LGBTにQを添えて。
めぐみは、親子の対面の段取りが付いた事で安堵し、気を楽にして遅すぎた新年会に臨んだ――
「こんばんはぁ」
「ようこそ。いらっしゃいませ」
「めぐみさん、七海ちゃん、お久っ! おげんこーっ!」
「イッケイさん、御久し振りですぅ」
「七海ちゃんは、さっき会ったわね」
「こんばんは……あの人達は?」
「あぁ、私の、お仲間よっ!」
「ちょっと、ヤダぁ、おなカマだって、ちゃんと紹介しなさいよっ!」
「分かってるわよぉ、右からギャラクシー・マツオさん」
「こんばんは」
「真ん中の一番派手なのが、ベルベディーレ・ノザキさん」
「おこんばんわっ!」
「そして、一番左の地味な人が、カマダ・しょぉ――ごっ!」
「グッ・ナイッ! よろぴくぅ。どーでも良いけど『しょぉ――ごっ』って、止めなさいよぉ。スタッカートしないでよぉ。気ぃ悪いわぁ」
「良いじゃないの、あなたひとりだけ地味なんだからさぁ。ちょっと、クセ付けないと面白くないのよっ!」
「まぁ、失礼ねぇ……おふたりともビックリしているじゃないのぉ。ゴメンね、怖く無いのよぉ」
「紹介しまぁす。此方が、めぐみさん。喜多美神社の巫女さんなのよ」
「よろしくお願いします」
「で、此方が七海ちゃん」
「今日は、よろしくお願いします。皆さん、ゴージャスだおっ!」
「可愛ぅい――ぃっ! 私、素直で正直な娘、大好きよぉ――――っ! って、別に惚れないから。だって、オカマだもん」
「もう、やぁねぇ。最後にぶりっ子して、全部持って行くのよ、この子」
「本当に欲しがりで嫌んなっちゃう。ほら――ぁ、巫女さんがドン引きしてるでしょう? ちゃんと、場を温めなさいよ」
「いやぁ、もう充分、温まってますよ。有難う御座います」
「あぁ、フォローとかするんだぁ。巫女さんも、気苦労が多そうよねぇ」
「も? あんたなんか、気苦労なんて、何もないじゃないのよ――ぉっ! 図々しいわねぇ」
「図々しいんじゃないのっ! さりげなく寄り添っているの。でも、惚れちゃダメよ。寄り添っても添い寝はしないの、オカマだから」
めぐみ達は、直ぐに打ち解けて、和気藹々の雰囲気の中で小林シェフの料理が運ばれて来た。すると、皆、一様に舌鼓を打った――
「美味しいわねぇ……」
「うん。小林シェフのお料理は、お洒落なだけじゃないお」
「そうね。通常、熱い物は熱々で、冷たい物は冷たく頂いているのに、フランス料理って、この人肌感が凄いよね」
「あら、めぐみさんも、そう思うでしょう? 味が良く分かる温度なのよねぇ。それだけに、神経使うのよ」
「熱いのが男で、冷たいのが女だとしたら、私たちオカマは生温いのがピッタリよねぇ」
「いやらしいわねぇ。下ネタはダメよ」
「下ネタじゃないわよぉっ!」
「あんたが言うと下ネタにしか聞こえないのよぉ」
〝 アハハハハハハ、ワハハハハハハハ、きゃはきゃはっ! ″
シャブリが終わると、フルボディの赤に変わった――
「シャブリの次はぁ、ふる・ぼでぃ―――いっ!」
「また、下ネタ。いい加減にしなさいよ」
「下ネタじゃないわよっ!」
「ねぇ、どーでもいい、話して良い?」
「何時だって、どーでもいい話しかしないじゃないの? 良いわよ、言ったんさい」
「このメニューなんだけど、必ず『エシャロットを添えて』とかって書いて有るじゃない?」
「それが何よ」
「お洒落なお店とか、高級なお店は、大抵そうよねぇ」
「まーた、下ネタ?」
「下ネタじゃなくて、LGBTにQを添えたら何だって言うの? それが知りたいの」
オカマの皆さんの顔色が変わった――
「それを言う? 今」
「だって、LGBTだけでも不愉快なのにQって何よ」
「それどころじゃないのわよ。アメリカ版のSNSなんて、性別の欄を58種類から選べるようになっているのよ」
「どんだけぇ―――――――っ!」
「正式には、63種類とか、81種類とか言っちゃってさぁ。今日も新しい性別が続々と誕生しているのよ」
「何か、逆に肩身が狭くなった気がするのよ」
「そうね」
「結局さぁ、関係ない人達が、私達はそっちのけでさ、勝手に話を作って居る感じよねぇ?」
「そ。利用されているのよ。ダシにされているの」
七海はビビった――
「めぐみお姉ちゃん、オカマは良い出汁が出るって事?」
「ちげぇ――――よっ!」
「あのねぇ。おふたりには分からないと思うけど、以前は街中で『お姉ぇ系の人』だって発見されると、JKなんて目をキラキラさせていたりして、ちょっとだけ、スター気分を味わえたのよ。うふっ」
「何がスター気分よっ! 居酒屋で糞サラリーマンに絡まれまくって、殴り合いの喧嘩した癖に、自意識過剰よっ!」
「でも、言えているわよ。私だって……普通の男だったら、TVのお仕事なんて無理だもの……」
「JKにしてみれば、小さいおじさんを発見するのと同じ位の感動なのよ」
「まぁ、賛同出来ない所も沢山有るけど、利用されている感は否めないわね」
「でしょ? 飲み屋で絡んでくる糞サラリーマンみたいな連中がさぁ、急に理解を示すだなんて、あーた」
「絶対、信じらんないっ! 私、真剣に生きているのっ!」
「そうよねぇ。誰得で言ったら、私達じゃない事だけは、確かよ」
オカマの鬱憤が、頂点に達した頃には食事も終わり、皆でカラオケに行って、お開きにする事となった――
「組合員の皆で、歌いまぁ――――すっ!」
〝 パチパチパチパチ、パチパチパチパチ ″
「それでは、聴いて下さい。『愛あればこそ』」
〝 ォカマ、それは甘くぅ ″
〝 ォカマ、それは強くぅ ″
〝 ォカマ、それは尊くぅ ″
〝 ォカマ、それは気高くぅ―――ぅ ″
〝 ォカマ、ォカマ、ォカァ――マァ――――――――っ ″
〝 あぁ、ォカマあればこそぉ―――――――ぉ ″
〝 生きる喜びぃ ″
〝 あぁ、ォカマあればこそぉ―――――――ぉ ″
〝 世界は一つ ″
〝 ォカマ故に、人は美しぃ――――――いっ! ″
めぐみは、カーマ・カメレオンじゃない事に失望し、七海はカーマ・カメレオンじゃない事を高く評価して、宴は終わった――
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