旅の途上。
何故なら、普段より、めぐみが饒舌な事が原因だった――
「めぐみお姉ちゃん、人は浮気をすると、口数が多くなるって云うの、知ってる?」
「え? 何よ、いきなり。まぁ、男の人のやる事は、丸バレだからねぇ」
「浮気って、どう思う?」
「どうって、最悪じゃね? まぁ、理由は色々と有るのだろうけどさぁ。そんな事より、夕飯どーすんの? ブーバーのメニュー見てるんだけど、イマイチだわ……何か、こう、味が濃い物や、揚げ物じゃなくて……かと言って、さっぱりし過ぎも物足りないのよねぇ……」
「そんな時ゃ、脂の乗った奴を、つまむのが一番よな」
「おぉ、それだっ!『月も朧に 白魚の 篝も霞む 春の宵』ってか? んじゃ、外食しよっか」
「そうしようぜ」
連れ立って、夜の街を歩き、目当ての寿司屋で寿司をつまみ、レミのお土産を手に帰宅した――
「のどぐろの炙り、マジで最高」
「私はヒラメ。北寄貝も美味だわ。日本酒が止まんないもん」
そこへ、レミが帰って来た――
「ただいま」
「あっ、レミさんお帰り。今日は、お寿司だお」
「まぁ、豪勢ねぇ。有難う……推し活の後は、すし活ね」
綺麗な指でサッと摘まみ、スッとしょうゆを付けて、パクッと頬張る。顎の動きと瞳の輝き、ペロッと舌なめずりをして、次のネタを無言で食べるレミを、めぐみと七海は眺めていた――
「レミさん。旨い?」
「七海ちゃん、愚問でしょ」
「贅沢ねぇ。これ位の量でも満足感は最大級だわ」
「そうなんよねぇ」
「ご馳走様」
七海が、後片付けをして、お茶を淹れ直している間に、レミはめぐみと話をする為、ソファに移動をした――
「ちょっと話が有るの」
「はぁ?」
「アマテラスの、推し活なんだけど」
「どうかしたんですか?」
「天海徹が言うには、拉致されたのは天宇受売命の可能性が有ると、そして……」
「そして?」
「もしかしたら、殺されているのかもしれないと……」
「まさか、それが本当なら大変ですよ」
「つまり、アマテラスの『推し』はカムフラージュにすぎないって云う事でしょ?」
「その可能性は、高いですよね」
「そのDEAD ENDが対バン型式のフェスに出るらしいの。それで……私達も出る事になったのよ」
「どえぇっ! 凄いじゃないですか、いきなり、BIG・STAGEでメジャー・デビューみたいな?」
「まぁ、そうなんだけど……罠だと思うのよね」
「罠?」
「アマテラスは悪神達の誘いに乗って、フェスで対決するつもりだと思うの。じゃなきゃ、出る意味無いからね」
「そうなんですか。私は、BANDの事とか分からないので……」
「お茶、淹れたお」
「ありがとう」
レミは、美味しそうにお茶を飲んだ――
「ねぇ、レミさん。フェスって、何組出るの?」
「さぁ。一応、八組から十二組の予定だって聞いているけど。どうなるか、まだ分からないの」
「あっシも観に行きたいお」
「そう? 七海ちゃんが観に来てくれるのなら、バック・ステージ・パスを用意しておくわ」
「やったー! ねぇ、めぐみお姉ちゃんも一緒に行くでしょ?」
「うん」
「あっシらも、何かお手伝い出来る事が有ればするお」
「ありがとう。その時はヨロシクね。来月は、準備で忙しくなるわ……」
その頃、本殿では伊邪那岐が、立ったり座ったり。立ち上がって、右へ左へと歩き回り、また座るという動作を繰り返していた――
「遅いですねぇ。伊邪那美は何処へ行ってしまったのでしょう。もう帰って来ないのでしょうかねぇ……」
〝 ガタ、ギイイ―――――――ィ ″
「ただいま戻りました」
「あぁ、遅かったですねぇ、心配しましたよ。こんな時間まで、何処へ行っていたのですか?」
「何処へと? 先日、めぐみに案内して貰った多摩川に、夕日を眺めに行っただけです」
「陽はとっくに沈んでいますよ。遅いじゃないですか」
「その後は、散歩です」
「散歩ですか?」
「散歩ですよ」
「知らない横丁の角を曲がれば、もう旅です」
「散歩でも旅でも、どちらでも構いません。そう云うの、良くありませんよ」
「良くないですか」
「疑いの心は隠せぬもの。愛とは信じる事です」
伊邪那岐は、心配を疑いにすり替えられた事にイラっとしたが、何時に無くキリッと、言い切る伊邪那美に返す言葉を失った。そして、この狭い本殿の主は、旅の途上だった――
「遠い―― 世界にぃ―― 旅にぃ―― 出ようかぁ それともぉ―― 赤い―― 風船にぃ―― 乗ってぇ――」
素戔嗚尊は、夕暮れに、野に寝転んで草笛を吹いたり、自由気ままな一人旅を満喫していた――
「おじちゃん、歌なんか歌って、ご機嫌だね」
「おや? お嬢ちゃん、今晩は。もう日も暮れて真っ暗だ。さぁ、早くお家へお帰り」
「家なんか、無いやい!」
「やいって。でも、お母さんは心配しているよ。さぁ、途中までおじちゃんが送ってあげるから……」
「母ちゃんなんて、居ないやい!」
「おや? 帰る家も無く、母も無しとは」
「見ての通り、家なき子」
「可哀想に……」
「おじちゃん、同情するなら、金をくれよ」
「シビアじゃのぅ」
「でも、タダでくれなんて、虫の良い事は言わないよ。このマッチを買っておくれ」
「ま、マッチ? 今時、マッチ売りの少女だなんて、珍しや。マッチなんて使う人も居ないだろうに……」
「だって、お父ちゃんが……はっ!」
「ほーら、尻尾を出しやがったなぁ。何者だっ!」
マッチ売りの少女は、頭巾を飛ばすと宙返りをして、正体を現した――
「素戔嗚尊っ! お前を斬るっ!」
マッチ売りの少女は籠の中に隠した短刀を、何時の間にか抜いていて「やぁっ!」と襲い掛かって来た――
「お――っと! その手は、桑名の焼きハマグリは、美味かったっ! そりゃっ!」
〝 シャ――――――――ッ! クルクルクルクルッ! ″
素戔嗚尊は、お金を出すフリをして、懐中の鎖分銅を握っていたのだった――
「ぐえっ!」
分銅は首に巻き付き、伸びた鎖を手元の短刀に掛けると、相手の動きは完全に封じ込められた――
「観念しな。誰に頼まれた。ん? 父ちゃんは何処だっ!」
「くっ、此れまでか……」
〝 ズッバァ――――――――――――ンッ! ″
マッチ売りの少女は、目が眩むほどの閃光を放ち爆死した。真っ暗な闇に、硫黄の匂いだけが漂っていた
――
「刺客では無く、忍びの者か……それにしても、大袈裟なマッチじゃのぅ。やれやれ」
素戔嗚尊は、桑名の焼きハマグリに舌鼓を打ち、伊勢湾を左手に見ながら四日市市から鈴鹿市へ南下していたが、身を隠す為、亀山方面に足を向ける事にした――
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