不良少女と呼ばれて。
逆立てた髪は銀色に染められ、ルイス・レザーに特注した白のライダース・ジャケットの襟は大きく、髪同様に立てられ、首には切り抜きロゴでD・E・A・D・E・N・Dの極太チェーンを巻き、タータン・チェックの車ひだのスカートの裾からは、編み上げのブーツが見えていた――
「アマテラス様、御無事で何よりで御座います。さぁ、戻りましょう」
「人違いだよっ!」
「こんな所に居る事がバレたら、大問題ですよ」
「失せな、オッサン!」
すると、驚いた事に、アマテラスが腕を掴んで高く上げた――
「この人、痴漢ですっ!」
叫ぶや、いなや、怒号に包まれた――
「エロ親父、ざけんなっ!」
「テメェ、LIVE潰す気かっ!」
「クソ野郎っ! 叩き出すぞっ!」
「ぶっ殺すぞっ!」
「やっちまえっ!」
和樹は、アマテラスが囚われの身では無い事に驚愕したが、何よりも、美世の言う「狂信者」の姿に背筋が凍り付いていた――
「何と云う事だ……」
「はい。ご覧の通りなのです。アマテラスが何故、非行に走ったのか……私には分からないのです……あぁっ!」
「美世さん、泣かないで下さい」
泣き崩れる美世の肩を抱きながら和樹は思いを巡らせていた――
「この状況で、オーディエンスを全員やっつけても、アマテラスは言う事を聞かないだろう……それどころか、次にどんな手を打つか、予測が付かない。どうしたものか……」
和樹は打つ手が無く、項垂れて美世の元を去った。そして、伊邪那美に報告する為、喜多美神社を訪れた――
「めぐみさん、こんにちは」
「あ、和樹さん。こんにちは」
「ちょっと、話が有るんだ」
「話し? 今日は、ちょっとの話が多いなぁ……何ですか?」
「実は、美世さんの所へ、行って来たんだが……」
和樹が事の次第を話すと、めぐみは驚いた――
「えぇ―――っ! アマテラスが非行に走ったなんて、じゃあ、拉致されて監禁状態じゃないんですね?」
「そうなんだ」
「ちょっと、安心。でも、私にどうしろと?」
「男のオレでは、痴漢だと騒ぎ出されたら、手が付けられないんだ……」
「いや、私だって手に負えませんよ」
「とりあえず、伊邪那美様に報告して、指示を仰ぎたいんだ。一緒に来てくれないか?」
「はぁ。分かりましたぁ……」
―― 本殿にて
「何ぃ? アマテラスが非行少女になったと申すか?」
「はっ!」
「いや、少女かどうかは……不明ですよ。ねぇ?」
「うーむ、何にしても、自らの手を汚さず、周囲の者を扇動して利用するあたり、何か訳がありそうじゃ」
「はっ! 力で相手を制圧する事なら、お手の物で御座いますが、痴漢、変態等と叫ばれては……手が出せません」
「難儀な事よのぅ……」
「そして、あのLIVE会場の観客席に居たのは、アマテラスの配下の者が三分の一、いえ、半数近いかと思われます」
「大の人気者と云う事よのぅ」
「いいえ、それは違うと思いますよ」
「めぐみ。違うとは、どう云う事じゃ?」
「恐らく、そのBANDがLIVEを出来るのは、アマテラスの全面支持による物と思われます、です、ハイ」
「全面支持とな?」
「アマテラスが、推しをスターダムに伸し上げる為、チケットを丸買いして、動員しているんですよ」
「ふぅむ。しかし『推し活』と云うのは、随分と、お金が掛かるモノなのじゃのぅ」
「はい、そりゃぁ、もう、全財産ぶっ込んで、破産する追っかけも多数ですので」
「破産とな? そこまで貢いだ所で、所詮まやかし……せんないことよのぅ」
「伊邪那美様、アマテラスの対応をどの様にするか、指示を仰ぎたく存じます」
「うむ。暫く泳がせて置けば良いであろう」
「しかし、それでは……」
「伊邪那美様、和樹さん。天海徹と宍戸レミの両名が、力を合わせれば、必ずや解決出来ると存じます、です、ハイ」
「ほほう。それは心強い。良い知らせを待っておるぞ」
めぐみと和樹は、伊邪那美に深々と礼をすると、本殿を後にした――
「めぐみさん。天海徹と宍戸レミのふたりの事は知らなかったよ。しかし、ふたりに任せているだけで、良いのだろうか?」
「和樹さん。あなたが考えている事は伊邪那美様も同じよ。アマテラスが自発的に行方をくらませて、推し活をしている事が分かった以上、下手に刺激をしたら、何をしでかすか分からないわ」
「そうなんだよなぁ……女は手に負えないよ」
「きっと、和樹さんの力が必要になれば、ふたりが頼って来るはずよ」
「うーん、急いては事を仕損じるかぁ、焦りは禁物だな」
参道へ出ると、ふたりの姿を発見したピースケが飛んで来た――
「和樹兄貴っ!」
「おうっ! ピースケ。おいおい、何だその面は?」
「だって、兄貴が帰って来ないから、心配していたんですよ」
「それは、済まなかったな。はっはっは」
和樹は、次の戦いに備え、直ぐに稽古に戻る為、参道を去って行った――
「えぇっ! アマテラスが推し活っ!」
「そうなんだってさぁ。フェイクが支配しているんじゃなくて、替玉を立てていたって事。推し活やり放題って事よ……」
「何だかなぁ……どうして、そんな事に」
「退屈だったのよ『太陽が眩しかったから……』みたいな」
「そんな事、どうして言えるんですか?」
「女の感よっ!」
「女の感ですかぁ……」
「萌絵ちゃんもそうだけど、地上の神様が、ストレスMAXなんだよねぇ」
「あぁ、そう云う事ですか、何だか、説得力が有りますねぇ」
喜多美神社の日も傾き、仕事を終えためぐみは、帰路に就いた――
「ただいま」
「めぐみお姉ちゃん、お帰り」
「お帰りなさい」
「あ。レミさん、ただいま」
「夕飯は? って、聞かないの?」
「あーのね、七海ちゃん。聞くも聞かないも、まるバレやんっ! ドアを開けるなり、イタリヤかっ! って、ツッコミたくなる香りよ」
食卓にはPIZZAとドリアが並んでいて、チーズの香りが部屋中に充満していた――
「すごいでしょ? レミさんが持って来てくれたんだお」
「えっ!? レミさんが?」
「Mistyで、新しいメニューを検討中なの、それで、広く意見を求めたいって事で」
「それで、こんなに?」
〝 チィ――――――――――ンッ! ″
「最初の奴が、丁度出来たお。さぁ、食べようぜっ!」
〝 おぉ―――――っ! ″
めぐみは、チーズとペパロニに舌鼓を打ち、PIZZAの試作品を堪能していた――
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