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胸おっぱいの愛を。

 天海徹の態度に、レミの表情は険しさを増した――


「どうして此処へ?」


「オレは先を見通す男だからさ」


 七海は、睨み合うふたりを見て、緊張を解くように、お茶を淹れて差し出した――


「有難う。地上は喉が渇くからなぁ。お茶が旨いぜ」


「ねぇ、この先どうなるの?」


「ここから先は、オレにも分からないんだよ」


「ふんっ、偉そうに『先を見通す男』だなんて言っておいて、分からないですって? 恥ずかしくないの?」


「あぁ。恥ずかしくなんかないさ。伊邪那美様の地上復帰が、どれ程、凄い事か。分かっていないのは、お前の方だろ?」


「何ですって?」


「伊邪那美様とアマテラスが動き出したら、オレの予測なんて吹っ飛んじまうさ。見通す意味さえ無いんだよ」


「意味が無いなんて……」


 隣で話を聞いていためぐみは、静かに頷いていた――


「オレが出来るのは、お前を守る事だけだ」


「…………」


 黙り込むレミを余所に、七海はめぐみの袖を引っ張り、小声で囁いた――


「プロポーズじゃね?」


「ちげぇ――よっ!」


「マジでカッケーじゃんよぉ」


「そんなんじゃないのっ!」


 天海徹は、お茶を飲み干すと、大きく溜息を吐いた――


「ふぅ。旨かった、ご馳走様」


「私を守るって言ったけど……一体、何が起こるの? どうやって守ると云うの?」


「まぁ、アマテラスを抹殺しようとした連中が、伊邪那美様が復活した事で、どう出るかだなぁ……」


「そんなの決まっているじゃないっ! 何が何でも、力尽くで奪いに来るわよっ!」


 めぐみは、感情的になるレミを諭すように言った――


「レミさん、落ち着いて。レミさんを襲い、レミさんの彼氏を殺した連中は、もう、逃げる事は出来ないよ。だから、戦う以外に道は無いと思うけど……」


「その通りだ。もう、後が無い……そして、正面突破出来る可能性も消滅したと云う事だ。クックック、まさか、伊邪那美様を復活させるとは、八百万も誰一人として考えていなかった訳だ。もし、マテラスに異変が有れば、伊邪那美は法則を発動させるだろう」


 めぐみは、伊邪那美の気分次第で、地上の全てが変わってしまう事を悟っていた――


「法則って……」


「伊邪那美様が、ふっと、軽く息を吹くだけで、全てがリセットされてしまうのさ」


「そんな事……」


「朝令暮改の最たるものと言えば、分かり易いだろ? オレが見通す未来なんて、一瞬にして書き変えられてしまうから、何の役にも立たないのさ。お前は何時も通りメンバーとBANDの練習をすれば良いんだよ」


「つまり、何も知らない、気付いていないフリをするって事ね」


「あぁ、そう云う事『天岩戸伝説、再び』って事さ。さてと、オレはこれで帰る。明日の朝、お前が出掛ける何時もの時間に迎えに来る。分かったな?」


「迎えって?」


「一応、オレは、お前のマネージャーって事にするから、明日から行動を共にする。じゃあ、ヨロシクなっ!」



 天海徹が去って行くと、レミは余計に混乱していた――


「はぁ……彼奴がマネージャーだなんて……何も出来やしない癖に」


「でもさ、レミさん。マジでカッケーじゃんよ。クールな感じが、お似合いだお?」


「はぁ? 七海ちゃん、止めてよ。私のタイプじゃないわ」


「でも、BAND練習を安心して出来る事は間違いないですよ」


「めぐみさん、もしかしたら、その、DEAD・ENDとやらと合流するのかしら?」


「その可能性も無きにしも非ずだけど、アマテラスが、どうしたいのか分からないのよねぇ……」


「不安だわ……」


「逆ですよ、安心して下さい。伊邪那美様とアマテラスには、太刀打ち出来ませんから」


「そうね……」



 翌朝、約束通り天海徹は迎えに来た。レミを驚かせたのは、濃い紫色のロールス・ロイス、シルバー・クラウドⅢにショーファー付きでやって来た事だった――



「お迎えに参りました、お嬢様。どうぞ」


 ショーファーが、白い手袋でドアを開けると、中には足を組んで投げ出した、天海徹が居た――


「ようっ!」


「何よ、コレ?」


「ロックは、派手じゃなきゃダメだろ?」


「勘違いしないでよ……」


「小さく纏まっていちゃぁ、ダメだぜ。何時いかなる時もファンに見られている事を意識しなくちゃ」


 めぐみと七海は、朝食も途中で窓の下を眺めていた――


「めぐみお姉ちゃん、マジでカッケーじゃんよぉっ!」


「あんた、そればっかりねぇ。何時いかなる時もって、こんなボロアパートで居候しているのに無理が有りまくりでしょう?」


「それが、良いんじゃんよぉ―――っ! 分かってねぇなぁ……YAZAWA的なんよ」


「古っ! それって、ダサくね?」


「女っつーのは、ベタでダサくても、そんなんが……グッと来るんよぉ」


「グッと? 来るんだぁ……来ないわぁ……」


「来るっしょ? じゃぁ、じゃぁ、ネックレスとか、アクセサリー付けてるじゃん?」


「はぁ」


「それを、ブチッと引き千切ってぇ」


「引き千切って?」


「ぽいっ。『君に安物は似合わないよ』なんて、どーよ?」


「お気に入りのネックレスを、千切られた時点でブチ切れるっつーのっ! ぽいっなんて、絶対に許さないよっ!」


「んじゃぁ『君には、アクセサリーなんて要らないよ』なんて、言われたら、どーよっ!」


「そうね。まぁだ、そっちのが……良い分け無いでしょっ!」


「めぐみお姉ちゃん、強がんな。時には、弱い女を演じる事も大切よ」


「へぇ、そうなんだ。そんな風に、演じるんだ?」


「当たり前じゃんよ―――お。女優だお」


「はい、駄目――ぇっ!」


「何がよ?」


「七海ちゃん。コンプラの厳しい今の時代、女優、ゆーたら駄目なのよん。俳優って言わなくちゃね」


「そんなの、刀狩りじゃんよぉ」


「言葉狩り。そう云う、小さな事から足元掬われっぞ」


「はっ! それよなぁ……」


「そゆこと。理解が早くてよろしい」


「うん。じゃぁ、めぐみお姉ちゃん、例の件、よろしく頼んだお……」


「おうっ! めぐみお姉ちゃんに任せなっ!」



 めぐみは、七海を送り出して、仕事に向かうために戸閉をしていると、ふと思った――


「おや? 七海ちゃん『例の件』って言っていたけど……何の事だっけ?」


 

 めぐみは、伊邪那美とアマテラスの事で頭が一杯で、すっかり忘れていたが、七海の方は、嫁と姑の問題で頭が一杯、胸おっぱいだった――






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