよ。金さんじゃなくて、ほれ」


「ほれって、あんたなんか知らないわよっ!」


「良ぉ――く、この顔を見ておくれよ。見覚えが有るだろ?」


「いや、全く」


「じゃぁ、この声『わしはのぅ』」


「おあぁっ!」


「分かった?」


「さぁ?」


「とぼけちゃ、いけねぇよぉっ!」


「ってか、そんなキャラ変をして、わかる分け無いでしょうよっ!」


「あ。分かってくれたね? 嬉しいぜぇ。今は遊び人のスーさんをやっているんだ」


「でって言う」


「いやぁ、伊勢参りに言ったんだよぉ。そんで、ミコトと猿田彦の野郎と一緒にアマテラスを探していたんだよぉ」


「はぁ」


「ところが、どうも上手くねぇ。行く先々で、一足違い。GPSも故障して、遂に諦めかけた時。何の因果か、東京の。あ、気が付きゃあ、灯台下暗しぃ」


「めぐみ姐さん、何時の間にか、七五調になっていますよ」


「喜多美神社に、晴れ姿……」


「あのさぁ。スーさんって言ったっけ? 今頃、帰って来てもさぁ、本殿には伊邪那岐夫妻が住んでいるの。だから、居場所は無いよ?」


 素戔嗚尊スサノオノミコトは、めぐみが「スーさんって言ったっけ?」と、他人行儀に言われた事に、深く傷ついていた――






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