明日はどっちだ。
沈黙のまま、暫く歩くと、相も変わらず如何わしい、占いの黒テントに到着した――
「あら? 折角来たのに、先客がいるみたいですねぇ……」
「うむ」
「では、私は、この辺で、失礼しまぁ――す」
「待てぇ――い」
「えぇっ! だって、もう、ここ迄、お供した分けですし……並ぶのまでは、ちょっと……」
「先客に用が有る。これで、良いのじゃ」
「はぁ???」
黒テントの中で占って貰っていたのは、あの日あの時、伊邪那美とすれ違った女性だった――
「ほんまに、あんた騙され易いなぁ……いや、騙され過ぎやでぇ」
「だって……」
「だって、やないねんっ! あんなぁ、チャリティなんてもんは、信用したらアカンでぇ。考えてみぃ、巨万の富を手にしたロック・ミュージシャンが、何で、手取りの少ない、カツカツの一般庶民に、金の無心をするねん? おかしいやろ?」
「でもぉ……」
「デモもへったくれも、無いっちゅうねん。ほんだら、先に、おのれが全財産、寄付してからにせんかぁ——いっ! ちゅう話やで?」
「あぁ……」
「子ども食堂とかな。我々、一般庶民は貧困家庭が可哀想やから、何とかせなあかんって、思うやん」
「はい……」
「でもなぁ、何で寄付やねん。国がやらんかいっ! こんな状況にしたのは国やで」
「政治家じゃない私には、何も出来ないし、だから、せめてもと思って……」
「それが、あいつ等のヤリ方やねんて。ズっこいやろ? 人の善意を利用してんねん。あんた、今、政治家ゆーたやろ? 此処だけの話し、ウチとこな、総理が来るねん」
「えっ、嘘だぁ……」
「嘘て? そこは、信じんのかぁ―――いっ! けったいやなぁ、ほんま」
「こんな所に、総理が来るなんて、誰も信じませんよぉ」
「こんなて、あんた、可愛い顔してキッツイ事言うなぁ。ほんなら、何を占ったんか教えたる」
「いやぁ……別に……」
「あんな、岸井田総理な……死相が出てんねん。せやから、死ぬか・殺されるか・死んだ事にされるかの三択やって、ゆーてん」
「大変っ!」
「な? そう思うやろ? 総理大臣ゆーたら、政権与党のトップやで? それが死んだら、日本がひっくり返る 思うやん?」
「うんっ」
「それがな、違うねん。ひっくり返って、沈没するどころか、日本が、持ち直すねん。立ち直ってまうねん」
「えぇっ! それって、本当ですかぁ?」
「ほんまや。ほんでな、一気に減税になるねん。消費税も所得税も相続税も無しや。そしたらな、皆、売り上げ爆上がりで、結局、ボーナスが年収を超えんねんで?」
「うわぁ――っ、すっごい、嬉しい」
「そうや。そう思うやろ? 消費税っちゅうのは、消費活動にブレーキを掛ける、貧困化のための施策やって、皆が気が付くねん。コスパやゆーて、奴隷労働を支持して、何時の間にか自分が搾取される側に回ってたっちゅう事に、気付くねんな。企業が実用化を諦めていた事に取り組むと、どーなると思う?」
「分かりません、けど……」
「大ヒットやっ! その上、思い付きで、何となぁ——く作った物まで、売れんねんで。もう、ウハウハやん?」
「良いなぁ……」
「もう、子ども食堂なんて要らんねん。シンママも余裕で暮らせて、その子供も、未来の選択肢が増えまくる世の中になるねん」
「早く、死んで欲しいっ!」
「せやろ? いやぁ、分かって貰えて、おっちゃん嬉しいわぁ。あんたもなぁ、若いんやから、ビビってたらアカンねんっ! 何にでも挑戦して、そんで日本一になるんや。そうすれば、きっと、良い人が見つかるわ」
「日本一で、良い人かぁ……まぁ、道は遠いって、事ですよねぇ……」
「また、下を向いてるやん。あんなぁ、あんたはな、人を信じ易いねやんか? せやからな、人を信じひん男が、ごっつ相性ええわぁ」
「人を信じない男って……すっごい、嫌な感じですよね?」
「ちゃうちゃう、ちゃうって。絶対に、あんたを騙したり、裏切ったりしない男や。おっちゃんには、見えてんねんで?」
「そうなんですかぁ? 何にでも、チャレンジする所から、始めないとですね……」
「そうやで、その意気やでっ! 気張ってやっ!」
占い鑑定を終えて幕の外へ出ると、すれ違い様に伊邪那美に呼び止められた――
「待たれよ」
「は? あのぉ、私ですか?」
「うむ。その方、悩みが尽きぬ様じゃのぅ」
「えっ……はぃ……」
「この御札と御守りを進ぜよう」
「あぁっ、でも……家には神棚とか、無いんで……」
「その御札は、東向きに置くこと。そして、御守りは肌身離さぬ様にな……」
伊邪那美は、カッと眼を見開いて睨んだ――
「ひっ! はい……」
「うむ。気を付けて、帰るが良いぞ」
「有難う御座いますぅ……」
めぐみは、伊邪那美の行動の真意は分らなかったが、彼女に対して温情の有る対応だと云う事は理解した――
「あのぉ、伊邪那美様の番ですよ」
「うむ。では、参ろうぞ」
めぐみが、幕を開けて中へ案内をすると、伊邪那美は、エセ関西弁の如何わしい占い師と対峙した――
「いらっしゃい……あら? こんな事が、有るねんなぁ……この前と、同じやん。見料三千円、おおきに。ほんで、おふたりさん。今日は、何を占うん?」
「七月七日の、恵方を知りたいのじゃ」
「はぁ? 方位でっか? 分かりました。えぇ、二千二十三年の七月七日と……」
占い師は、ありとあらゆるアイテムを駆使して占い始めた――
「え――ぇ、御破算で願いましてはぁ、二千二十三年……二たす二たす三は、七か。ほんで七月七日やったら、七並びやん。縁起良いで、ほんで、吉方は……東、いやっ、東もええけど、東南が最高なんかなぁ……」
「東南じゃな?」
「細かい事言うとな、東から南南西までOKやねん。けどな、東南が……」
「ちょっと、あんた。ハッキリしなさいよっ!」
「うーん、分からんなぁ……」
「お金返してよっ!」
「めぐみっ! 口出し無用じゃ」
「あんなぁ、占いが分からんのやないで、何やら、範囲が広すぎて、答えられへんねん」
「うむ。東南と分かれば、それで良し。帰るぞ」
「はい」
伊邪那美は得心し、めぐみは「これで解放される」と安堵した。しかし、占い師は、ふたりが立ち去った後もモヤモヤが解消しなかった。それは、水晶に映る赤い炎の正体が分からなかったせいだった――
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