東京だよ、おっ母さん。
めぐみは、下座に座る駿と七海を見据えると、咳払いをして司会進行を始めた――
「おっほん。えー、本日はお日柄も良く、晴天に恵まれ、三千年の長きに渡り、離れ離れの暮らしをして来た親子の対面。辛かった……淋しかった……ぐっすん」
「めぐみお姉様。まだ、泣くのは早いのでは有りませんか?」
「七海ちゃん……どうしたの? 急に畏まって……」
「駿さん。今日は、私にとっても、大切な日なの。未来のお母様と会うのですから」
「あっ、あぁ、そうだけど……何時も通りで良いんだよ? ありのままの七海ちゃんで」
「うぅ――んっ、駿ちゅあ――ん!」
「コラッ! ふたり共、イチャイチャすんなっ! さぁ、気を取り直して、それではご紹介致しましょう。伊邪那美様でぇ――すっ! どうぞ―――っ!」
〝 キラキラキラッ、シャラランラン、キララララ、クルクルクルクルッ! ″
伊邪那美は、勿体付けて入って来ると、華麗なターンを決めた。しかし、そこには先程まで話をしていた駿と七海が居るだけだった――
「ん?? これ、めぐみ。席を間違えておらぬか? 我が子は何処?」
「我が子は、ほれ。目の前に居るでは有りませんか?」
「はぁ?」
「あの、貴方が僕の母の、伊邪那美だったんですかっ!」
「どえっ! おばさんが、駿ちゃんの母ちゃん!?」
「ちょっと、ちょっと、ちょっと、皆、知り合いなの――――ぉ??」
めぐみは、三人が既に出会っていた事に驚き目を回し、それを見た七海が噴き出して笑うと、大爆笑に包まれた――
〝 あぁ――――っはっはっはっはっはっは、はぁ――はっはっはっはっはっは、お――ほっほっほっほっほ ″
「何だかなぁ……涙、涙の『感動の再会』の予定だったのにぃ……」
「いや、笑顔の再会こそ、至高じゃ」
「そうだよ、めぐみちゃん。正直、僕は複雑な心境でも有ったんだ。けど、ホッとしたよ」
「あっシも、猫被って上手い事やろうとしたのが間違いだったんよ。駿ちゃんに『ありのままの七海ちゃんが最高』だって言われて、気付いたお」
「『最高』とまでは言ってないでしょう? 適当にぶっ込むんだから」
「まぁ、良いではないか。母親故、つい、駿の事を幼子の様なつもりでおったが、立派な大人になって、婚約者までおるとはのぅ……」
伊邪那美は、目を潤ませていた――
「めぐみ。これは、その方の神力による物じゃ。親子の対面でお互いに感情をぶつけ合う事を避けるために、再開の前に、互いを引き合わせたのじゃ。でかしたぞ」
「ははぁっ!」
会話と料理が進んで、打ち解け合った頃。めぐみは、気を利かせて退席する事にした――
「それでは、私はこの辺で。まだ、仕事が有りますから。後は、親子水入らずでゆっくりして下さいね」
「あっ、めぐみお姉ちゃん、それなら、あっシも帰るお。積もる話も有るだろうし」
めぐみと七海は、伊邪那美と駿を残して、椿山荘を後にした――
「七海ちゃん、良かったね」
「うん。まぁ、あっシはさぁ、嫌われたら嫌われたでしょうがないんよ。でもさぁ、駿ちゃんには、幸せになってほしいんよね……駿ちゃんが幸せならそれで良いんよ」
「まぁ。自分の事より、他人を思いやるなんて。七海ちゃん、大人になったなぁ……」
「え? めぐみお姉ちゃん、知らなかったん? 恋愛は……少女を大人に変えるんよ」
「何っ! 何時の間に女に……」
「まだ、女にはなってねぇ――っちゅうのっ!」
「そっか。まぁ、そのうち自然にそうなるよ」
めぐみは仕事に戻り、七海が学校に向かった頃、伊邪那美と駿は親子水入らずで東京見物をしていた。ベスパを走らせ、築地、銀座、上野、浅草とめぐり、皇居を一周して、東京タワーに到着した――
〝 ベンベンベンベン、ベべべベッ! ″
「着いたよ。お母さん」
「ほぅ。コレが東京タワーか……見事じゃのぅ」
「さぁ、展望台に行こう」
久し振りに手を引いて、親子で歩く東京。駿は、張り切って案内をしていた――
「おぉ、絶景よのぅ、都の全てが見渡せるとは、大した物よ……」
「ほら、富士山が見えるよ」
「綺麗よのぅ。美しい姿じゃ……」
夕日に照らされる、富士の山。眺める伊邪那美の表情が険しくなった――
「母さん。どうかしたの? 気分でも悪いの……」
「駿。この夕日はフェイクなのじゃ」
「フェイク? この、夕日が……」
「やはり、気付いておらぬのじゃなぁ……」
「フェイクって事は、つまり……アマテラスが居ないって事?」
「そうじゃ。その通りじゃ。アマテラスの所在は不明、このフェイクの太陽では日本の未来は照らせぬのじゃ……」
「そんな……どうして、そんな事に? 母さん、僕は、どうすれば……」
「お前は、何もしなくて良い。今、素戔嗚尊が調査に動いておる」
「そうなんですか……それなら、安心して良いんですね?」
「それは、まだ分からぬのじゃ……」
「と云う事は、調査の結果次第って事ですか?」
「うぅむ。しかし、近い内に、何らかの変化が有るであろう……」
自由気ままな旅に出たはずの素戔嗚尊。実は極秘の調査活動を行っていたのだった――
「昔っから『敵を欺くには、先ず見方から』良く言えば好々爺、悪く言えば助平爺のキャラを演じて来たが……しかして、その実態は、元祖、暴れん坊の荒ぶる神、デカチンの……もとい、ガチンコ喧嘩番長の素戔嗚尊ってぇ分けよ」
風に吹かれて、流離いの。向かう先は伊勢神宮の中宮。それは、アマテラス不在の原因究明の旅だった――
〝 キャァ――――――――――ァッ! 助けてぇ――――――――――っ!
「ん? 絹を裂く様な女の悲鳴。これは、放っては置けないぜっ!」
神主の居ない神社で寝転がっていた素戔嗚尊は、すっくと立ち上がると、本殿から外の様子を伺った。すると、大きな男達が、女子高生を囲んでいるのが見えた――
「おいっ、女っ! その懐の物を、こっちへ渡してもらおうか?」
「止めて下さいっ!」
「おうっ! 言う事を聞かねぇと、痛い目に合うぜ。その綺麗な顔が、切り刻まれても良いのかよっ! さぁ、サッサと渡しやがれっ!」
「お断りしますっ! この御札は、命に代えても守ると神に誓った物、絶対に渡しませんっ!」
「何だと? おい、女。良い度胸をしているじゃねぇか? だが、こっちも命が掛かっているんでなぁ。それじゃあ、可哀想だが、そうさせて貰うぜっ! おうっ、やっちまえっ!」
男達は、その掛け声に一斉に合口を抜くと、女子高生ににじり寄り、間合いを計って呼吸を整えた。逃げ場の無い、絶体絶命の危機だった―――
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