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恐怖を勇気に変えるのだ!

 喜多美神社の日も傾き、めぐみは、一日の仕事を終えようとしていた。すると、七海がやって来た――


「めぐみお姉ちゃんっ!」


「あら? 七海ちゃん。久し振りに来たねぇ。パンの試作品なら食べてあげるよ」


「ちげーよっ! 大変なんよ」


「大変って、何が?」


「それがさぁ……」


 七海は、典子と紗耶香を意識して、めぐみの耳元で囁いた――


「え? 何々? 巷で、おこと教室を、おとこ教室と読み間違える例はネタにすらなっているが……真の『おとこ教室』が三丁目に出来たと……」


「そうなんよ。ヤヴァくね?」


「それって、読み間違えじゃなくて、看板の書き間違えでしょう?」


「あっシも、目を疑ったんよ。ところが、面白ネタと思って写真をインスタに上げたら、バズっているんよ」


「だからぁ、ネタとして、ウケただけでしょう?」


「それがさぁ、今、教室の前を通ったら、女子が並んでいるんよ。それも、ハンパ無い数だお? ありえねぇーと思って、並んでいる女子に聞いたら、有名なマナー講師が新規開業したガチの『おとこ教室』だと分かったんよっ!」


「あ。あの時の、怪しいマナー講師だな……でも、それならそれで、良いんじゃない?」


「興味無いん?」


「うん。別に?」


「『おとこ教室』だお? 未だ曽て、見た事も、聞いた事も無い、有りそうで無かった、『おとこ教室』だお? 女子が行列だお??」


「あのさぁ。女子って言ったって、どうせ『No Harassment in Tokyo』であぶれた、アラサー・アラフォーのポンコツ女子でしょう?」


「めぐみお姉ちゃん、酷い事言うなぁ……」 


「だって、西野木誠が『対象外も有り』って、言ってたもん」


「分かって無いなぁ……『おとこ教室』に並んでいたのは、JC・JKばっかりだお?」 


「あらら? これからの、若者を対象にしているのかぁ……」


 七海は、めぐみを強引に『おとこ教室』引っ張て行った――


「めぐみお姉ちゃん、早くっ! 始まっちゃうじゃんよ――ぉ」


「七海ちゃんさぁ。あんたには、駿さんという心に決めた人がいるでしょうに?」


「好奇心旺盛なんだお。色んなテクが、教えて貰えるかもしれないじゃんよ――ぉ」


「チッ、男と女は、そんな、付け焼刃のテクで、どうにもなりゃぁしねぇ――んだよっ!」


「良いから、早くっ!」


 教室の中には、既に八十人近いJC・JKが居て、アラサー・アラフォー女子の姿もチラホラと有った――


「皆様、今晩は。初めまして、講師の有栖川幸恵で御座います」



 ‶ パチパチパチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチ ″



「本日は、お忙しい中、こんなにも、沢山の麗しき女性の皆様から、関心をお寄せ頂き、誠に有難う御座います」



 ‶ パチパチパチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチ ″



「それでは、これより『おとこ教室』を始めさせて頂きます。普段、私は殿方と敬意を持って言っておりますが、『おとこ教室』では、あえてフランクに『お・と・こ』と言わせて頂きます」



 ‶ クスクスクスクス ”



「おとこだけにフランクかと。そこで笑っている皆さんは見込み有ります。さて、それでは、本講座の概要から、ご説明致します」


有栖川幸恵は、チョークを持つと、黒板に小気味良い音を立てながらスラスラと書いた――



 ‶ タンタン、シュッシュ、タタンタン、スゥ——、タタタン、タンッ! ″


一、男の本質を見極めるべし

二、女の技を磨くべし

三、男を制するべし


「よろしいですか、皆様。先ず第一に、男とは何か? この単純な質問に答えられる人は殆ど居ません。どなたか答えられますか?」


 元気で屈託のないJK・JCが挙手をした――


「先生、男とは……男であって、それ以上でも、以下でも無いと思います」


「女じゃないのが、男じゃ駄目でつか?」


「ほ―――――っほっほっほ。まだまだ、ひよっ子。青い青い。青い果実は、未だ食べ頃では有りませんねぇ。おとことは……」



 ‶ タンタン、シュッシュ、タタンタン、スゥ——、タタタン、タンッ! ″



 おとことは、性欲なり


「ズバリ『性欲』ズバリですっ!」



 ‶ ザワザワザワザワザワザワ、ザワザワザワザワザワザワ ″



「御静粛に!」


「先生、でも、男性の性欲って、怖くないですか?」


「パワハラからのセクハラ、覗き、盗撮、痴漢に強姦魔まで。最悪ですっ!」


「私、襲われるのは、嫌ですっ!」


「そうですね。おとこの性欲……それは、時に自らの人生を破滅させる程だと云う事を、皆さんは肌で感じて知っているのです。ですから、あなた達は見込みが有りますよ」


 有栖川幸恵の講義を聞いていたJC・JKの中には、失望して泣き出す子も居た――


「先生、そんな、破壊的な性欲を、私達は、どうすれば良いのですか?」


「ハイ、良い質問ですね。女が生きて行く為には、絶対に、守り抜かなければならない物が有るのです。先ず第一に、おとこに対する恐怖を、勇気に変えるのですっ!」



‶ パチパチパチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチ ″



「皆さん、それを実行するためには、女の技を磨く事です。近年、活躍する女性、強い女性が持て囃されますが、それは表層的な物でしか有りません。所詮、世の中、おとことおんな。おとこに負けたくない等と、張り合うだけ時間の無駄、人生の浪費なのです」



‶ パチパチパチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチ ″



「皆さんの中には、会話が上手く出来ないとか? 容姿に自信が無いとか? 積極的になれない方も居ると思います。そんな時、私の言葉を思い出して『恐怖を、勇気に変える』を実践して欲しいのです。具体的に申しますと」



 ‶ タンタン、シュッシュ、タタンタン、スゥ——、タタタン、タンッ! ″



一、 おとこの性欲を利用する

二、 おんなの色気で支配する

三、 我慢できない状況まで、追い込む


「よろしいですか、皆様。どんなに格好を付けても、所詮、おとこはおとこ。女の肌に触れればイチコロです。性欲を刺激された、その瞬間に98.7%の判断力を失うのですっ!」



 ‶ オオオオ――――――――――――――――ォッ! ″



「乗って来ましたね。それでは具体的に実践テクニックを紹介しましょう」


「七海ちゃん、もう、帰ろうよ」


「まだ、始まったばかりだおっ!」



 めぐみは、目を爛々と輝かせるJC・JKと七海に恐怖すら感じていた――






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