表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
419/468

あれ、髪切った?

 喜多美神社は神聖な空気と夜の闇に包まれていた――


「さぁてと、これで終わりかなぁ。夕飯は……」


 めぐみは、ケータイのショート・メールを確認した――


「レミさんも七海ちゃんも遅いみたいだから、何か買って帰ろうかなぁ……おや?」



 帰り支度をしようと参道に出ると、鳥居の向こうに気配を感じた――



「あれ? 誰か居るよ?」


 髪を切り、お洒落なモードに身を包み、別人になった伊邪那美が夜の闇にシルエットで浮かんでいた。そして、右手を挙げて指を鳴らした――



 〝 パチンッ! ″



 すると突然、月が現れ、月光が束になってスポット・ライトの様に伊邪那美を照らした――



「あれ? もしや? ウソ? マジで……」



 伊邪那美は、参道のセンターを、踊りながら歩いて来た――



 〝 シャラララララァ―――――――――――――ンッ、クルクルクルッ! キラキラキラァ――――――――ンッ! ウフフフ、フフフフフフフ、アハハハハ ″



「うわぁっ! なっ、何で、ミュージカル仕立てなんだっ! しかも、歩いている足元に野花が咲き乱れるディズニー風って……」


 〝 クルクルクルッ! シャラララララァ―――――――――――――ンッ、キラキラキラァ――――――――ンッ、ランラララァ―――ンッ、トゥルルルゥ―――――ッ、フフフゥ―――――ンッ ″


「あら? めぐみ。お出迎え、ご苦労」


「出迎えてませんっ!」


「拍手喝采が無いわよ? 気が利かないわねぇ」


「ぐぬっ、『気が利かない女』それは、女が言われる事を一番嫌うパワー・ワードっ!」


「チッチッチ。オ・ト・コに言われた場合でしょ? 女が女に言うのはOK」


「お、OK? 今更ながら、キャラ変に驚く私」


「そう。だから『気が利かない女』で合っているでしょ? ウフフフ」


 めぐみは、伊邪那美の頭のてっぺんから爪先まで、舐めまわすように眺めた――


「あれ。髪切った? かぁ――っ、若作りしちゃって、恥ずかしい」


「恥ずかしくなんか無いもんっ!」


「もんって、あのですね、『ローマの休日』に出演時のオードリーの年齢は二十四歳ですよっ! いい歳して、若作りし過ぎると、笑われますよっ!」


「笑われたって、若いんだもぉ―――ん。笑えないババアより、よっぽどマシなんですぅ―――だっ!」


「ぐぬっ、典子さんの口調を、何時の間にかマスターしてやがるっ!」


「若く、美しく蘇り、現代的なエレガンスを身に付けた私に……嫉妬するのも無理は無いわ。お―――――――っほっほっほっほ」


「くそっ、嫉妬なんかじゃ有りませんよっ! 私の方が、全然若いのに、何か見下されているのが悔しいんですっ!」


「では、明日の正午に。ご機嫌よう」



 〝 シャラララララァ―――――――――――――ンッ、クルクルクルッ! キラキラキラァ――――――――ンッ! ウフフフ、フフフフフフフ、アハハハハ ″



 伊邪那美は、上機嫌で本殿へ向かった――


「ただいま」


「お帰り」



 〝 シャラララララァ―――――――――――――ンッ、クルクルクルッ! キラキラキラァ――――――――ンッ! ″



「おやおや? 本殿ではお静かに」


「あなた。何か、気が付かなくって?」


「さぁ……」


「ちゃんと見て下さいっ!」


「着ている物が違いますね」


「で?」


「似合ってますよ」


「それから?」


「ふーん。あぁ、髪を切りましたね」


「そうです」


「髪は女の命と言いますが、随分、思い切りましたねぇ」


「女神ですから、思いっ切り、切りましたの」


「なるほど。とっても、お似合いですよ」


「あなた……」


「今夜は、眠らせませんよ」


「ダメよ、ダメダメっ! 明日は出掛けるし……」


「お昼までに行けばよいのでしょう?」


「…………」



 めぐみは、明日の迎えの時間を打ち合わせをしようと、本殿まで追い掛けて来たが、中のふたりがイチャイチャしているので止めた――


「アホくさ。帰ろう、帰ろうっ!」


 自転車に跨り、颯爽と夜の街に出て、夕飯のお惣菜を買って帰宅した――


「ただいま――ぁ、と言っても、誰も居ないのよねぇ。ふぅ」


 めぐみが夕飯とお風呂の準備をしつつ、洗濯機を回していると、レミが帰って来た――


「ただいま」


「あ、レミさんお帰りなさい」


「はぁ、疲れたぁ……夕飯は?」


「メンチカツとカニクリームコロッケ」


「YES! 今夜は、ガツンとお腹に溜まるのが食べたかったのよね」


「私も。何か、美食では無く、ヘルシーでもジャンクでもない奴が食べたかったんだよね」


「ねぇ?、七海ちゃんは?」


「今夜は遅いみたい」


「そう。どうでも良いけど、このメンチ強烈な香りがするわね?」


「七海ちゃんが『めぐみお姉ちゃん、加藤精肉店のメンチカツはA5,A3の牛肉の切り落としや、極上の脂が入ってから、めっちゃ、旨いんだぜ』って言ってたから、一度は食べてみようと思っていたのよねぇ」



 実食――


「ゲロ旨っ!」


「クソ旨っ!」


「定番のブルドッグ・ソースが、溢れ出る牛脂に押し流されて、まろやかになるとは……口中で極上のソースに変化するなんて、驚きね」


「その濃厚な牛肉の味を堪能して、キャベツに箸を運べば、何時ものキャベツがフレッシュで瑞々しく感じるぅ」


「カニクリームコロッケは、コレを食べた後だと微妙ね」


「七海ちゃん曰く『メンチに乗せて食うと、旨いんだぜ』って」


「なるほど、ソース・ベシャメルって事か……うん、美味しい」


 ふたりが食事を終えると、玄関チャイムが鳴った――


 

  〝 ピンポーン! ″



「誰?」


 めぐみは、ドアまで歩いて行き、覗き窓から確認した――


「なんだ、七海ちゃんじゃないの、お帰り。ピンポンするから、誰かと思ったよ」


「めぐみお姉様、レミ様。只今、外出先から戻りましたぁ」


「そんな、三つ指突いて挨拶するなんて……どっ、どうしたのよ?」


「日頃から、きちっとした所作を身に付け、習慣にしなければ、美しい女性にはなれませんので」


「美しい女性……??」


「あ、レミさん。そうやって、股を開いて座るのは、ロケンローかもしれませんが、女性としては失格ですよ? お気を付け遊ばせ」



 イッケイの、指導を受けた七海は。すっかり良家の娘になっていて、めぐみとレミは口をあんぐりと開けたまま、ゆっくりとお互いの顔を見合わせると、我に返って襟を正した――




お読み頂き有難う御座います。


気に入って頂けたなら


下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援と


ブックマークも頂けると嬉しいです。


次回もお楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ