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魂を揺さぶるモノ。

 その頃、レミは天海徹の車で練習先のスタジオに向かっていた。練習の総仕上げをして、演奏の確認後、複数の曲をメンバーに提案し、フェスのセット・リストを作る所まで計画をしていたので、レミのストレスはMAXだった――


「はぁ。どうして、こんなに混んでいるのかしら……」


「さぁね。渋滞する事だってあるさ」


「せっかく、月末を外したのに……」


「二月はイレギュラーなんだろ。渋滞くらいで、イライラするなよ」


 レミは、何時も一番乗りでスタジオ入りし『今日の予定』をメンバーに伝えていたが、スタジオに到着した時に、既にメンバーは音合わせをしていた。


「お待たせ。遅くなってゴメンね」


「あっ! リーダー来た。もう、来ないんじゃないかって、皆で、話していたんですよ」


「でも、来て良かったぁ。今朝、スタジオに来たら、誰も来ていなかったから焦ったよ」


「おいおい、オレはリーダーは絶対に来るって言ったじゃん。方向性が変わる位で投げ出したりするリーダーじゃないさ。ねぇ、リーダー?」


「あぁ、うん……皆に心配かけてゴメンね。それじゃぁ、今日から新しい『音』に取り組む事になるけど……皆、ヨロシクね」


「うん、頑張ろうぜ、なぁっ!」


「でも、リーダー。日本人的って、漠然と言われてもさぁ、結局、アニソンが一番、現代の日本を体現していると思うんだけどなぁ……」


「ROCKも、JAZZも、J-POPも。日本人のリズム感だと、そうなるわなぁ」


「その上、変な節付けるし、歌詞は起承転結付けて、キチっと終わりたい……みたいな」


「だから、それが、悪いわけじゃないからな」


「そう。何か『かぶく』感じが好きなんだよな」


「インド・カレーが、お母さんのカレーになる感じ」


「ちょっと待てよ。それじゃあ『日本人がやれば何でも日本人的』って答えに帰結してしまうだろ。居直っちゃダメさ」


「そうなんだよなぁ……分かって居るんだけどさぁ、自分に向き合う苦しさを突き抜けないと、創造は出来ないって事だな……」


 メンバーが話をしていると、ミキシング・ルームに入って居たレミが、雅楽の音源をサンプリングした『音』を出した――



 〝 ビャアァ―――――――――――――――――ン、ブワァ――――――――――――――ン、ヒュイ‐――――――――――――――――――ッ ″



「何っ!」


「何だよ、コレ??}


「とんでもないな」


 メンバーは目を丸くして絶句していたが、レミは、思わずメンバーの口から出た言葉を聞き逃さなかった――


「は――ぁん。やっぱ、ダメ? コレジャナイって、感じよね……」


「違うよ、リーダーっ!」


「コレだよ、コレって、感じっ!」


「えぇっ、そうなの……?」


「この感覚は、日本人のDNAにヒットするよ、日本人の感性で言えば、幾らでも良い物が有るのに、外国の真似をする事が無意味なんだよ」


「満月の月明かりに、尺八の響きっ!」


「三日月に、琵琶だな」


「深い霧に、笛の音色……」


「会場のPAの音って、どんなに出しても周辺に限定的だけどさぁ、この『音』は地上全域にパァ——って、広がって行く感じがするんだけど、どう?」


「うん、空の青さに、溶けて行く様な感じもするなぁ……」


「音量が小さいのにスケールが遥かに大きいよな。攻撃的で直接的じゃないのに……何故か、どデカイ感じがするよな」


「鼓膜が痒くなるほどの音だって、魂には響かないもんな」


「ねぇ、皆、コレで良いの?」


「リーダー、コレしか無いってっ!」


「良い悪い、上手い下手じゃなくて、コレだって感じ」


「自己の内面から、湧き出て来る物を感じるし、そうだっ! 衣装も独創的なのが良いよな」


「そう、ROCKER風もダサいし、ビジュアル系も拒否っ!」


傾奇者カブキモノを気取るのは、悪く無いなぁ……」


「いや、格好良いだろ?」


「そうだな、むしろ格好良いな」


「やっぱ、見た事も無い『何か』って……重要じゃね?」


「聴いた事が無い『音』に、見た事も無い奇抜な衣装。会場はひっくり返るかもな」


「かもなじゃなくて、俺達が、ひっくり返すんだよっ!」


「やるぞっ!」


 

 〝 オオォ—――――――――――――ゥッ! ″



 レミは、独りよがりに勝手に盛り上がり、テンションが暴走するメンバーに、呆れて目を丸くした――


「チッ、何だよ。プログレっぽくなるとダメだなぁ……」


「纏め易いんだけどねぇ……内向きな感じは無理っ! 外へ外へと放射して行くスケール感が無くなっちゃ、ダメだわ」


「だからさぁ、これ迄と逆。リズム感、出したら負けよ」


「表面的なノリを出さずに、魂に響かせる音を出すのが、正解なんだろうなぁ……」


「静けさと透明感を維持しつつ、聴く者の内面に火を着けて、噴火させるイメージだよな」


「どうなんだろ。スネアを、こう、句読点みたいに、切る感じ」


「それ良いよ。そんな風に、区切りを付ける感じ」


「リーダー、GUITARは、音量は殺しつつ粒立ちとサスティーンを綺麗にする事を意識して」


「あぁ、分かったわ……」


 レミは、メンバーに圧倒されつつも、彼らの魂に火が付いている事を確信し、それを眺めていた天海徹は『我が意を得たり』とニヤリと笑った。そして、時同じくして、色めき立っている場所が有った――



 ——W・S・U・S本部



 〝 ピッピッピッピィ————―――ピィッ、ピッピッピッピ————―――ピィッ、ピッピッピッピ————―――ピィッ ″


 

「父さん、大変です」


「どうした、マックス? 何か異変でも有ったか?」


「はい。GPSで追跡不能だった、素戔嗚尊スサノオノミコトの所在が……未確認とはいえ、とてつもないエネルギーを感知しました」


「ん? 何処だっ!」


「伊勢神宮周辺です」


「はん。いよいよ、動き出したかぁ……アマテラス復活の日も近いかもしれないな」


「父さん……これは、一体……」


「心配するな。今、我々が心配しなければならないのは、最終兵器の準備を怠る事なのだ。例の通信衛星と気象衛星を、大至急、打ち上げるのだ」


「はい、父さん。しかし、国の許可は得ていますが、あれだけの数を一気に打ち上げたら、何か言われないでしょうか?」


「まぁ、他国からの干渉は有るだろうな。しかし、それ故、通信・気象衛星でカムフラージュしているのだ」


「しかし、お父さん……」


「心配するな。査察が入る事も織り込み済みだ」


「分かりました。それでは、準備が出来次第、順次、衛星の打ち上げを致します」


「うむ」



 〝 フッフッフ、ハッハッハ、ハッハッハッハッハッ、ア—―――ッハッハ! ″



 W・S・U・S本部の館内に、南方の高笑いが、こだましていた――





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