親子丼の味。
アマテラスが復活し、新しい太陽が昇る時、打ち上げられた通信衛星が、太陽光を集束して、強大なエネルギーを地上に向けて撃ち放つシステムが起動する計画だった――
「そんな、恐ろしい事……」
「いいえ。恐ろしいと云えば、恐ろしいのかもしれませんが、核兵器の様な、放射能汚染は有りませんし、悲惨な状況が一切ありませんので、安心・安全、且つクリーンで、その上、攻撃目標はGPSで誤差はゼロ。何より、時間が掛かりませんので」
「マックスちゃん、そんな事が出来るなんて、驚きだよ……」
「いやぁ、どう考えても、悲惨でしょう?」
マックスは、リモコンでモニターを操作しながら語った――
「皆さんに、分かり易く説明しましょう。あの日、打ち上げられた通信衛星は大気圏を出ると、本体から無数の集光レンズを備えた超小型の機体が宇宙空間に拡散されたのです。そして、地球全体を覆うと、太陽光を一点に集めて地上に撃ち放つシステムが完成されたのです。まぁ、巨大な虫眼鏡で地球を焼く感じです」
「それが、どうして、悲惨な状況が無いと言い切れるの……」
「ほんの一瞬です。ポチっとすれば、敵国は消えてしまいますから」
マックスは、シミュレーションの動画を見せて、説明をした――
‶ ひぃい―――――――――――――い! ″
「ご覧頂いた様に、人間の死骸はもとより、全ての物が綺麗に焼滅しますので、戦後賠償も何もありません。ひとつの国家、ひとつの民族が秒で消せます」
「でも、マックスちゃん。そんな、最強の兵器を人間に渡したら大変な事にならないかい? 悪い予感しかしないよ」
「はい。駿さんの心配は当然の事です。ですから、人間ではなく、AIに任せる計画なのです」
「それは、つまり……その兵器を盾に、総理を失脚せてAIによる統治をすると云う事かい?」
「はい。その通りです」
「それは、W・S・U・Sのクーデターじゃないか?」
「まぁ、そう云う言い方も出来ますが、人間に任せていたら世界の終焉が近いので、むしろ、助けるためですよ。人間は何処まで行っても人間です。私情を挟んだり、利己的になります。欲望を押さえる事が出来ないのです。AIにはそれが有りませんから」
冷静沈着に計画を語るマックスには、子供とは思えない貫禄が有った――
「良く分かったよ。単に天罰を与えるだけでは、駄目だって事がな……」
「和樹兄貴、僕には、AIが全てを解決するとは思えませんよ」
「ピースケちゃん、あなたの言う通りよ。局面が変わるだけ。結局、どんなに悪い人間を始末しても、野心的な人間が消え去る分けじゃないわ」
「めぐみちゃん、それどころか誕生し続けるだろうね。常に事件が起こり、その都度、AIと人間が戦う事になり兼ねないよ」
「はっはっはっは。そんなに悲観的になるものじゃないさ。それを解決するのが、めぐみさんだよ」
「え?」
「時間を支配する時読命だからな」
和樹の言葉を、駿とピースケは理解が出来なかったが、南方とマックスは静かに微笑んでいた。そして、和解してW・S・U・S本部を出ると、和樹が、めぐみと駿に礼を言った――
「めぐみさん、駿。今日は有難う。お陰でスッキリしたよ」
「和樹さんがスッキリしたのなら、私は良いけど……」
「僕もスッキリしたよ。だけど、あんな計画を進めていたとはねぇ……驚いたよ。それから、和樹ちゃんの身体が以前より、かなり大きくなっていたので驚いたよ。どんな敵も適わない感じだね」
「まぁな。だが、人間同士の争い事は俺の技では解決出来ない。南方は根本的な解決をしようとしていたのに、それを妨害してしまうとはなぁ……」
「男は黙って最終兵器! そりゃ、誤解もするわよ」
「あ、めぐみ姐さん、僕らは、あっちですから、此処で」
「そうね。気を付けて帰って……あ、和樹さんが居るから大丈夫か?」
‶ あはははははは、あ―――っはっはっは ″
駿は、引いて歩いていたヴェスパにキックで火を入れると、めぐみにヘルメットを差し出した。そして、二人乗りで帰路に就いた――
‶ ベェ――――――――――――ンッ、ベンベン、ベべべンッ、べべべッ! ″
「めぐみちゃん、着いたよ」
「ありがとう。七海ちゃんも居るし、寄って行くでしょう?」
「そうだね。そうするよ」
階段を上って、玄関の前に立った瞬間、七海が、勢いよくドアを開けたので、めぐみは、顔面パンチ状態で弾き飛ばされた――
「駿ちゃん、ようこそ―――っ!」
「七海ちゃん、今晩は」
「ヴェスパの音が聞こえたから、もしかして? と思ったけど……階段の足音で分かったお」
「それは良いけど……」
「どったの?」
「あのねぇ! まったく、ドアを勢いよく開けるからぁ……鼻血出てない?}
「あー、出てない出てない。大丈夫、気のせいだお」
「七海ちゃん、お邪魔するよ」
「うんっ! 入って入ってっ!」
「ったく、イチャイチャしやがってっ! ゴメンねくらい、言えっつーの!」
「もう、めぐみお姉ちゃん、何時まで怒ってんのよ――ぉ。今日の夕飯は、すき焼きだお」
「な、何ぃ。贅沢な、駿さんが来る事を知ってたみたいな?」
「ちげーよ。父ちゃんが色んなモン買って来たから、おすそ分けだお」
「おや? これ、牛肉じゃ無いよ?」
「そうなんよぉ。今夜はぁ、鳥すきなんだお」
「七海ちゃん、まさか、この土鍋ですき焼すんの? すき焼きと云えば鉄鍋でしょうに?」
「七海ちゃん、この鍋は? 何だか、特別製な感じがすけど?」
「流石、駿ちゅぁ――ん! これはぁ、湖東焼って言うんよ。中川一志郎窯の土鍋だお。んで、陶板焼きみたいに、高温で焼き付ける料理が出来るんよ」
「マジか?」
「マジマジ。鍋が熱くなるまで時間が掛かるけど、そこからは、あっと言う間だお」
七海は、高温になった土鍋に、鳥の脂を入れると白煙が立ち上った。そして、匙でザラメを投入した――
‶ ジャア―――――――――――ァ、ジュウジュウ、ジャア――――――――——ァッ! ″
「比内地鶏の薄切りを入れて、ザラメを纏った所へ割り下だお。そして、固くならない内に、比内地鶏の卵を絡めてサッと食べてちょっ!」
「うっほ――――い、メレンゲに黄身玉とは、おつだねぇ」
「はぁ——い、駿ちゃんの」
「ありがとう、七海ちゃん。頂きます」
七海は、駿に付きっきりで食べさせ、めぐみは、ももの薄焼きが終了後に、砂肝とレバーにキンカン、ささみのお造りを堪能していた――
「レバーに山椒も良いねぇ。コックリした肝類に、砂肝の食感と、ささみの山葵がサッパリするよ」
「でしょう? 〆は当然、親子丼だお。濃厚なコクが出た割り下を、地鶏の卵で残さず固めるから、旨いぜっ!」
こうして、三人は舌鼓を打って、すき焼きパーティは終了した――
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