みんなで仲良く。
めぐみと沙織は、伊邪那美に見送られ、仲良く帰路に就いた。そして、その頃、スーさんとミコトは――
「連れて 逃げてよぉ―――」
「付いて おいでよぉ」
「夕暮れのぉ」
「雨がぁ降るぅ」
〝 矢切のぉ――――お、渡ぁしぃ――――――――――――――――いっ! ″
マック寄って、ゲーセン行って、カラオケに興じる、まるで中高生の様だった――
「歌ったなぁ」
「歌ったねぇ」
「お次は何だい?」
「そうだねぇ。回転寿司が良いねぇ」
「回転寿司?? よぅ、どーでも良いけど、これだけ名店が並んでいるって云うのに、安い、安い、下らねぇモンばっかりだなぁ……」
「お嫌かい?」
「いいや。お前さんが、それで良いんなら、おいら、付き合うぜ」
「あんた。良い男だねぇ。女が求めるモノを分かっているよ」
結界を張った家を出て、影の軍団に追われる身のふたり。何時しか惹かれ合うものが有ったが、猿田彦が、それを放っておく分けが無かった――
〝 ブォ――――――ォン、ドンシャカ、ドンシャン、ドンシャカ、ドンシャン、ブォン、ブォンッ! ″
「ちょいと、そこ行く、おふたりさん。そぞろ歩きの、おふたりさんっ!」
派手な改造車に乗った猿田彦に声を掛けられたミコトは、スーさんの袖を引き、急ぎ足で立ち去ろうとした――
「無視すんなっ!」
「そんな改造車で、爆音流しながら声掛けられたら、誰だって、無視するに決まっているじゃないか。恥ずかしいねぇ」
「あぁっ! お前さんは、猿田彦じゃないかっ!」
「お久しぶりです」
鼻の長さ七咫、背の長さは七尺あまり、身長はまさに七尋。口と尻は明るく光り、眼は八咫鏡の様で、爛々と照り輝くさまは赤い酸漿に似るという姿は、とても巨大であった――
「相変わらずデカいなぁ……でも、ちょっと痩せた?」
「えぇ、まぁ、筋トレとダイエットなんかして、人間サイズに近づけたんですけど……」
「お前さんも、苦労人だねぇ」
「いやぁ、分かってくれて、嬉しいなぁ……違う違うっ! 素戔嗚尊っ! あんた、人の女房に何してくれてんの?」
「いやぁ、そのぉ……成り行きってぇ奴で……」
「成り行きなら何をしてもいいとでも? 冗談じゃないっ!」
「何だい? あんた、妬いてんのかい?」
「当ったり前じゃん!」
「ふんっ! 女を満足させられない癖に、一人前な口を聞くんじゃないよ」
「あんだと?」
「まったく、あんたはムードが無いんだよ。あたしゃ、電気消す派なんだよ」
「俺だって、努力してんじゃん。一生懸命、イケメン風にしてんだろ?」
「女心を分かってないねぇ。これだから嫌んなっちまうよ」
「まぁまぁ、ふたり共、そんなに怒りなさんなって……」
「スーさん、この人はねぇ、あたしが外見が気に入らないと思い込んでいるんだよ? 冗談じゃないってんだ。あたしゃ、男の美醜なんて、これっぽちも気にしたこたぁ無いんだ。そんな狭量な女じゃぁ無いんだよっ! 女は、男の外見なんてどうだって良いんだ、男らしさを見せておくれって言っているんだよっ!」
スーさんは、大きな身体に中学生並のチンコでは、相対的に、より小さく見える事を想像した。そして、多くの女性は外見重視だと感じていた――
「しょうがないだろ?」
「聞いておくれよ、スーさん。この人、美容整形外科で『目黒蓮にして下さい』と言って『おととい来やがれ』って言われたんだよ? 恥ずかしいったら、ありゃしないよ」
「そんな事、言われてねぇ――わ。『立派なお鼻なので、ちょっと無理かも……』って言われただけですよっ!」
「お客だから、気を使っているんだよぉ。そんな事も分からないのかい? あぁ、嫌だっ!」
「あんだと、この女っ!」
猿田彦が手を上げそうな勢いだってので、スーさんは、慌てて割って入った――
「よしなっ! 夫婦喧嘩は犬も食わないぜ」
「原因を作ったのは、あんただろっ!」
「馬鹿だねぇ、原因はあんただよっ!」
「止めろってんだっ! 神様同士が喧嘩なんて、人に見られたら笑われるぜ。三人で仲良くしなくちゃぁ、駄目じゃねぇかっ!」
ミコトも猿田彦も、反省して俯いた――
「まぁ、スーさんがそう言うなら、あたしゃ構わないよ」
「うん、あぁ。俺も……それで良いよ」
「分かってくれて良かったぜぇ……ん?」
スーさんは、ミコトと猿田彦に両脇を押さえられ、連行されって行った――
「沙織さんは、黒テントにはよく行くんですか?」
「はい。私、占い好きなんで。でも、月イチくらいですけど」
「ふーん、インチキ占い師め、儲けてるなぁ」
「インチキじゃないですよ。あの人の占いの言う通りにすると、本当に良い事が有るんで」
「そうなん?」
「はい。まぁ、私の場合、相談相手がいないので、占いが当たるとかじゃなくて、人生相談みたいな感じですけど。それに、出会いですよ。伊邪那美さんに出会って、御札と御守りを授けて頂いて……ちょっと、人生が動き出した感じがするんで」
「はぁ。それは良かったですね」
「めぐみさんは、気が早いですねぇ。まだ何も起きていませんよ。うふふふ。でも、起きる様な予感がするんです。私が、日本一になんかなれっこないけど、そう云う、夢と目標を与えてくれたんで、感謝しているんです」
「はぁ―――あ、沙織さん、ポジティブですね――――ぇ。まぁ、彼奴も人の役に立っているって事かぁ。あはは」
沙織は、別れ際にお礼を言うと、父親の話になった――
「そう言えば、父さんが喜んでいました」
「え?」
「ワンちゃん」
「あぁ、こちらこそ、可愛がって貰って、有難う御座いました」
「父さんは、子供の頃に飼っていたチビの事を、何時までも忘れられないみたいで……」
「お父さんは、優しい人なんですね」
「はい。優し過ぎて人に騙されてばっかりで。まぁ、私も人の事を言えないって云うか、父さんに似たのかなぁって」
「特別な思い入れが、有ったんですね」
「えぇ。何でも、修学旅行に行く準備をしている時にチビがやたらと絡んで来て『邪魔しないで、あっち行けよっ!』って、邪険に扱ってしまったんですって。そして、修学旅行から帰ってきたら、チビが居なくなっていたって……生き別れみたいで、とても辛かったそうなんですよ」
「あぁ……」
「だから、とっても、嬉しそうでしたよ。あんな穏やかな父さんを見た事が無いですから……」
「うちの子は、ショ-ティって言うんですけど、彼も、本当に喜んでいましたよ」
「そうですか。あっ! いけない、長話になっちゃいましたね。御免なさい。それでは、さようなら」
「さようなら」
めぐみは、沙織の後ろ姿を見送っていた。そして、明るく気立ての良い沙織なら「占いなんて、必要無いのに」と感じていた――
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