謝罪と和解。
報告を済ませると、本殿を後にした。そして、めぐみに声を掛けた――
「めぐみさん……」
「あ、和樹さん、お疲れ様」
「ちょっと、話がしたいのだが?」
「話し? 勿論、良いけど……」
和樹は、参道脇の竹藪の中にめぐみを連れて行った――
「実は、めぐみさんが時読命になる事を、すっかり忘れてしまっていたんだよ」
「まぁ。そんなの、何時の事か分からないし。気にしていないけど?」
「うむ。確かにオレにも何時になるかは分からない。しかし、その前に、南方武に謝罪をしたいんだよ」
「謝罪? どうして? あんな我が儘な奴、あれくらいで済んで良かった方よ」
「いやぁ、南方は正しかったんだよ。むしろ、一方的に彼の計画を破壊してしまったのはオレ達の方なんだ。伊邪那岐様と話して良く分かったよ……」
「ふーん、コンピュータが人間を支配する計画は、結局、破綻する運命なのに?」
「やはり……めぐみさんには、未来が分かる様だね」
「未来って云うか、それが何百年、何千年後かは分からないけど……所詮、人間は人間だもの」
「そうなのかい?」
「まぁ、非人間的な人間を排除したり、悪人を特定したりする事で社会は平和と共に発展するけど、人間はそれを破壊すると思うの」
「何故、そんな事を?」
「押さえていた欲望や感情が爆発し、AIは人間をコントロールが出来なくなるよ。人間の残虐性が再び目覚め、善悪の価値基準を壊そうとするに決まっているわ。木も花も山も川も、動物も自然の中で生きているけど、人間は与えられた物だけでは満足しないのよ」
「そう云う事か……」
「地上で起こる悪事は、全て人間によるものでしょう? 自分達の作った便利な道具が、とうとう自分達を超えて……いいえ、腹黒い野心家には都合の悪いアイテムになってしまうの」
「そうなのか、修行ばかりしていたから、周囲の状況が目に入っていなかったようだなぁ……」
「和樹さん、南方に謝罪と云うか、和解をしに行くなら、付き合うけど? なんなら、駿さんも一緒に誘ったらどう?」
「あぁ、そうだな、それが良いよ」
「じゃぁ、連絡しておくね」
「有難う。それでは、また後で。さようなら」
参道を去って行く和樹を見送ると、早速、駿に連絡を逸した――
‶ リリリリリリリ―――ンッ、リリリリリリリ―――ンッ、リンツ! ″
「もしもし」
「あ、駿さん。めぐみです」
「めぐみちゃん、久し振り」
「あの、和樹さんと南方の所へ行くけど、一緒にどうですか?」
「良いけど? でも、南方の所に何か?」
「和樹さんは、伊邪那岐様に計画を破壊した事を知らされて、和解したいみたいなんですよ」
「あぁ。そう云う事。分かったよ、何時頃?」
「仕事が終わるのが、五時過ぎなんで……」
「分かった。その位に到着する様に行くよ」
「よろしくお願いします」
連絡を済ませ、ホッと一息吐くや否や、背後にピースケが居た——
「うわぁっ! 脅かさないでよっ!」
「うんにゃ。だぁ——れも、脅してなんかいませんよ? 何か、やましい事でも有る様ですねぇ……」
「いや。何も」
ピースケは、脇をスリ抜けようとする、めぐみの腕を掴んだ――
「めぐみ姐さん。何か隠してますね? 水臭いなぁ……」
「いやぁ、別に……」
「和樹兄貴と、何を話していたんですか?」
「そんな事、関係無いじゃない。プライベートな事に立ち入る物じゃないわよ」
「めぐみ姐さん、僕にだって分かるんですよ。デートの約束をしていた分けじゃないでしょうっ!」
「あぁ、う――ん。まぁ、ピースケちゃんも、関係者だからなぁ……」
めぐみは、ピースケに経緯を話した――
‶ ヒソヒソ、コソコソ、ヒソヒソ、コソコソ ″
「えぇっ! 南方の所へ? 何をされるか分かりませんよ……」
「大丈夫よ。謝罪をして、和解してお終いよ。行く?」
「皆さんが行くなら、僕も行きます。当然ですよっ!」
日も暮れて、めぐみ達はW・S・U・Sに向かった――
—— W・S・U・S本部
「父さん、大変ですっ!」
「どうした、マックス?」
「コレを見て下さい」
「むむぅ。コレは……和樹と駿とめぐみとピースケが、こちらに向かっているぞ」
「一体、どういう事でしょう?」
「奴らめっ! 又、私の計画の妨害をする気だなぁ、セキュリティを厳重に、銃火器の用意も怠るなっ!」
「いいえ、父さん。その様な、殺気は有りませんよ?」
「何ぃ?」
「足取りも軽く、一般の、訪問者と変わらない感じです」
南方は、監視カメラに映る、めぐみ達の映像を確認すると、戦闘態勢ではなく、普通の人と何も変わりが無い事に驚いた――
「マックス、奴等は、一体、何をしに来たんだ?」
「さぁ?」
めぐみは、通用口のインターフォンを押した――
‶ ピンポーン! ピンポーン! ピンポーン! ″
‶ 此方は、WSUS本部です。本日の業務は終了致しました。明日の営業時間は、午前九時から午後五時迄です。尚、緊急の方は、受話器を取って、お話下さい ″
「面倒臭いなぁ……」
‶ トゥルルルルルー、トゥルルルルルー、トゥルルルルルー ″
「はい。警備室です。御用件をどうぞ」
「あの、鯉乃めぐみと申します。南方所長に『あの時の、謝罪にやって参りました』と、伝えて頂きたいのですが?」
「分かりました。今、繋ぎますね」
‶ タラララ、ラララ――ン、タラララ――ン、タラララ――ン ″
「あぁ、今開けますので。中にお入り下さい」
‶ シュイ――――――――――――ンッ! ″
「こんばんは。南方さん、お忙しい所、突然、押し掛けて申し訳有りません」
「一体、何だ? 『あの時の、謝罪』とは、どういう風の吹き回しだ?」
和樹は、めぐみの前に出て、深々と頭を下げた――
「自分達が間違っていました。計画を破壊して申し訳ありませんでした」
和樹に続いて、全員が、頭を深々と下げた――
「ふぅむ。もう良い、済んだ事……通り過ぎた過去だ」
「寛大な対応、有難う御座います」
「まぁ、今頃になって、あの計画の偉大さを知った所で、無意味なのだ」
「申し訳ありません……」
「もう良い。頭を上げなさい」
マックスは、テーブルに案内し、お菓子を各々に配ると、お茶を淹れて差し出した――
「どうぞ、お召し上がり下さい。そして、お茶を飲みながら聞いて下さい」
マックスは、破壊された計画のその後について語り、現在進行中の計画を話した。それは、アマテラス復活後に通信衛星が殺戮兵器になる計画だった――
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