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女心と初夏の空。

 ――お昼休み


 みんなで食事をしていると紗耶香が聞いて来た――


「めぐみさん、さっきのお届け物って何だったんですか?」


「あっ、忘れてました! 授与所であんな口論になったからすっかり……」


 届いた荷物が見当たらないと思ったら神職が冷蔵庫に入れていた――


 箱には「全人類と地球を健康に。差出人 須藤玲子」とあった。


「玲子さんからだ!」


中にはサプリメントと大ヒット商品の「超腸ビフィズス菌ミロミロ」と新発売の「タフウーマン」が入っていた――


「冷たくて美味しい、身体が喜ぶ感じね。グッジョブ!」


「うん、うん、飲み易くて、良い感じですよぉ。グッジョブ!」


「もう、役立たずと言われたかと思えば何ですか皆さんっ、本当に女心と秋の空ですねぇ」


 三人が声を揃えて言った――


「秋には早い、今は初夏!」


 社務所に笑い声が響くと、仲直りをして和気藹々としていた。だが、三人の巫女は「女なんてヒステリックで我儘で……」と言われた事を思い出していた――



 喜多美神社を後にした和彦は母親を送り届けると、その足で大型のアウトドア専門店に向かっていた「御注文の商品が入荷しました」と連絡が有り、受け取りに行く予定だった――



 お店に到着すると、時計を見た――


「十分遅れ。神社で時間を無駄にしたなぁ」


 店内に入ると直ぐにサービス・カウンターに行き、サマーテントとシュラフを受け取る予定だった――


「藤田様、何時も有難う御座います。申し訳ありません、御注文の商品のお色はグリーンにホワイトのロゴがプリントされている物でしたが、検品するとブラックのプリントだったので、商品部に問い合わせて今、取りに向っておりまして……」


「あ、そうですか。後どれ位かかりますか?」


「はい、三十分も有れば戻ってくると思いますが……」


「ああ、だったら、店内を見て時間を潰しても良いですか?」


「勿論です。どうぞゆっくりご覧になって下さい。気になる商品が御座いましたら声をお掛け下さい」


 店内を見回すと、様々な新商品で溢れていたが、手に取って見てみるとそれほど興味が持て無かった――


 殆どの物は揃えて有る上に、映えるキャンプ・グッズを並べ立てたお洒落キャンプを軽蔑していた。便利さを求めて物が増えるのは不自由さが増すだけで「馬鹿です」と発表している様な物だと信じて疑わなかった――


 登山コーナーで小さなカラビナを買い、そのまま釣りのフロアを眺めていると、子供が走り回って色々な商品を触って、手に取っては適当な所に戻していた――


「まったく、母親は何をしているんだ? 子供をほったらかしにして、怪我でもしたらどうする気なんだろう。無責任な親に育てられると子供は可哀想だな……」


 疑似餌のコーナーに足を止め、棚に陳列してある商品数に圧倒されながら、ルアーを手に取って見ていると、店員が小走りでやって来た――


「商品が届きましたのでご確認をお願いしまーす」


「はい。今行きます」


 商品を戻そうと手を伸ばした時に棚と自分の間を子供がスリ抜けて、ぶつかった拍子にルアーを手から落としてしまった――


「コラッ! 危ないから走ってはいけませんよ!」


「ごめんなさいっ」


 子供は振り向いてとペコリと頭を下げて去って行った――



 サービス・カウンターに着くと店長が謝罪をした――


「わざわざお越し頂いたのに、お待たせして申し訳ありませんでしたね」


 サマーテントとシュラフを渡す時に「お詫びの印」にと言って、何かオマケを入れてくれた――


 藤田は時計をチラッと見ると「ふんっ」と溜息を吐いて、出口に向かった。店外に出ると、さっきの子供が警備員に捕まっていた。気にせず通り過ぎるつもりだったが「万引きをした」と言われて子供が泣いて否定しているので振り向くと、警備員の手にはあのルアーが有った――


「あの、そのルアーはぶつかった拍子に、その子のポケットに入ったのだと思います」


 藤田は落としたルアーを棚に戻そうとしたが、ルアーが見つからず、そのままにしてしまった事が原因だと、事情を話して事務所に行き、店内の監視カメラの検証をして、ようやく疑いが晴れて、警備員が子供の保護者に連絡をした――


「お母さんは仕事で迎えに来れないそうだよ」


 すると、子供が大声で泣き出してしまい、藤田は自分がその場で落としたルアーを探さなかった事が原因だと責任を感じていた――


「あの、僭越では有りますが……私が送り届けてもよろしいでしょうか? こうなったのも自分が原因ですし、このままでは心配で帰れませんから」


 警備員が保護者に了解を取り、藤田が送って行く事となった――


 車に乗り込みシートベルトをすると渡されたメモの住所に向って走り出した――


「坊や、歳は幾つだい?」


「六歳」


「そうか、六歳か……」


「うん」


「…………」


 藤田は何も話す事が無く困惑した――


「あっ!」


 坊やがハンバーガー・ショップを指さしてシートの上をポンポン飛び跳ねた――


「食べたい?」


「うんっ」


 そのままドライブスルーに入って注文をした――


 ハンバーガーもフレンチフライもそっちのけでソフトクリームにかぶりついていた。坊やの目当ては期間限定のソフトクリームだった――


「美味しい?」


「うんっ!」


「そう言えば、名前をまだ聞いてなかったね。坊や名前は?」


「颯太! 僕の名前は佐藤颯太って言うの、おじちゃんは?」


「おじちゃんは和彦。藤田和彦って言うんだよ」


「ふーん」


「…………」


 幼い子供と共通の話題など有るはずも無く、会話は全く進まなかったが、車は進んで行った――


 そして幹線道路を走っているとソフトクリームが溶けて流れ出してしまい、颯太の手も口もベタベタになっていた。藤田は御手洗いの利用出来る施設に入って、颯太の手を洗い、持参したハンドタオルで口元を拭いてあげた――


「綺麗になったね」


「うんっ、ありがとー ございましたっ!」


「礼なんて要らないよ。そうだ! 時間が有るから少し遊んでいこうか?」


「やったーっ!」


 その施設はゲームセンターだった―― 


 アーケード・ゲームにフォー・ユーキャッチャ―、メダルゲームまで、一緒に遊んでいると時間が経つのを忘れてしまった――


「うっかりしたなぁ……もう、こんな時間だ」


 ゲームを中断してメダルを預けて、慌てて颯太を送って行った――



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