超巨大地震に揺れる心。
―― 三月十四日 赤口 辛未
超巨大地震は、日本全国で死傷者ゼロ、建物の被害も無し。国民が夢か幻のように感じていたその頃、恭一は深い溜息を吐いていた――
―― 都内 某一流ホテルにて
「はぁ……もう、これ以上こんな生活を続けていてはダメだな……幸いな事に地震の被害は全く無かった。とは言え、もし甚大な被害が有ったのなら……僕はもう、生きてはいないだろう……」
恭一は、カードの特典を利用して、ホテルを仮住まいにしていた。高層階の窓から超巨大地震で東京が壊滅する姿をリアルに想像していた――
「何処か安全な場所へ……田舎の山の中にでも、引っ越そうか……」
荷物を纏めて、階下へ降りるとチェック・アウトを申し出た――
「恭一様。御精算ですか?」
「はい」
「あの、何か、私共に不手際でも……?」
「いいえ。このホテルは、一流の名に相応しい最高のサービスを提供しています」
「では、何故、急に?」
「僕は、もう日本光学の社長では有りません。無職ですから。このホテルに相応しいお客では有りません。これ以上、このホテルには滞在出来ません」
「しかし……」
「父の事は気にしないで下さい」
恭一は、支配人の制止を振り切って、ホテルをチェック・アウトすると、地方への移住促進の窓口や不動産屋を数件訪ね、東京の街をあてどなく彷徨っていた――
「地方へ移住と言っても、山の中は土砂災害地域のイエロー・ゾーンとレッド・ゾーンばかり。市街地では近所付き合いも大変だろうし、何より孤独な時間を実現不可能だ……現実は、そんなに甘い物ではないな。とりあえず住む所を探しながら、見つかるまではビジネス・ホテルか、ネット・カフェで過ごすとするか……」
恭一は、歩き疲れて多摩川の土手に腰を下ろすと、小さな花が歓迎している様に感じた――
「こんなの所にも、人知れず花が咲いている……」
恭一が、ガーデンで微笑む沙織の事を思い出したその時だった――
‶ タタタタァ―――――――――――ンッ! キラキラキラキラッ! シャララララララァ―――――――――――――ンッ! キラキラキラキララァ―――――――ンッ!
恭一の目の前に突然現れたのは、レースのカラーのブラウスにピンクのカーディガン、チェックの巻きスカートに金色の安全ピン、飾りの付いたソックスにペニー・ローファーを履き、肩からポシェットを掛けた少女だった――
「ヤバいよ、ヤバいよ、シャレになんないよぉ。ヤバいよ、ヤバいよ、立場無いよぉ」
「うわぁっ! ビックリさせるなよ……誰だい君は?」
「八方塞がり、四面楚歌。人生、生きていれば無傷ではいられません。頼れる者は誰一人として居ない。人生の、行き止まりに足を止めましたね?」
「えっ??」
「申し遅れました。私『ヤバイよヤバイよ、立場無いよ』と窮地に立った、そんなあなたに、そっと寄り添う水先案内人。立花伊代です」
「はぁ?」
「嘘偽り、ヤラセに出来レース。欺瞞に満ちた社会と不誠実な人々……『いっその事、破滅してしまえば良いのに』そう考えるのは、本質を見る目を持った賢者の苦しみなのです」
「あぁ……見た目とは裏腹に、君は、慧眼なんだね……」
「溜息では無く、深呼吸を。さぁ、コレをどうぞ」
立花伊代は、恭一の手にそっと飴を渡した――
「キャンディ?」
「きっと、良い事が有りますよ。それでは」
〝 キラキラキラキラッ! シャララララララァ―――――――――――――ンッ! キラキラキラキララァ―――――――ンッ! ″
「あぁ、消えた!? 不思議な子だなぁ……」
恭一は、掌の飴を見つめた――
「コーラにソーダにメンソールかぁ……メンソールでシャキッとするか」
メンソールは、かなりハードで、深呼吸をすると咽る程、辛かった――
「コッホ、コッホ、これは効くなぁ……」
涙目になった恭一の瞳に、対岸のバイクのヘッド・ライトが映った――
「え? まさかっ!」
そのバイクは、車道から飛び出して土手を降りると、川面を真直ぐ走って来た――
「そんな馬鹿なっ! 有り得ないっ!」
川面を渡ると、バイクは速度を上げて恭一の眼前に迫って来た――
「うわぁっ! 轢かれるぅっ!!」
〝 キイィ―――――――――――――ッ! ズザザザァ―――――――――――ァッ! ズドドドドドド、ズドドドドドド、ズドドドドドドッ! ″
恭一は、轢かれたと思ったが、間一髪ブレーキが間に合った。そして、ゆっくりとっ目を開けて見上げると、ヘッド・ライトが眩しくて、何も見えなかった――
「うぅ、眩しい……」
「邪魔だよ坊や。どきな」
「おい、君っ! どけとは何だ? どかなければいけないのは君の方だろっ! 河原は国の管轄だ、何より道行法違反だぞっ! 警察に通報して欲しいのかっ!」
「坊や。文句が有るなら、自分に言いな」
「何だと……」
恭一は、その声の主が、女性であることに驚いた――
「何て、非常識な女だっ! 君のやっている事は、反社会的行為だぞっ!」
「何を・」
〝 ズドドドドドド、ズドドドドドド、ズドドドドンッ、キュウン…………スチャッ! ″
バイクの女は、イグニションをOFFにして、フル・フェイスのヘルメットのシールド上げると、恭一を見据えた――
「フッ、坊や。この私に意見をするのか?」
「…………」
その女の瞳を直視した恭一は、言葉を失い硬直していた。そして、ヘッド・ライトの眩惑から解放された瞳に映ったのは、オレンジ・ベースのキャンディ・ブラックにリペイントされたYAMAHA・V-MAX1700だった。そして、同色に塗られたSIMPSONのドラッグ・レース用ヘルメット、深紅のレザー・ジャケットとパンツ、グローブとブーツもカドヤのフル・オーダー品で、フル・パッデッドでニー・シン・プロクターにエルボー・アーム・プロテクターはメタル製で、完全武装のバトル・スタイルだった――
「この私を止める事は、誰にも出来ない……」
〝 NO―――――! LIMIT――――――――――――――!!!!!! ″
恭一は、突然目の前で起きた出来に目を疑い、その出来事が真実かどうかさえ判断出来なくなっていた。超常現象と常識の一切通じない相手を前に、心の底から震え上がっていた――
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