閃きは突然に。
Mistyを包囲した悪神達は、お客の振りをして何食わぬ顔で入店し、レミを始末する計画だった。だが、立ちはだかったのは先を見通す力の有る、あの男だった――
「お前は……」
「フッ、死んだとでも思ったのか? あの日のお礼に来たんだよ。オレは律儀だからなぁ…」
「何だと!?」
「残念だが、お前達はもう終わりだ。伊邪那美様が地上に戻った以上、どんな手を使っても無駄だぜ?」
「ぐぬっ!」
悪神達は一斉に銃を抜くと、天海徹を目掛けて発砲した――
〝 ズダ――ン、ダンッ、ダンッ、ダンッ、ダンッ、ダンッ、ダンッ、ダンッ、ダンッ、ズダ――――――――ンッ!
「フッ。どうした? それだけか?」
「そ、そんな、馬鹿なっ!」
悪神達の銃弾は天海徹を避けて、空の彼方へ消えて行った――
「どんな手を使っても無駄だと言っただろ? 俺には先を見通す力が有るが、時に間に合わない事も有る。前回、お前達に撃たれたのはそのためだ。だが、今は違う。伊邪那美様の後ろ盾が有るからな」
天海徹はホルスターからリボルバーを取り出すと特製の弾をゆっくりと込めた――
「…………」
〝 ズダ――ン、ダダ―――――ンッ、バキュ―――――ンッ! ″
弾丸は悪神達の頭頂部を吹き飛ばし、噴水の様に血が噴き出した――
「自らの腐った血を浴びて、腐り果てて行く様は見ものだぜ」
「ひっ……助けてくれっ!」
「おっと、お前は、まだ若いから生かしておいてやる……だが、その代わりにアマテラスの居場所を教えて貰うぜ」
「そんな事をしたら、仲間に殺されるよっ!」
「お前を? 最早、悪神に居場所は無いって事がまだ分からないのか?」
「そんな事を言っても、あんただって、居場所を教えたら、オレを殺すんだろ……」
「心配するな。改心すればお前を殺す者は居なくなる。だが、改心しなければ悪神として、今、此処で俺が退治してやる」
天海徹は撃鉄を起こして狙いを定めた――
「ひぃ、分かりました、改心します、はい……」
「良し。改心した証にコレを授けよう」
「コレは?」
「そのケータイが有れば、万が一の時にも俺が駆け付けるから心配するな」
「有難う御座います」
「これからは俺の手下として働くんだぜ」
「はい」
〝 カラン、コロン、カラン、カラララ――――――ンッ! ″
「いらっしゃいませ」
「こんにちは」
「あら? お友達を連れて来るなんて、珍しいわねぇ」
「いや、友達じゃないんですよ。マダム、今日の日替わりは?」
「オムハヤシよ」
「ハヤシか、最高だなっ! それを、ふたつ」
「はい。コーヒーは何時もので、アフターで良いわね?」
「えぇ」
天海徹はオーダーを済ませると、レミのテーブルに向かった――
「ようっ!」
「何よ。他の空いている席に行きなさい」
「まぁ、そう言うなよ。この間のお礼を兼ねて俺が奢るぜ」
天海徹は、そういうとレミの伝票を手に取った――
「ひとりで考え事をしているの、ほっといて」
「面白い話が有るんだ。聞きたくないか?」
「面白い話が面白かった試しが無いわ」
レミは、天海徹の連れに目をやると、どことなく見覚えが有った――
「こちらは?」
「アサシンだよ」
「えぇっ!?」
「あの日、お前を殺しに来て、俺を撃った本人だよ」
「何ですって?! だったら……」
「殺しはしないさ。此奴まで殺すと、アマテラスの居場所が掴めなくなるからな」
「アマテラスの居場所って……」
「ほう、乗って来たな。俺達でアマテラスを奪還するって事だ」
「俺達って……」
「おい、黙っていないで、お前も何か言えよ」
「あぁ、この間はすみませんでした……」
「悪神と一緒だなんて、冗談は止めてよ」
「此奴は改心したんだ。この俺の前でな」
「そんなの、信用出来ない」
「伊邪那美様が戻られた今、悪神が生き残る道は無い」
「伊邪那美様が戻った!?」
「あぁ。鯉乃めぐみが冥府から地上に戻したんだ」
「蘇らせたって事?」
「そうとも言うな。つまり、悪神は改心して生き残るか、消え去るか……ふたつにひとつ。此奴は改心したから此処に居るって事さ」
「……分かったわ」
緊張感が漂うテーブルに、マダムがオムハヤシを持って来た――
「お取り込み中に御免なさいねぇ。そんな深刻な顔をしないで。コレを食べたら笑顔になるわよ」
マダムは、熱々のスープとミニ・サラダを添えてオムハヤシを提供すると伝票を置いた――
「あ、マダムコレも一緒にお願いします」
「お会計は一緒ね」
「えぇ。さぁ、出来立てを食べようぜっ!」
「はい……」
改心した男は、一口食べると驚いた――
「うわぁっ! 美味しい……」
「そうだろ? 此処のハヤシは最高なんだ」
「こんなに美味しい物を食べたのは初めてです……いえ、これまで、味なんて感じた事さえ有りませんでしたよ」
「そうさ。改心したからこそ、天の恵みが旨いんだ。ふわトロ卵とハヤシの玉ねぎが旨いよな」
「はい、この、コンソメ・スープも最高です」
「そうなんだよ……分かっているじゃないか」
「サラダもシャキシャキして、量が丁度良いです」
「熱い物は熱く、冷たい物は冷たくな」
「美味しいですっ!」
レミは、食事を始めると、直ぐに上機嫌になったふたりを楽しそうに眺めていた――
「はぁ。男って単純ねぇ。フフフ」
食事を終えると、マダムがコーヒーを持って来た――
「お待たせ。ブレンドね。今日はコロンビアが七割よ。良かったら、コレも食べてね」
「あぁ、何時もすみません……」
「これは?」
「マダム特製のスフレだ。今日は、ツイているなぁ」
「コーヒーが合いますね」
「香りと苦みと酸味をオムハヤシに合わせているからな。このスフレも慌てると火傷するぜ」
「あちちち」
「ほら、気を付けろよ。あっはっは」
天海徹の一言が、レミの琴線に触れた――
「オムハヤシに合わせたバランス……香りと苦みと酸味のバランス……そうよっ! メロディとリズムとビートのバランスを日本人に合わせるのよっ! そうすれば良いのよっ!」
「おいおい、何の事だよ?」
「あなたには関係無いわ。でも、考え事の答えが見つかったの。感謝するわ。御馳走様」
レミは、すっくと立ち上がると、マダムに挨拶をして出て行ってしまった。先を見通していた天海徹は、ニヤリと笑って見送った――
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