エロ過ぎちゃって、ゴメンね。
素戔嗚尊の眼は、ミコトの美しい肌と、引き締まったボディ・ラインに釘付けになっていた――
「コレにしよっかなぁ……どう?」
「あぁ、とてもお似合いだと……」
「じゃあ、そうするわ」
「…………」
「ねえ、お願い。後ろのホックを止めてぇ」
「あぁ、はい……」
ミコトは、無防備と云うより、むしろ開放的だった。素戔嗚尊は、健康的でありながら、何故か退廃的なエロスを醸し出す雰囲気に固唾を飲んだ――
「ゴクリッ……」
「ありがとう」
ミコトは、鏡台の前に座ると、カラーを外して髪の毛をブラッシングし始めた——
「ねぇ? 居所は分かって居るの?」
「いや、ハッキリとは分からねぇんだ。只、お前さんと此処を出れば分かるだろうよ」
「向かう先に、ヒントが有るって? そうね……きっと、私を襲いに来るだろうから……」
「おいおい、囮にしようってんじゃないぜ。この『御札』は水戸黄門様の印籠見てぇなモンだからよ」
「じゃぁ、行きましょう」
「おう、すまねえな…」
おんぼろアパートを出て結界を超えると、早速、尾行する者が居る事に気付いた――
「嫌だねぇ、せっかちな野郎は。金魚の糞みてぇにくっついて来やがって、どっから湧いて来やがったんだぃ?」
「ふーん、金魚の糞どころか、どんどん増えているわよ。大丈夫?」
「平気平気。こっちには兵器が有るからよ」
「あらっ……洒落ている場合じゃ無くなったみたいよ」
「任せとけって」
前から後ろから迫って来る影の軍団。ふたりが、十字路に差し掛かると、右と左からも押し寄せて、とうとう囲まれてしまった――
「よう、オッサン、久し振りだなぁ。会えて嬉しいぜ」
「おいらは嬉しくなんかないぜ」
「この間は可愛がってくれたな? 礼を言うぜ」
「礼儀は弁えているじゃねぇか? 褒めてやるよっ!」
「けっ、この間は不覚を取ったが、今度はそうは行かないぜ……」
「笑わせるぜ。それにしても、結界を出たら直ぐにコレだ。お前さん達も、相当、暇を持て余しているみてぇだなぁ」
「言わせて置けば、良い気になりやがって、おいっ!」
〝 ザザザザザア―――――ッ! ザザザザザア―――――ッ! ザザザザザア―――――ッ! ザザザザザア―――――ッ! ″
「フッフッフ。袋のネズミとはこの事だぁ。覚悟しろっ!」
「か弱い女と、オッサン一匹に、束になって掛かろうなんて、粋じゃぁないねぇ。卑怯者が粋がってるんじゃねぇよっ! 掛かって来やがれっ!」
遊び人のスーさんになり切る素戔嗚尊。四方八方から襲い掛かる敵を、軽やかな身の熟しで躱してやっつけた。それは、まるで後ろに目が有る様だった――
「そいっ、おりゃっ、とうっ、あらよっと! ったく、懲りねえなぁ。そんなんじゃ、おいらにゃ勝てないぜ。ちったぁ、学習しろいっ!」
「ふんっ! これは序の口。コッチには、コレが有るんだよっ!」
影の軍団は、懐から拳銃を取り出し、スーさんとミコトに照準を合わせるとニヤリと笑った――
「汚ぇマネをしやがるぜ。粋にやんなと、何度言えば分かるのかねぇ」
「死ねっ!」
〝 ズダァ——ン、ズダァ——ン、ズダァ——ン、ズダァ——ン、ズダァ——ン、ズダァ——ン、バキュ――――――ンッ! ″
容赦なく撃ち込まれた銃弾は、不思議なバリアに弾かれ、空の彼方に消えて行った――
「何ぃ?? これはっ……」
〝 カチッ、カチッ、カチッ、カチッ! ″
「弾切れかい? 残念だったなぁ。おいらはアマテラスの『御札』を持っているんでねぇ。殺そうったって、そうは行かねぇんだ」
「そんな、馬鹿な……」
「馬鹿はお前さんの方だ。良い様に利用されて、死ぬだけだって事が、まだ分からないんだからよぉ。そうだ、冥途の土産に、この懐のアマテラスの『御札』を拝ませてやるぜ」
「あんた。優しいんだねぇ……」
「照れるぜ」
遊び人のスーさんは、懐から『御札』を取り出すと、黄門様の印籠の様に突き出した――
「えぇいっ! 頭が高い、この御札が目に入らぬかっ! 天照大明神様の御札であ――るっ! 控えおろ―――う」
〝 ははぁ――――――――――っ! ″
アマテラスの『御札』の光で影の軍団の影は消え去り、暖かい太陽に照らされると、すっかり毒が抜け、元の人間に戻っていた――
「おう。わかりゃぁ良いんだよ。お前さん達は、騙されて利用されていただけなんだからよ」
「誰一人として傷つけないなんて……本当に、あんた。優しいんだねぇ」
「だから、違うって。優しいんじゃなくって……おいらは、粋な遊び人なんだよ。喧嘩なんかしたって、ツマラねぇからよっ!」
「うぅ――ん、良い男だねぇ……」
「よせやいっ」
そして、その頃ピースケは、ひとり部屋の片隅で、膝を抱えて泣いていた――
「そりゃあ、無いっす。めぐみ姐さん、そりゃぁ、無いですよ。僕は、仲間だった皆が。やっと、本当の人間になれた皆が。ちっぽけでも、ささやかな幸せって奴を手に入れて。年老いて、死ぬ時に、本当に素晴らしい人生だったと。笑って死ぬ事を願っていた分けで。世直しなんて大それた事を考えず、真面目に正直に、地道に生きて行く事こそが、大切だと思っていた分けで。せっかくの命を、一度きりの人生を、何も、死に急ぐ事は無いと。そう、思っていただけで、決して、現実から逃げていた分けでも何でも無く……そりゃぁ、無いですよ。そりゃぁ、無いですよ、めぐみ姐さん……」
「おい、ピースケ。電気も点けないで何をやっているんだ」
〝 カチッ ″
山籠もりで暫く居なかった竹見和樹が、久し振りに自分の部屋に戻って来た。真っ暗な部屋の片隅で膝を抱えたピースケが心配になって電気を点けた――
「……あっ、和樹兄貴?」
「ピースケ。どうしたって言うんだ? おい、お前……泣いているのか?」
「ぐっすん、泣いてなんか……うぇ―――んっ!」
和樹は、ピースケから喜多美神社の出来事を聞いた――
「あ――っはっはっは、あっはっは。こいつは良いや。あ――っはっはっは」
「何が、そんなにおかしいんですかっ! 笑い過ぎですよ。兄貴まで、僕の事を分かってくれないなんて、最悪です」
「はっはっは。良い薬じゃないか」
「何でですかっ! 僕は……」
「ピースケ。お前には死生観が無いんだ。まだ子供なんだな」
「子供なんかじゃ有りませんよっ! 僕だって立派な……」
「立派なイチモツか? あっはっは」
「揶揄わないで下さいよっ!」
ピースケは、何時に無く反抗的になって、和樹の事を睨み付けていた――
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