遊び人のスーさん。
囲んだ男は八人。女子高生は、前後左右に逃げようと足を運ぶが、即座に逃げ道を塞がれ、ジリジリと間合いを詰め、とうとう身動き一つ出来なくなり、直立不動になった所で、ギラリと鈍く光る合口に、死を覚悟した――
「神様っ! お許しをっ!」
斜め後ろの男が襲い掛かろうとした瞬間、扉が開く音がした――
〝 バァ―――――アァ―――――ンッ! ギギギギギィ――――――ッ ″
「ふあぁ――――――――ぁ。良く寝たぜぇ……」
「何者だっ!」
「何者だぁあ? そっちこそ、何者だぁ」
「何をっ! 怪しい奴っ!」
「やんなっちまうなぁ……おいらは、三日も前から此処に寝泊まりしているんだぜ。押し掛けて来たのは、そっちじゃねえか?」
「何だと? この辺りの者では無いな……」
素戔嗚尊はゆっくりと、男達の輪に近付いて行った。そしてニヤリと笑った――
「ふんっ 『見られた以上、生かしておく訳には行かぬ』と、そう言いたいんだろぅ? 顔に書いて有るぜ」
「生意気な野郎だっ! おいっ!」
四人の男が、サッと素戔嗚尊を取り囲んだ――
「嫌だねぇ、粋じゃないねぇ。そいつはオモチャじゃねぇんだ……怪我をする前に、そんな物騒な物は仕舞いなよ」
「ふざけるなっ!」
「おぉっと、ふざけちゃいないぜ。大の男が、女子高生を相手に、そんな物をチラつかせちゃぁいけねぇよ……」
素戔嗚尊は、ゆっくりとジャケットを脱いだ――
「何をっ、やっちまえっ!」
大立ち回りになるかと思いきや、素戔嗚尊は、しなやかな腰つきで身を返して躱し、息を切らせた男達の合口を、ジャケットを巻いた右手で取り上げて放り投ると、ストンッ! ストンッ! ストンッ! ストンッ! と、御神木に突き刺さった――
「まだ、やるかい?」
「クソっ!」
意を決した男達が、次から次と素戔嗚尊に襲い掛かったが、右へ左へ軽やかに躱して捌くものだから、攻める事が出来ず、息を切らして前のめりになり、足がもつれた所で、あっけなく投げ飛ばされた――
〝 うぎゃ――――――――ぁ! ″
「へっ、何だ、何だ。口ほどにも無いねぇ」
「えぇいっ! 動くなっ! 一歩でも動いたら、この女の命は無いぞっ!」
残りの四人の男達が、間合いを取り、女子高生の喉元に合口を突きつけて脅した――
「私の事は構いませんっ! 逃げて下さいっ!」
「お―っと、お嬢ちゃん。今更、逃げるなんて出来ないぜっ、とうっ!」
素戔嗚尊が飛び上がると、一瞬で姿が見えなくなった――
「何っ! 消えたっ……」
〝 シュタッ! ″
一瞬にして、男達の眼前から消えた素戔嗚尊は、後方に着地すると合口を取り上げ、男の首に突き付けた――
「気分はどうだい?」
「ぐぬぬっ……」
「お嬢ちゃんを、放しなっ!」
「分かった……」
「あぁ、良い子だ」
素戔嗚尊が、女子高生の身を守る為、背後に回すと、再び、男達は襲い掛かった――
「しつこい野郎だねぇ。粋じゃないんだよ、粋にやんなよ、お前さん達」
「やれっ!」
「おうっ!」
「覚悟しろっ!」
男達は、一斉に襲い掛かった――
「お――っと、来やがったな。はい、右左右、左右左、回って、しゃがんで、ゴッツンコ。はい、ちょん、ちょん、くるり。とんとん、ぱっと。どうだい?」
男達は、素戔嗚尊に触る事すら出来す、目を回して倒れた。だが、投げ飛ばされて気を失っていた一人の男が、叩き落された合口を拾い上げ、背後から切り掛かった――
「やぁ―――――――――――っ!」
「危ないっ! 後ろっ!」
女子高生が声を上げると、素戔嗚尊は身を返したが、躱し切れず、背中を袈裟に切られてた――
〝 スパァ―――――――――ッ! ″
「キャァ――――――――――――――ッ!」
切られたシャツが開くと、そこには、櫛名田比売と稲穂のTATTOOが有った――
「ぬぬぬっ……」
「お――っと、やりやがったな。ほいほい、くるりん、ちょんちょん、てぇえい――っ!」
「うぎゃあっ……」
「ふっ、後ろから切り掛かるとは卑怯な奴。案の定、このザマだ」
「あの……大丈夫ですか?」
「あぁ、シャツが着られただけだから、安心しな。お嬢ちゃんのお陰で、助かったぜ」
男達は、ひとりふたりと目を覚まし、立ち上がってはみた物の、敵わぬ相手に戦意喪失。捨て台詞を吐いて逃げて行った――
「覚えてやがれっ!」
「これで済むと思うなよっ! 引けっ!」
「けっ、『粋にやんな』と何度言っても分からねぇから、痛い目に合うんだぜ。おととい来やがれっ!」
「あの、有難う御座いました。お陰で命拾いをしました。この御恩は……」
「よしてくれよ。そんなんじゃぁ、ないんだ。そんな事より、怪我は無いかい?」
「はい……」
女子高生は恐怖からブルブルと震えていた――
「お嬢ちゃん。あの連中は何者だぃ? 命を狙われるなんて、よほどの事だろ? 訳を聞かしてくれねえか?」
「あの……それは……」
「あぁ、良いんだよ。無理に話さなくても良いんだ。人には言えねぇ、深い分けってぇモンがあらぁ。」
「すみません……」
「しかし、ひとりで帰す分けにやぁ、いかねぇなぁ。懐の大切な物を、再び奪いに来るとも限らねぇ。なにせ、しつこい野郎だからなぁ……うん。途中まで、送って行くぜ」
「有難う御座います」
素戔嗚尊と女子高生は人の居ない神社を後にした。御神木に就く刺さる八本の合口。後に『八命の神木』と名付けられ、村人から大切にされ、神社には、命拾いの御利益にあやかろうと、引きも切らず参拝客が訪れるようになったのは、言うまでもない――
「あっ、もうこの辺で、大丈夫です」
「そうかい? それじゃぁ、気を付けて帰んなよ」
道すがら、笑い話のひとつも言って、女子高生の緊張をほぐした素戔嗚尊は、踵を返して、立ち去ろうとした――
「待って下さい。何処のどなたか存じませんが、日を改めて、お礼に伺いたいので、どうか……」
「礼なんか、いらねぇよっ」
「せめて、お名前だけでも」
「そうさなぁ『遊び人のスーさん』とでも言っておこうか、あばよっ!」
「スーさん……本当に、有難う御座いました」
目を潤ませる女子高生。ジャケットを担ぎ、シャツの切れ目からは、艶やかな櫛名田比売と、風に揺れる稲穂のTATTOO。すっかり、キャラ変した素戔嗚尊を、女子高生は姿が見えなくなるまで見送っていた――
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