明日は明日の風が吹く。
専用の鞘から抜いたキーを差し込み、イグニションをオンにした――
〝 Time To Ride……This is Vmax ″
〝 ヒュヒュヒュヒュン、ズドドドドド、ドドドドドド、ズドドドドドッ! ″
〝 Let’s Go!!!!!!!!!! ″
「OK!」
〝 ヴァウォンッ! ヴァウォンッ! カッコ――ンッ! ″
アマテラスはスロットルで返答し、ギアをニュートラルから1速に入れた。すると、長い黒髪は生き物の様にSIMPSON 423 Ch3No2の中へ入って行った――
〝 ヴァォンッ! ヴァォンッ! ギュルルルルル――――――――――――ッ! ヴァゴォ―――――――――――――――――――――――――ンッ! ″
V-MAXはBarn outをすると、一瞬にして視界から消えた。参道には砂埃が渦を巻き、竜巻の様だった――
「何アレ? 暴走族かよっ!」
「めぐみ姐さん、そんなレベルじゃないですよ。バック・トゥ・ザ・フューチャーのデロリアン以上ですよ……」
「しかし、あり得ない事が目の前で起こると、脳がバグります……一体、何なのだろう……あなたに『任せる』って言っていたけど?」
「さぁ……私にも何の事やら?」
「めぐみ姐さん、取り敢えず物件を探すのを手伝ってみたらどうでしょう?」
「はぁ?」
「そうだ……僕は、今日の寝る所を探さなければいけなかったなぁ……」
「大丈夫ですか?」
「まぁ、ビジホでもネカフェでも、どうにでもなりますよ」
「どうにでもなると言っても『お前に任せる』と言われた以上、何もしない分けにも行かない様な……そうだっ! 私に、心当りが有りますっ!」
「はぁ?」
めぐみは、地上に降りて来た時に、今のアパートを紹介した不動産屋に連れて行く事にした――
「あの、社長、足を止めて物件見てますよ。表にお客さんが来たみたいですけど、案内しますかぁ?」
「また学生かぁ? 外国人ならダメだよ。大家に怒られるのはウンザリなんだから」
「うーんとぉ、若いカップルみたいですけど?」
「何っ!? 新婚かっ? おいっ、案内するに決まっているだろっ! 一戸建てを紹介するチャンスだっ! 丁重にな」
事務員は、ドアを開けて声を掛けた――
「気になる物件は有りましたかぁ? 中にはぁ、まだまだ、沢山の物件が有りますよぉ? 良かったらぁ、見て行きませんかぁ?」
「あぁ、それでは、拝見させて頂きます」
中に入ると、パーテーションで仕切られた二人掛けのソファに案内され、事務員はお茶を用意していた。お客の様子を覗き込んだ社長は、めぐみの顔を見るや顔が引き攣った――
「おい、君。ちょっと、アレは、あの時の地雷女じゃないか?」
「もう、社長。忘れてませんかぁ? ちゃんと契約して頂いて居ますよぉ」
「あ? そうだっけ? それにしたって、男連れだぞ?」
「はぁ? 恋愛禁止ですかぁ? 若い女性が引っ越して来てぇ、パートナーと出会い新たな生活に一歩踏み出す。極々、自然な事じゃ有りませんかぁ」
「まぁ……そうだなぁ……」
事務員は、ソファに座る二人にお茶を出すと、物件の資料を持って座り、条件について尋ねた――
「どの様な物件をお探しですかぁ? お二人でしたらぁ、メゾネットタイプより一戸建てが良いと思うんですけど?」
「あぁ。一戸建ては良いですね……」
「賃料は、どれくらいをお考えですか?」
「あぁ、賃料に関してはあまり考えていません。環境を重視していますので」
「やっぱり、駅近とか? 公園や図書館が有るとか?」
「えぇ。公園や図書館が有るのは良いですね。しかし……」
物件の資料をチェックする恭一の表情は暗かった――
「あのぉ、気になる物件は有りますかぁ? 奥様の希望は如何ですかぁ?」
「ほぇ? 私は奥さんじゃありませんよ。ほら、去年の今頃? 此処で物件を紹介して頂いた、鯉乃めぐみです」
「勿論、覚えていますよぉ」
「本当に?」
「あんな物件を借りる人は、めったに居ませんからぁ……あ。言っちゃったぁ」
〝 あはははは。ははははは、きゃはははははは ″
「あの、此方のめぐみさんから、道すがらお話を伺ったのですが、僕もユニークな物件に住みたいんですよ」
「はぁ? 下宿屋とか、シェアハウスとかですか? それとも事故物件みたいな?」
「いや、そういうのではなくて……町の住民と触れ合える様な、生活感が有って、人情味の有る……下々の人々に溶け込み、住人と一体となる様な物件です」
そば耳を立てて聞いていた社長は、恭一の『下々の人々』に脊髄反射して覗き込んだ――
「けっ、何が下々だ、偉そうに。何処ぞのおぼっちゃまか知らんが……おや!? 何処かで見た事が有る様な……あぁっ! 日本光学の稲村恭一だっ!」
社長は目を丸くして驚いていたが、事務員はマイペースで物件を紹介した――
「そうですかぁ。今時、昔からの住民が力を持った自治体や町内会、人間関係が密で生活感がる物件は忌避されますからぁ」
「そうですよね、分ります。そう云う物件の所有者も、どこの馬の骨か分からない者には貸さないでしょうし……他の不動産屋でも断られましたから、無くて当然ですよね……」
「お客さんっ! ところが、有るんですよぉ。ウチは昔からやっている古い会社なので」
「本当ですか?」
恭一に紹介したのは、古い工場の元社員寮だった――
「あぁっ! これは……何と云うか、良い感じですねぇ」
「景気の良い頃は、五人ほど住み込みで働いていたそうですけど、もう、何年も借りてくれる人が居ないのでぇ、半分は、倉庫として使われているんですけどぉ」
「はぁ。なるほど……それで、駐車場が広いのか……コレに決めますっ!」
「まぁ、内見とかしなくて大丈夫ですかぁ?」
「良いです。これに決めます」
「気が早いですねぇ……えっと、条件としてぇ、お風呂が……」
「風呂なら銭湯に行くから平気です」
「いいえ、その物件案内にある銭湯は潰れてしまって、もう無いんですよぉ。社員用の大きなお風呂が使えない事は無いみたいですけどぉ、掃除も大変ですし、光熱費が嵩みますけどぉ?」
「あはは。それくらいの事、気にしませんよ」
恭一は、その物件に創業時の祖父の工場と、古い町並みを思い出して、思わず笑顔になっていた――
お読み頂き有難う御座います。
気に入って頂けたなら
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援と
ブックマークも頂けると嬉しいです。
次回もお楽しみに。




