敵を欺くには見方から?
当然ながら、レミはめぐみと七海に意見を求めた――
「どう?」
「このブルー・チーズの奴が一番お洒落で、一番、旨いお。只なぁ……」
「只って?」
「ブルー・チーズと、蜂蜜のコストが、どエライ感じよな」
「やはり、そこよね」
「あっシも、パンを沢山作って、めぐみお姉ちゃんに食べて貰ったけど、結局、お客さんは価格が高いと続かないお。期間限定なら良いと思うんよ。でも、定番にするのは難しいんよなぁ」
「ふーむ、七海ちゃんの言う通りなんだけどさぁ、私は、ポーションを小さくすれば価格が抑えられるし、喫茶店で軽く食べる感じにすれば良いと思うよ。何て云うか、普通に旨いPIZZAより、華が有るって感じ『折角だから、注文しよう』って気になるもの」
レミは、Mistyに持参する為、めぐみと七海の意見をノートに纏めていた――
「ドリアは、この一番安いのが美味しいね」
「そうなんよ。それ程良い材料を使っていないけど、めっちゃ旨いんよ」
「ベシャメルが特製なんだって。何十年も愛されるには理由が有るのよね」
実食が済むと、レミがコーヒーを淹れて差し出した――
「またまた、このブレンドが合うね」
「これって、高級な良い豆なん?」
「ううん、そこそこの豆らしいけど、ローストの加減が特別なんだって。豆の味が分からなくなるほど、ハイ・ローストにはしてはいけないって言っていたわ」
「ところで、話は変わるんだけどぉ、DEAD・ENDってBANDを知ってる?」
「BAND? さぁ……私は日本の音楽に、あまり詳しく無いから。知らないわ」
「あっシは、知ってるお」
「おぉっ! 七海ちゃん、流石、若者ねぇ」
「若者じゃなくて、悪かったわねっ!」
「いや、そういう意味じゃ……ねぇ、七海ちゃん、どんなBAND? 教えて」
「どんなって? そうだなぁ、どー言えば良いんだろ……」
「若者だって、答えられないじゃない」
「いや、つーか、若者じゃないふたりに、説明すんのが難しいお」
レミとめぐみは「若者じゃないふたり」に少しだけイラっとしていた。そして、七海はケータイを取り出して検索をしていた――
「あ―――っ、あった、あったお。えーっと、ハードコア・パンクとメロディアスなメタル・サウンドを高次元で融合。ビジュアル的にもダークなゴシックをエレガントに魅せる、寸止め無しの突き抜けたSOUNDを展開する、要注目のBAND」
「へぇ。結構、凄い感じなのね。割と有名なんだぁ」
「凄くも無いし、そんなに有名でもないお。只、勢いが有るんよねぇ」
「勢い?」
「何かさぁ、推しが凄ぇ熱いってか、押しが強いんよぉ。ゴリッゴリに押しているんよ」
「ふーん。ゴリッ、ゴリなんだぁ」
「音楽系サイトだけならまだしも、色んなSNSに、もう、ウザイくらい、ひっきりなしに出て来るんよねぇ。ホレ」
〝 最初の曲は、この曲だぁっ! 『死人に口無し』聞いてくれっ! ワン、ツー、スリー、フォー」
〝 ドン、シャン、ドン、シャン、ダカダカダカダカダカダカダカダカ、ズッドン、ズッドン、ダカダカダカダカダカダカダカダカ、ジャアァ――――――――――――ァンッ! ギュイ―――――――――ンッ!! ”
日本のBANDに興味が無いレミは、話を聞き流していたが、七海が再生したそのSOUNDに脊髄反射した――
「ちょっと! これ……」
「あら? レミさんも、こんな感じのSOUNDがお好きなんですか?」
「レミさん好みかもな」
「何を言って言っているのよっ! パクリよっ!」
「パクリ?」
「リスペクトとか、オマージュって言う奴じゃね?」
「違うわよっ! 私のBANDの丸パクリだってっ!」
「はは――ん。そう云う事かぁ……」
「何よ?」
「レミさん、そのDEAD・ENDってBANDをゴリ押ししているのがアマテラスなんですよ」
「なっ、何ですって!?」
めぐみは、アマテラスが拉致監禁され、フェイクが地上を支配していると思いきや、アマテラス自身が替玉を立てて、自由奔放に推し活をしている事をレミに伝えた――
「何て事かしら。信じられないわ……どうして」
「私の推理は、このBANDがレミさんのパクリと云う事は、レミさんの彼氏を襲撃した連中を探し出そうとしているのかもしれないよ」
「何ですって? それなら、囮って事?」
「恐らく。レミさんが分室に移動になった事で、八百万の騒ぎは収まった。しかし、本当にレミさんが生きているのか死んでいるのかは……分からない」
「それを知りたい連中って……」
「そう、逆賊よ。天の国のアナウンスを信じるどころか、疑いの目を向ける連中が地上に居るの」
「どうして、そんな事が分かるの?」
「私は最初から疑っていたから。アマテラスが拉致されるなんて、在り得ない。ましてや、幽閉する意味なんて何も無いでしょう?」
「そっ、それじゃぁ……」
「無論、連中の目的はアマテラスを殺す事よ」
「…………」
「この地上を支配し、最終的には全てを奪う気よ。気が付けば、冥府にも天の国にも間者が溢れている……その事を、誰よりも知っている天国主大神様は、レミさんを分室に隔離して守ると同時に、アクセスして来る者の素性を洗っていたに違いないわ」
「確かに、アマテラスを抑え込める力など、有るはずも無いわ。そして、捕らえたのなら、一刻も早く始末するのが定石」
「でも、拉致をした実行犯達は、アマテラスの神力でコントロールされている。拉致をされたフリをしつつ、替玉を立てて誘き寄せ、対決するつもりなんだと思う」
「敵を欺くには、見方からね……あの、分室勤務の意味が、ようやく分かったわ」
レミは天国主大神とアマテラスの行動の点と線が繋がり、戦う相手が何者か理解し始めていた――
〝 ピンポ――ンッ、ピンポ――ンッ、ピンポ――ンッ! ″
「めぐみお姉ちゃん、誰か来たお?」
「オレだ。開けてくれ」
「あんた誰?」
「天海徹だ。レミが居るだろ?」
「あぁ、七海ちゃん、入って貰って」
七海がドアを開けると、天海徹はボーラー・ハットを脱いで、挨拶をした――
「初めまして。オレは天海徹だ、ヨロシクな」
「レミさんの彼氏?」
「フッフ。違うよ、上がらせて貰うぜ」
めぐみとレミは、何時に無く険しい表情になっていたが、それを見た天海徹は、ニヤリと笑った――
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