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時を待たず、時を選ばず。

 とぼけるめぐみに、七海も、知らぬ顔の半兵衛を決め込んだ――


「そっか。レミさんが食べちゃったんだぁ。まぁ、しょうがないよねぇ……」


「何よ?」


「あれ。とっくに、賞味期限、切れってから」


「うごっ、マジで? そうなんだぁ……」


「何かさぁ、遠慮の塊? 食いそびれたっつーの? 一個だけだし、ひとりで食べるのも気が引けてさぁ……」


「あぁ、そうなんだ……」


「蕎麦屋の生菓子だから、日持ちしないんよね。でも、アレ食ったら、大変よなぁ」


「た、大変て?」


「お腹、ぶっ壊すぉ」


「…………」


「あれ――ぇ? めぐみお姉様ぁ、お口に何か付いますわぁ?」


「えぇっ、そう?」


 七海は、カラメルと蕎麦の実を指でこそぎ取ると、そのまま口に運んだ――


「はっ!」


「コレは……カラメルと蕎麦の実だおっ!」


「あちゃー!」


 七海は、もう片方の手で、めぐみの頬を思い切りつねった――


「痛たたたたたたぁ――――――――――っ!」


「ったく、もうっ!」


「ごめんちゃい」


「許す」


「あんがと」


 すると、外で車のドアがバタンッと閉まる音がして、階段を上がって来る音が間近に迫って来ると、レミが入って来た――


「ただいま」


「お帰りなさい」


「レミさん、今夜はネギトロ丼だお」


「良いわねぇ。もう、疲れたし、お腹が空いて、死にそうなの。早くして」


「御飯が炊けるまで待ってちょ」


 御飯が炊き上がると、三人で食卓を囲んで会話が弾んだ――


「もうさぁ、徹が、うるさいんだよっ!」


「スッゲー音、出すとか?」


「違うの。折角BANDの方向性が決まり、練習に熱が入って来た所で、ケチ付けやがって……」


「ふーん、結構、面倒臭そうな男だもんね。あいつ」


「全く、また、最初からやり直しみたいな感じで、メンバーもめげちゃってさぁ」


「最悪じゃんよ――ぉ」


「宥め透かして、此処まで練習して来たのに。ウンザリなのよねぇ……」


「でも、それでもレミさん的には、やるんでしょう?」


「モチよ。悔しいけどさぁ……あいつの言っている事も分かるのよ。日本的じゃないと、琴線に触れるモノじゃないとダメだって…ね。一応、明日からは雅楽の楽器の音源をサンプリングしてみるつもりなんだけど……上手く行かなかったら、空中分解しそうなの」


「レミさん。きっと、あいつは先を見通しているんだと思うんだけど。何だか……何かが、起きそうな予感がする」


「あらあら。めぐみさんまで、そんな事を言うの? フェスに出るだけよ? なのに、あいつ、命懸けなんだよねぇ」


「まぁ、ゆーても、メンバーでも無い奴が熱くなり過ぎるって。鬱陶しいんよね」


「そうなのよ」


 めぐみは、天海徹が、何かを成し遂げようと必死になっている事を知り、直感的に大きなうねりの様な物を感じていた――



―― 二月二十七日 先負 丙辰



 喜多美神社は、神聖な空気と静寂に包まれていた――


「おざっすつ!」


「めぐみさん、お早う御座います」


「おはようですぅ」


「めぐみ姐さん、お早う御座います」


「皆さん、大祓まで大きな行事は有りませんが、だからこそ、毎日を丁寧に過ごして下さいね」


「はい。典子さん、貫禄が出て来ましたね」


「あら? そうかしら」


「めぐみさん、典子さんはぁ、神事をエンタメ化してぇ、罰が当たったんですよぉ。やっと、落ち着いたぁ、だけなんですよぉ」


「何よっ! 良い事じゃないの、神に仕えるこの私に『罰』が当たっただなんて、言い過ぎよっ!」


「まぁまぁ。仲が良いんだからなぁ、もう」


「ところで、めぐみ姐さん。昨日は、どうだったんですか?」


「どうって、予想外の展開だったけど、全てが上手く行ったよ。伊邪那美様も、駿さんも、嬉しそうだったなぁ……」


「再会の幸福を感じている、その瞬間に、立ち会えるなんて羨ましいですよ」


「でもさ」


「よいやさ?」


「伊邪那岐様とは、和解していないからねぇ」


「あぅっ……そうですよね」



 本殿にて――


「駿に、あの事は話したのですか?」


「えぇ。勿論です」


「それで、駿は何と?」


「不安に駆られた様子でしたが、素戔嗚尊スサノオノミコトが動いていると伝えると、安堵しておりました」


「ふむ。さてさて……どうなる事やら」


「心配なのですか? あなたらしくも無い……心配無用です。必ずや成し遂げます」


 伊邪那美は、立ち上がると帯を解き始めた――


「何を……?」


「何をって? 男と女は……する事は一つ」



 〝 パッサァ――――――――――――――――――アッ! ″



 伊邪那美は、一糸纏わぬ姿で伊邪那岐に迫った――


「あのですね、早朝とは言えませんが、未だ、陽も高くないですし……」


「すると言ったら、時を選ばずっ! 朝日に輝く、女の柔肌……さぁ、いらっしゃぁ―――いっ!」


「あっ、いや、ちょっと、そこは……」


 伊邪那美は、伊邪那岐の服を剥ぎ取り、丸裸にすると、逃げ惑う伊邪那岐を取り押さえて跨った――



 〝 あぁ―――れぇ―――っ、助けてぇ――――――――――――――――っ ″



「あれ? ピースケちゃん、今、悲鳴みたいなのが聞こえなかった?」


「何も聞こえませんでしたよ。気のせいですよ。めぐみ姐さん、疲れているんじゃないですか?」


「はぁ……確かに。昨日は緊張して、料理の味さえ覚えてないんだからねぇ。きっと、そうね」


「そうですよ。それより、早く終わらせましょうよ」


「うん」


 ふたりは、社務所の清掃を終えると、授与所へ御守りを運んでいた。すると、ハッキリと雄叫びが聞こえた――

 


 〝 あぁ――――――あ―――――――――――ぁ―――あぁ――うっ! ″



「マンボっ!」


「めぐみ姐さん。伊邪那岐夫妻は、ダンスのレッスンでもしているんでしょうか?」


「社交ダンスを? あのふたりが? どうかなぁ……」



 本殿では、伊邪那美が、白く透き通った柔肌を着物で包んでいた――


「早過ぎますよ。だらしない男」


「うぐっ……」


「でも、まぁ、良いでしょう。確りと、頂きましたから」


「はぅ……」


 伊邪那美は、紅潮した頬に妖しい笑みを浮かべていた。一方、伊邪那岐は、頬がコケ、ゲッソリと痩せ細り、抜け殻の様になっていた――






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