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女子高生と影の軍団。

 女子高生は、疎らに有る住宅の脇道を抜けて森の中へ入って行った。すると、そこには大きな岩に注連縄がしてあり、それを右手に見ながら、獣道を抜けると、切り通しの向こうに洞穴が有った。周囲を見渡し、誰も居ない事を確認すると、その中へ入って行った――


「只今、戻りました」


「ミカ、随分、遅かったでは無いか? 心配したぞ」


「実は……」


 ミカは、神社での出来事を長老に話した――


「何ぃ――っ! 襲われただと?」


「はい。八人の男に取り囲まれ、殺される寸前でした」


「それで、その男達は?」


「退散しました。たまたま神社に居合わせた旅人が助けてくれたのです」


「旅人とは一体、何物じゃ……」


「はい。『改めてお礼に伺いたいので』と聞きましたが、旅人故、住所不定。名前だけは聞きましたが、何者かは分かりません」


「名は、何と申す?」


「はい。『遊び人のスーさん』とだけ、申しておりました」


「何故、身元を確かめなかったのじゃ? 手緩いぞっ!」


「しかし、此方の事情を話す分けにも参りません。お互いに詮索しない事が暗黙の了解となり、それ以上の事は……聞く事が出来ませんでした」


「うーむ。八んの男を相手に助けて何も聞かぬとは、解せぬのぅ……だが、無事で良かった」



 その頃、逃げ帰った男達は、こってり油を搾られていた――



「何っ! 仕損じただとぉっ!? この役立たず共めっ!」


「申し訳御座いませんっ! この次は、必ずや……」


「次など無いっ! その様な甘い考えだから仕損じるのだっ! 一度きりの好機を逃す様な無能には、今後は一切の仕事を任せる事は出来ぬっ!」


「まぁ、良い。そう怒るな、失敗は付き物だ」


「親方様、お言葉ですが、大の男が八人ですぞ……失敗の無い様に女子高生ひとりに対して、それだけの人数を用意したと云うのに」


「この者達を選んだのは、私だ」


「ですが……」


「全責任は、この私に有るのだ」


「はっ……親方様の寛大なお心に、感服いたしました。おいっ! お前達っ! 頭が高いぞっ!」


「ははぁ―――――――――――っ!」


「ふーむ。皆の者、頭を上げて良いぞ」


「はっ!」


 男達は、恐る恐る顔を上げた。すると、親方は優しい笑みを浮かべていた――


「さてと。男、八人掛かりで仕損じた訳を、話して見よ」


 男達は互いに顔を見合わせながら、誰が話すかを決めていた。そして、一番左の者が話しを始めた――


「申し上げます。女は、我らに取り囲まれると、観念して『分かりました。従います』と云いましたので、拘束はせずに連行していました。ところが、隙を突いて草むらに飛び込み、追い駆けると、神社に逃げ込みました」


「ふむ。それで?」


「追い詰めると、命懸けで歯向かうので、合口を抜いた所、本殿に寝泊まりをしていた男が現れ、そして……」


「ふーん。その男にやられたんだな?」


「はい……偶々、意表を突かれたと申しますか……そのぉ……」


「言い分けなど要らぬ。お前達には、手に負えない相手だ」


「しかし、親方様……」


「合口を抜いたお前達を、怪我ひとつさせずに追い返した事が、何よりの証拠だ」


「…………」



 親方は、既に手練れの者の殺気を感じ取っていた。だが、それは素戔嗚尊スサノオノミコトの謀であった。日が暮れて、街に明かりが灯る頃、本殿には近所の家から良い匂いが流れて来た――



 〝 ぐぅ――――――――――ううぅ ″



「あぁ、腹が減ったなぁ……世間は夕げの支度に忙しい時間かぁ。家族みんなで食卓を囲んで、一家団欒。羨ましいねぇ……」



 〝 ぐぅ――――――――――ううぅ ″



 再び、お腹が鳴ると、それとは別の音が重なったのを、聞き逃さなかった――


「ん? 誰だいっ!」


 すると、扉の向こうから、聞き覚えのある声がした――


「怪しい物では有りません。スーさん、私です。先程、助けて頂いたお礼に参りました」


「おぉっ! さっきの、お嬢ちゃんか。よせやい、お礼なんか要らねぇよっ、まぁ、入んなよ」


「はい。でも、長老がどうしてもと……」


「長老??」



〝 ギィ―――――イ ″



「御免下さい。先程はミカが危ない所を助けて頂いたそうで、命の恩人に一言、礼を言わねばと馳せ参じました。誠に有難う御座いました」


「長老さんよ、堅っ苦しい挨拶なんて要らないよ。なぁに、ただ、そのぉ……行き掛り上、そうなっただけなんだからよっ」


「いやいや、御謙遜を。話を聞けば、貴方様は旅の途中であると。それならば、未だ此処に居るのではあるまいかと思い、こうして、参ったので御座います。ミカ、それを」


「はい。スーさん、この辺りには食事処が御座いませんので、もしや、不自由をしているのではないかと思い、お弁当を作って参りました。お口に合うか分かりませんが。どうぞ、召し上がって下さいませ」


「気を遣うんじゃないよ、照れるじゃねぇか。だけど、好意は有り難ぇんだが、此奴は持って帰っておくんな」


「お口に会いませんか?」


「いやいや、お口に合うも何も、未だ食っちゃいねぇんだから。おいらは美味い不味いにかかわらず、知らない人の作った物は口に入れねぇんだ。食わねぇんだ。悪く思わないでおくれよっ」


「左様で御座いますか。知らぬ事とはいえ、これは失礼を致しました。ミカ、下げなさい」


「はい」



 〝 ぐぅ――――――――――うう―――う ぎゅるる――――――――――――う―――――――――――ぅ″



「お――っと、そう、素直に引っ込めないでくれよ。もう、ひと押ししてくれたって、良いじゃねぇか。おいらの胃袋が、食いたいって言ってやがるぜ」


「うふふふ。ふふふふふ」


「あははは」



 〝 あぁ――はっはっはっは ″



 素戔嗚尊スサノオノミコトは、弁当を膝の上に置くと、蓋を開けた。真っ白く輝く米の向こうに、大きな大きな卵焼きが横たわっていた――



「おいおい、随分と質素な弁当だねぇ……おや? おっ――と、こりゃぁ鰻巻きだな? うんっ、旨いっ! こんな旨い鰻は食べた事が無いぜ」


「そうでしょう。ミカは鰻獲りの名人で、捌くも焼くも本職以上ですからね」


「この卵も、しっとり柔らかでコクが有るねぇ」


「はい。その卵も、私が飼っている鶏の朝採れた物で、本当に大きな卵なのです」


「有り難いねぇ。いや、旨い。本当に旨い」



  女子高生の正体は、高龗神たかおかみのかみ、地上では高岡ミカと名乗っていた――






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