ショーティの正体。
めぐみは、仕事帰りに多摩川に出ると、自転車を停め、Real・modeで、ショーティを呼び出した――
「ワンワンッ!」
「可愛い――っ!」
「プルプルプルプルッ! ハッハッハ、キュウ——ンッ!」
「尻尾可愛い、大好きっ! 行くよっ、それ――っ!」
めぐみが、ボールを投げると、全速力で走ってノーバンでキャッチした――
「おぉっ! やるねぇ。はぁ――い、おやつ。良い子、良い子」
「ワンワンッ!」
「もう、可愛いんだからぁ――っ! じゃあ、もう一回。それ――っ!」
めぐみは、猛ダッシュするショーティと一緒に走った――
「はぁ、はぁ、ショーティは、タフだねぇ……はぁ。ショーティは言葉が通じるから躾が要らないから良いよ。ふぅぅ」
「ねぇ……めぐみちゃん、橋の下に誰か居るよ」
「え?」
橋の下に人影が有り、目を凝らして見てみると高校生くらいの少年が五人と、中学生くらいの男の子がひとり居た――
「お前、生意気なんだよっ!」
〝 ドスッ! バキッ! ″
「痛いっ! 止めて下さい……」
「止めねぇよっ! ムカつくんだよっ!」
〝 ドスッ! バキッ! ドスッ! ドスッ! ″
「あら――ぁ? ショーティ、何か……ちょっと、様子が変だよ?」
「めぐみちゃん、あれは虐めだよ。助けなきゃ」
「お―――しっ! やったるでぇ!」
めぐみとショーティが、全速力で現場へ向かうと、それよりもひと足早く、ひとりの高校生が助けに入った――
「止めろよっ! おいっ! 平井、お前、後輩にこんな事をして、恥ずかしくねぇのかよっ!」
「うっせ——なっ! お前に関係ねぇだろっ! 出しゃばってんじゃねぇよっ! やっちまえっ!」
平井の合図で、仲間が襲い掛かり、後輩を助けに入った先輩も袋叩きになった、その時——
「君達っ! 弱い者虐めは、止めなさいっ!」
颯爽と止めに入った、めぐみとショティーだった――
「なんだよ、おばさん。俺達、仲よく遊んでいるだけから。なぁ?」
「そうだよ」
「俺達は仲の良い、お友達だよ」
「邪魔すんなよ、あっち行けよ、おばさんっ!」
「ババアのお節介はウゼぇんだよなぁ」
〝 アッハッハッハッハッハッハッハ ″
「まだ、二十歳の私に向かって、おばさんだぁ? 君達、学校は?」
「うっせぇなっ! 関係ねぇだろっ!」
「関係なく無いよ。坊や達、おばさんが、警察呼んであげようか?」
「ふざけんなっ! ババアっ!」
ひとりの少年が、めぐみに手を上げようとした瞬間、ショーティが猛烈に吠えた――
〝 バウッ、ワウッ、バウッ! ワンワンワンワンワンワンッ、ガルルルル――――ゥ、バウッ、ワウッ、バウッ、ワウッ、バウッ、バウッ! ″
そして、少年の腕をガブりと噛んだ――
「うぎゃぁぁ―――――あっ!」
すると、ショーティは、見る見るうちに巨大化した。それは、大型犬のサイズを優に超え、熊並だった――
「ひい――ぃ!」
少年達がビビり散らかしている時、一番ビビっていたのは、めぐみだった――
「お前ら、めぐみちゃんが、止めろって、言ってんだろっ!」
「うわぁ、言葉を喋ったぞっ!」
「ふんっ、だったら、何だ?」
「…………」
「言ってみろっ! クソガキッ!」
「…………」
「犬が、喋っちゃいけねぇって法律でも有んのかよぉ? えぇ――っ!」
「あ、有りません……」
「そうか。おい、お前達。弱い者虐めは止めろ。分かったな?」
「…………」
「返事は?」
「は、は、はいっ!」
「おう、分かりゃあ良いんだ。分かりゃぁよ……」
「失礼します……」
少年達が帰ろうとすると、ショーティが呼び止めた――
「待てぇ―――いっ」
「あ、あの、まだ何か、僕達に、御用が有るのでしょうか……」
「何か、忘れてねぇか?」
全員が、身の回りの点検をした――
「はぁ、忘れ物は……特に御座いません……なぁ、皆?」
「うん……」
「違うだろ? お前達、めぐみちゃんに、なんて言った?」
「えっ……あぁ、ババアって……」
「うら若き乙女に、おばさんだの、ババアだの、言いたい放題、言いやがってっ! 心の傷って奴はよぅ、そう簡単には、治らないんだぜ……あぁ?」
「はい……」
「めぐみちゃんに『ババアと言ってすみませんでした。今後はこのような過ちは致しません』と……きちんと、詫びを入れて、ケジメを付けろって、言ってんだよっ!」
「はい――――っ! 『ババア』って言ってゴメンなさい」
「『おばさん』と言ったのは、僕の間違いでした。すみませんでした」
「つい、うっかり『ババア』と言って、ごめんなさい」
「調子に乗って『おばさん』とか『ババア』と言って申し訳ありませんでした」
「二度と『おばさん』とか『ババア』とか言いませんので、お許し下さい」
少年達が、めぐみに土下座をして謝罪をすると、ショーティは許した。しかし、めぐみは、色んな意味で『ババア』の連呼にスッキリしなかった――
「失礼しまぁ――す」
「待てぇ―――いっ」
「ひぃっ! まだ、何か、御用でしょうか……?」
少年達は一様に、ガクガクと膝が笑っていた――
「良いこと教えてやるよ。オレの名前はショーティってんだ。ヨロシクなぁ」
「は、はい……」
「オレは、ジャック・ラッセル・テリアって云う、犬種だぁ、分かるか?」
「いぇ……」
「優秀な、狩猟犬だよっ!」
「はいっ!」
「頑固・勇敢・大胆・機敏・活発・忠実と、世間では言われているんだぁ。だから、凶暴さも有るって事だ……そうだよなぁ?」
「あ、はい……」
「オレの、名前の由来を聞きたいか?」
「あ、い、いえ、結構ですぅ……」
「聞きたいだろ?」
「うっ…………」
「聞くよなぁ――っ!」
「はっ、はい……」
「ショーティって云うのは、つまり、気が短い。短気って事だぁ。一度、怒るとなぁ……そう簡単には、収まんねぇんだ……」
「ゴクリッ……」
「お前ら、今度、弱い者虐めをしている所を見掛けたら、噛み殺してやるからなぁ……あぁ――っ!」
〝 ひぇ――――――――えっ! 助けてぇ――――――――――っ! ″
少年達は、脱兎の如く逃げて行った――
「あの、お姉さん、そして、ショーティさん。助けてくれて、有難う御座いました」
「助けてくれて、ありがとう。ショーティさんは、僕のヒーローだよっ!」
「きゃはっ、めぐみちゃん聞いた? ヒーローだって。照れるなぁ……」
〝 ぼわわわぁ――――――――――――んっ! ″
巨大化していたショーティは、褒められると、すっかり機嫌を直し、元のサイズに戻った――
「僕は、ジャック・ラッセル・テリアのショーティだよっ! へけっ!」
「まぁ——だ、云うか? ブリっこすんなっ!」
めぐみは、この期に及んで、まだ、愛されキャラを演じるショーティに、心底、呆れていた――
お読み頂き有難う御座います。
気に入って頂けたなら
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援と
ブックマークも頂けると嬉しいです。
次回もお楽しみに。