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モテ期に無敵は御用心。

 エセ関西弁の占い師は、深い溜息を吐いて、目を見開いた――


「あんたは若いやんか。適齢期っちゅうやっちゃ。せやからモテ期が嬉しいのは分かる……けどなぁ」


「けどなんですか? なんなんですかっ! 良い報告をしに来たのに」


「例えばやで、ガリ勉で、一部上場企業に入っても誰にも相手にされへん彼女のおらんのんが、何かの役職が付いたとたん、急にモテ期が到来すると、どーなる?」


「良いじゃないですか。やっと、周囲の評価が追い付いたんですよ」


「ちゃうって。本人の価値とは別の価値が求められているだけやねん」


「それだって……本人の価値には違い無いですよっ!」


「分からんか? ほんならプロジェク・トリーダーになって、モテまくりの男はどうや?」


「良いじゃないですか」


「良いか。それがな、奥さんと子供が二人おるんやで?」


「えぇっ!?」


「男の人生ってな。努力が実って、成果を上げて、結果を出して、ホッと一息吐いた時が危ういねんて。踊り場の危機っちゅうやっちゃ」


「そんな事、無いと思いますけど」


「あんなぁ。『自分を信じて、やって来て良かったぁ』と思うだけならええねん。でも、人間って、そう云う時はな、無双感がハンパないねん。ほんで、脇がガバガバになって、危険回避どころか『掛かってこんかいっ!』って、危険に突っ込んで行くねんて。ほんで、結局、最愛の娘に『触らないで、こっち見ないで、汚らわしいっ!』って言われてみ? 死にたくなるやんか」


「私は女ですけど……」


「だから『モテる』って、どう云う事か、分かって無いねんて」


「えぇ?」


「あんた。毎日、毎日、引きも切らず、要らん男に求愛されるんやで? 好きやって言うて来る相手を無下にも出来ひんしなぁ。雑な対応したらストーカーになるかもしれんし、取り扱い注意やんか? くたびれるでぇ、ホンマに」


「まぁ、毎日は、ちょっと……でも、誰だって、モテたいでしょう?」


「男はハーレムに憧れる言うけどな、実現しないから言えるんや。ホンマにハーレム言うたら、もう、 家に帰ったら、何十人も全裸の女がおるんやで? 毎日、何十人もの女の相手をせなあかんねんで? 体力持たへんて、正直しんどいやんか? 女房に出したい、退職届やで?」


「あぁ……」


「今日のあんたの占いは、三角関係とか……四角関係みたいな?『男女関係に気を付けなはれっ!』ちゅうこっちゃ」


「全く、心当たりが無いけど……」


「アホ。手紙貰ってるやんか。ガンガン告られるでぇ」


「えぇっ! 本当ですか? 嬉しいっ!」


「アカンなぁ……言うたやろ? あんたの相手は、優しいイケメンでも、爽やか君でもない。絶対に人を信用しない人間や」


「そんなの、ガッカリです……」


「自分の心を絶対に他人に明け渡さない、鋼の男や。間違いないっ!」


「うわぁ、人を信用しない男が、何か、恰好良く聞こえて来た」


「せやろ? 明日以降、あんたに告って来る奴は全員雑魚。身体目当ての遊び目的や。楽しんだら、直ぐにポイや。覚えとって」


「はぁ。そんなの……最低ですよ。それじゃぁ、告られても、嬉しくないじゃないですか?」


「そうや。まぁ、あんたが真のパートナーと出会う前の、試練みたいなもんやで。しっかり、気張りや」


「はぁ……」


 沙織は、モヤっとする思いで、黒をテントを出た。そして、多摩川沿いを歩いていると、夕闇に聞き覚えの有る声がした――


「あれ? 父さん?」


 目を凝らすと、実が犬と遊んでいる姿が見えた――



 ‶ ワンワンワンワンッ! ″



「あぁ、いい子だ。賢いなぁ」



‶ ワンワンワンワンッ! クゥン、クゥン ″



「父さんっ!」


「おぉ、沙織。今帰りか?」


「もう、ワンちゃんが可愛いのは分かるけど、お母さんに怒られるわよ」


「あ。沙織さん。こんばんは」


「めぐみさん、こんばんは。父が、すみません」


「あ、いえいえ、此方こそ。ショーティも嬉しそうで。やっぱり、みんなで遊ぶと楽しいみたいで」


「みんな?」


「お姉ちゃん、ショーティは、とっても賢いんだぜ。それに、何でも出来るんだよ」


「まぁ、良太まで……うちの家族が、すみませんですぅ」


「沙織さん。ショーティはストレス発散が出来て最高なんですよ。私ひとりでは疲れて無理です。お礼を言わなくちゃ、有難う御座います」


「あぁ、はぁ……」


「そうだ。めぐみさんも、夕飯はまだでしょう?」


「はい」


「お近づきのしるしに、家で夕飯を食べて行きませんか?」


「え? でも……ご迷惑では?」


「めぐみさん、この間、僕が助けって貰ったお礼だからさぁ。母さんも喜んでくれるよ」


「そうですか? それでは、御厚意に甘えちゃいます。うふふふ」


「うん。あははは」


「それが良い。はっはっはっは」


 沙織は、すっかり、仲良し三人組になっている事に驚いていた――


「ただいま。おーい、今帰ったよ」


「何だい、遅かったじゃないかっ! こっちは……」


「お客さんだ」


「こんばんは。鯉乃めぐみです」


「あら、いらっしゃい……」


「母さん、めぐみさんは、僕を助けてくれた命の恩人だよ」


「えぇ!? じゃぁ、あの時の? これは失礼致しました。どうぞ、お上がり下さい」


「めぐみさんに、夕飯を頼むよ」


「はい。お口に合うか、分かりませんが……」


 沙織は、父が、何時もより堂々としていて、母が、世間体を気にして余所行きの対応をしていると思っていた――


「沙織、ボ―っとしてないで、手伝いなさい」


「はい?」


 食卓に夕飯が用意されると、真っ白いご飯は湯気を上げていたが、並んだおかずは茶色い物ばかりだった――


「母さん、お客さんが来た時くらい、美味しいものを食べさせてよ」


「お前が、味より量だって言うから、こういう献立なんじゃないかっ!」


「まぁ、良いじゃないか。めぐみさん、こんな物しか有りませんが、まぁ、コレが我が家の経済状況なんで、許してやって下さい」


「そんなぁ。炊き立てのご飯だけでもご馳走ですよぉ。いただきますっ!」


「まったく、お客さんが来るなら来るって言ってくれりゃぁ、こっちだって、腕によりをかけて用意しましたよっ! 突然、連れて来るんだから。嫌になっちゃいますよ。男って言うのは気が利かないでしょう。御免なさいねぇ、めぐみさん」


「あぁっ! この煮物、美味しいっ!」


「そうですか? 分かる人には分かるんですねぇ」


 雅美は、家族を睥睨へいげいした――


「だって、毎日じゃん。茶色いのばかりじゃ、物足りないよ」


「良太、あんたは食べ過ぎよ」


「お姉ちゃん、十六歳は育ち盛りなんだよ。餓死しちゃうよっ!」


「良太くんは、大袈裟だなぁ」



 ‶ あっはっはっはっは、ほ――っほっほっほっほ、うふふふふふふふっ! ″



 喧嘩の絶えない滝沢家に、不思議な事に笑いが絶えなかった。伊邪那美の神力が効き始めている事を、めぐみは気付いてさえいなかった――






お読み頂き有難う御座います。


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次回もお楽しみに。

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