正義と真実の神。
真っ暗な車内は、ジメジメした土の臭いが充満し、絡み付く根に全身を締め上げられて、息も出来なくなっていた――
スーさんも、ミコトも、猿田彦も、漆黒の闇の中で指先一本さえ動かす事が出来ず、神力も発揮出来様はずが無かった。そして、このまま地中に引きずり込まれて、土に還る覚悟を決めた、その時——
〝 シュゥ―――――――――――――――――――ンッ! ″
細く微かな風切り音は、影の軍団の耳にも届いた。すると、天の蓋が開き、太陽が現れた――
「何っ……! 貴様は、何者だっ!」
そこに現れたのは、建御雷神だった――
「フッフッフ。天知る、地知る、人が知る。悪の蔓延る所、風の様に参上する、正義と真実の神、地上名、竹見和樹こと建御雷神とは、俺の事だ――ぁっ!」
「おぉっ! 助かったぜっ!」
「いよっ! 日本一っ!」
「良い男だねぇ。惚れちまうじゃないか」
「ぐぬぅ、口上とは生意気なっ! やってしまえっ!」
切られた松の木が、再び再生し、天へ伸びて、取り囲んで行った――
「えぇいっ!!」
和樹は、剣を握った腕に気合を入れると、見る見るうちに凍って行った。そして、一振りすると全ての松が凍り付いた――
「おぉっ! let It go的な?」
「まるで、アナ雪みたいだぜっ!」
「馬鹿だねぇ。こっちの方が先だよ」
そして、もう一振りすると、凍った全ての松の木が、粉々に砕けて氷の結晶となり、春の日差しにキラキラと輝き、辺りはダイヤモンド・ダストに包まれている様だった――
「何だか、苗場にでも居る様な心持だぜ」
「ユーミンを、思い出すなぁ」
「あの頃は、良かったねぇ」
影の軍団の第一陣は、和樹の氷の剣によって粉砕された――
「くそっ! コレで済むと思うなよっ! 第二陣、掛かれっ!」
〝 ゴゴゴゴゴゴゴォ―――――――――――――――――――ッ! ″
第二陣は、地鳴りと共に現れた。それは、直径三メートルから、十二メートルの巨大な岩だった――
〝 ドッスンッ! ドッスンッ! ドッスンッ! ドッスンッ! ドカンッ! ″
「さぁ、此奴を、潰してしまえ―――っ!」
天空高く飛び上がった岩達は、和樹とスーさん御一行を目がけて落ちて来た――
「でぇえ――――いっ!」
和樹が、再び剣を握った腕に気合を入れると、剣は銀色に光り、そして、一振りすると、辺りは一瞬にして雷雲に包まれ、雷の束が、和樹の剣を目がけてピッカと光った――
〝 ドッカァ――――――――――――――――――ンッ!! ″
一瞬にして、岩は粉々になり、砂埃へと変わった――
「こりゃぁ、正しく、神の雷ってぇモンだぜ。見事だぁ」
「『黄砂に吹かれて』って感じだなぁ……」
「なんだい、みゆきが歌いたくなるじゃないか。これが跳ねたら、カラオケと洒落込もうじゃないか」
次から次へと、兵を送り込んでも、和樹は、涼しい顔で退治した。そして、数百、数千の兵が塵となって消え。とうとう、尽き果てた――
「もう、これまでか、よしっ、この俺が、相手だっ!」
陣頭指揮を執っていた男が、自動小銃を構えた――
「ふん、良かろう」
「死ねぇ―――っ!」
〝 ズダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダァンッ! ズダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダァーー――――ンッ!″
「こりゃぁ、駄目だ」
「死んじまうよっ!」
「きゃあ―――――――――っ!」
ミコトの悲鳴に、飛びちる薬莢。全員が、和樹は死んだと思った――
「フッフッフ。もう終わりか?」
「何ぃ……!?」
ガン・スモークが立ち込める中、和樹が全身に力を入れると、身体に打ち込まれた銃弾は、ひとつ、ふたつと、体内から排出され、落ちた銃弾は、ドロドロに溶けて行った――
「そんなオモチャで、このオレが、殺せるとでも思っているのか?」
男は、慌てて引き金を引いた――
〝 カチャ、カチャ、カチャッ! ″
「フッ。今度は、こっちの番だっ!」
和樹は、剣を地面に突き立てると、息を吐いて突進した――
〝 トゥッ! アチョアチョ、アチャチャチャチャ―――――――ッ! アタ
ァ――――――――――ッ!! ″
「ぎゃあぁ―――――――――――あぁ……」
「参ったか?」
「くそっ、ひと思いに……殺してくれ」
「そうは行かぬ。お前の、ボスに用が有る。さぁ、答えろっ!」
「はぁ……それは、言えぬ……我々は、居場所など……知らされては、居ないのだ……」
〝 ガクッ ″
「下を噛み切ったか……」
男は、和樹の腕の中で、霧散した――
「おうっ! 和樹ちゃん、助かったぜ」
「一時は、どうなる事かと思たぜ」
「あんたぁ、良い男だねぇ」
「はっはっは。皆、無事で良かった。何か有ったら、伊邪那岐様に顔向けが出来なかったよ」
「ねぇ、あんた。これから皆で、カラオケに行くんだけど、一緒にどうだい?」
「いや。お誘いは嬉しいが、オレにはまだやる事が残っている」
「良いじゃないかぁ……せっかく知り合いになれたんだしさぁ……」
「おい、ミコト。お前さん無理を言っちゃぁならねぇよ」
「何だい、スーさんまで、そんな事を言うのかい?」
「分け有りなんだよ」
「分けって、何だい?」
「和樹ちゃんは、二代目なんだ」
「二代目って!? そりゃぁ、一体、どう云う事なのさ」
「先代の建御雷神が、罠に嵌められたんだ」
「罠って……」
口籠るスーさんを、気に掛けた和樹が語り出した――
「我が父上は、大地を揺るがす、大鯰を退治したにも拘らず、関東大震災が起きた事。そして、戦争が始まった事の責任を追及され、その力を封じ込められてしまったのです」
「そんな、馬鹿なっ!」
「それは、つまり、日本人の武士道精神を奪い、堕落させる事を意味しているんだ」
「どうして……」
「影の軍団のボスが、戦勝祈願の神社を建立した事が、発端なんだ。その正体は、邪神を呼び込むアンダー・グラウンドの神社なのだ」
「それじゃぁ、神様が多過ぎて渋滞しているって事かい? 八百万と言うのも、考え物だねぇ……」
「そう云う事さ。それ故、正義と真実を追求し続ける、オレの戦いは終わらないのだっ!」
「あんた……良い男だねぇ」
「では、皆さんの道中の安全をお祈りします。さらばっ!」
竹見和樹によって、絶体絶命の危機を救われた、スーさん御一行。カラオケの前の腹ごしらえにと、那智勝浦へと向かっていた――
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