表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
422/469

遊び人のスーさん。

 囲んだ男は八人。女子高生は、前後左右に逃げようと足を運ぶが、即座に逃げ道を塞がれ、ジリジリと間合いを詰め、とうとう身動き一つ出来なくなり、直立不動になった所で、ギラリと鈍く光る合口に、死を覚悟した――


「神様っ! お許しをっ!」


 斜め後ろの男が襲い掛かろうとした瞬間、扉が開く音がした――


 

 〝 バァ―――――アァ―――――ンッ! ギギギギギィ――――――ッ ″



「ふあぁ――――――――ぁ。良く寝たぜぇ……」


「何者だっ!」


「何者だぁあ? そっちこそ、何者だぁ」


「何をっ! 怪しい奴っ!」


「やんなっちまうなぁ……おいらは、三日も前から此処に寝泊まりしているんだぜ。押し掛けて来たのは、そっちじゃねえか?」


「何だと? この辺りの者では無いな……」


 素戔嗚尊スサノオノミコトはゆっくりと、男達の輪に近付いて行った。そしてニヤリと笑った――


「ふんっ 『見られた以上、生かしておく訳には行かぬ』と、そう言いたいんだろぅ? 顔に書いて有るぜ」


「生意気な野郎だっ! おいっ!」


 四人の男が、サッと素戔嗚尊スサノオノミコトを取り囲んだ――


「嫌だねぇ、粋じゃないねぇ。そいつはオモチャじゃねぇんだ……怪我をする前に、そんな物騒な物は仕舞いなよ」


「ふざけるなっ!」


「おぉっと、ふざけちゃいないぜ。大の男が、女子高生を相手に、そんな物をチラつかせちゃぁいけねぇよ……」


 素戔嗚尊スサノオノミコトは、ゆっくりとジャケットを脱いだ――


「何をっ、やっちまえっ!」


 大立ち回りになるかと思いきや、素戔嗚尊スサノオノミコトは、しなやかな腰つきで身を返して躱し、息を切らせた男達の合口を、ジャケットを巻いた右手で取り上げて放り投ると、ストンッ! ストンッ! ストンッ! ストンッ! と、御神木に突き刺さった――


「まだ、やるかい?」


「クソっ!」


 意を決した男達が、次から次と素戔嗚尊スサノオノミコトに襲い掛かったが、右へ左へ軽やかに躱して捌くものだから、攻める事が出来ず、息を切らして前のめりになり、足がもつれた所で、あっけなく投げ飛ばされた――



 〝 うぎゃ――――――――ぁ! ″


「へっ、何だ、何だ。口ほどにも無いねぇ」


「えぇいっ! 動くなっ! 一歩でも動いたら、この女の命は無いぞっ!」


 残りの四人の男達が、間合いを取り、女子高生の喉元に合口を突きつけて脅した――


「私の事は構いませんっ! 逃げて下さいっ!」


「お―っと、お嬢ちゃん。今更、逃げるなんて出来ないぜっ、とうっ!」


 素戔嗚尊スサノオノミコトが飛び上がると、一瞬で姿が見えなくなった――


「何っ! 消えたっ……」



 〝 シュタッ! ″



 一瞬にして、男達の眼前から消えた素戔嗚尊スサノオノミコトは、後方に着地すると合口を取り上げ、男の首に突き付けた――


「気分はどうだい?」


「ぐぬぬっ……」


「お嬢ちゃんを、放しなっ!」


「分かった……」


「あぁ、良い子だ」


 素戔嗚尊スサノオノミコトが、女子高生の身を守る為、背後に回すと、再び、男達は襲い掛かった――


「しつこい野郎だねぇ。粋じゃないんだよ、粋にやんなよ、お前さん達」


「やれっ!」


「おうっ!」


「覚悟しろっ!」


 男達は、一斉に襲い掛かった――


「お――っと、来やがったな。はい、右左右、左右左、回って、しゃがんで、ゴッツンコ。はい、ちょん、ちょん、くるり。とんとん、ぱっと。どうだい?」


 男達は、素戔嗚尊スサノオノミコトに触る事すら出来す、目を回して倒れた。だが、投げ飛ばされて気を失っていた一人の男が、叩き落された合口を拾い上げ、背後から切り掛かった――


「やぁ―――――――――――っ!」


「危ないっ! 後ろっ!」


 女子高生が声を上げると、素戔嗚尊スサノオノミコトは身を返したが、躱し切れず、背中を袈裟に切られてた――



 〝 スパァ―――――――――ッ! ″



「キャァ――――――――――――――ッ!」


 切られたシャツが開くと、そこには、櫛名田比売クシナダヒメと稲穂のTATTOOが有った――


「ぬぬぬっ……」


「お――っと、やりやがったな。ほいほい、くるりん、ちょんちょん、てぇえい――っ!」


「うぎゃあっ……」


「ふっ、後ろから切り掛かるとは卑怯な奴。案の定、このザマだ」


「あの……大丈夫ですか?」


「あぁ、シャツが着られただけだから、安心しな。お嬢ちゃんのお陰で、助かったぜ」


 男達は、ひとりふたりと目を覚まし、立ち上がってはみた物の、敵わぬ相手に戦意喪失。捨て台詞を吐いて逃げて行った――


「覚えてやがれっ!」


「これで済むと思うなよっ! 引けっ!」


「けっ、『粋にやんな』と何度言っても分からねぇから、痛い目に合うんだぜ。おととい来やがれっ!」


「あの、有難う御座いました。お陰で命拾いをしました。この御恩は……」


「よしてくれよ。そんなんじゃぁ、ないんだ。そんな事より、怪我は無いかい?」


「はい……」


 女子高生は恐怖からブルブルと震えていた――


「お嬢ちゃん。あの連中は何者だぃ? 命を狙われるなんて、よほどの事だろ? 訳を聞かしてくれねえか?」


「あの……それは……」


「あぁ、良いんだよ。無理に話さなくても良いんだ。人には言えねぇ、深い分けってぇモンがあらぁ。」


「すみません……」


「しかし、ひとりで帰す分けにやぁ、いかねぇなぁ。懐の大切な物を、再び奪いに来るとも限らねぇ。なにせ、しつこい野郎だからなぁ……うん。途中まで、送って行くぜ」


「有難う御座います」


 素戔嗚尊スサノオノミコトと女子高生は人の居ない神社を後にした。御神木に就く刺さる八本の合口。後に『八命の神木』と名付けられ、村人から大切にされ、神社には、命拾いの御利益にあやかろうと、引きも切らず参拝客が訪れるようになったのは、言うまでもない――


「あっ、もうこの辺で、大丈夫です」


「そうかい? それじゃぁ、気を付けて帰んなよ」


 道すがら、笑い話のひとつも言って、女子高生の緊張をほぐした素戔嗚尊スサノオノミコトは、踵を返して、立ち去ろうとした――


「待って下さい。何処のどなたか存じませんが、日を改めて、お礼に伺いたいので、どうか……」


「礼なんか、いらねぇよっ」


「せめて、お名前だけでも」

 

「そうさなぁ『遊び人のスーさん』とでも言っておこうか、あばよっ!」


「スーさん……本当に、有難う御座いました」



 目を潤ませる女子高生。ジャケットを担ぎ、シャツの切れ目からは、艶やかな櫛名田比売クシナダヒメと、風に揺れる稲穂のTATTOO。すっかり、キャラ変した素戔嗚尊スサノオノミコトを、女子高生は姿が見えなくなるまで見送っていた――


 




お読み頂き有難う御座います。


気に入って頂けたなら


下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援と


ブックマークも頂けると嬉しいです。


次回もお楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ