鎖を引き千切れっ!
小林は、必死で藻掻きながら命乞いをしたが、聞き届けては貰えなかった。そして、頸動脈を絞められていた為、意識が朦朧としていると、和樹はゆっくりと床に降ろした――
「ほらよ」
「ふうっ……助かったぁ……」
「オレはお前だ」
「何だと?」
「オレはお前の鏡だ」
「どういう意味だ?」
「お前が、命乞いをする奴隷達にする事と同じ事をするだけだと、言っているんだよ」
「…………」
和樹の繰り出すライトニング・サンダー・ボルトも、サンダー・ショットと同様に音も無く、数千万の稲妻を一本の光線にして、威力と速度を増していた――
〝 シュパ―――――――――――――――――――――――――――ンッ! ″
まるで銃弾を撃ち込まれるが如くライトニング・サンダー・ボルトは、小林の眉間を貫いた。そして、バラバラになった身体は鈍い音を立てて床に転がると、湯気を上げて燃え尽きて消えて行った――
「呆気ないものよ……」
セミナーに集まっていた若者達は、息を飲み、喉を詰まらせ、声すら出せなかった――
「お前らは奴隷になる一歩寸前だった。だが、これで解放されたのだ。もう、自由だ」
〝 ザワザワザワザワザワザワ、ザワザワザワザワザワザワ、ザワザワザワザワザワザワ ″
「こ、こんな事が起こるなんて、信じられないっ!」
「自由って言われたって、収入源を絶たれて、僕らは、明日からどうやって生きて行けば良いんですか……」
「その、奴隷根性を止める事から、本当の明日が始まるのだ」
「本当の明日?」
「お前たちは依存する様に仕組まれて来たのだ。奴隷が何時までも奴隷として……生かさず殺さず利用出来る様にな。服従し、利用されるだけの人生に満足か?」
「だって、社会において人間は利用価値が問われるのだから……」
「自分の身分を表している『奴隷の鎖』がそんなに恋しいか? 手枷足枷が無ければ生きて行けないほどの弱虫なんだな……笑わせるぜ。 それは、保証なんかじゃないんだぜっ!」
「そんな事言ったって、僕達を社会と繋いでいるのは、たった一本の鎖なんですっ!」
「フッ。甘っチョロいなぁ……他者に賭けるのではなく、自分自身に賭けるんだっ! その、心の中の鎖を引き千切るのは、今なんだよっ!」
「…………」
「自分を低く見積もるのは、今日で止める事だな。おっと、最後にお前達に言っておこう。この中から第二第三の小林一蔵が出て来る事だろう……だが、その時に思い出すが良い。今日、此処で……お前達の目の前で起こった事をな」
「…………」
「あばよっ!」
和樹は、背を向け会議室から出て行った。そして、残された若者達は途方に暮れていた――
「自由だと言われたって、どうすれば良いんだよ……」
「当てにしていた仕事が無くなってしまったら……只の失業者だよ」
「でも、あの人が言った通り、僕達は、奴隷の鎖を命綱と勘違いをしているんじゃないだろうか?」
「あぁ……僕らは、自分の可能性に賭ける事が、出来なくなっているんだっ!」
「皆で力を合わせれば、何か出来るかもしれないよ」
「そうだよっ! あの人は僕たちにそれを伝えに来たんだ」
「まるで、神様のようだ……」
若者達が、和樹を本当の神様だと気付くのに時間は掛からなかった――
―― 喜多美神社
「あれ? めぐみ姐さん、警護の人達が引き揚げて行きますよ」
「あ、本当だ……」
「和樹兄貴が敵をやっつけたんですね」
「そう云う事みたいね。これで、ひと安心だわ」
「まだまだじゃ……」
めぐみとピースケの背後に伊邪那美が現れた――
「ひぃぇ―――――――っ! い、伊邪那美様っ! は、はぁ―――――っ!」
「ピースケちゃん、大袈裟ねえ……」
「ピースケ、頭を上げて良いぞ」
「しかし……」
「地上では、何事も簡略化して良いと申しておる」
「はぁぃ……」
ピースケは、恐る恐る顔を上げると、伊邪那美と目が合い、緊張がMAXになった――
「おほほほ。心配しなくて良いぞ。石になったり、死んだりする事は無い。人間の様に自然に振舞えば、それで良いのじゃ」
「ははっ!」
「ピースケちゃん、それをしなくて良いんだよ」
「あぁっ、そうですね」
〝 あはははは、あははははは、あ――はははっは ″
「あの、ところで、伊邪那美様。『まだまだ』とは、どう云う事でしょうか?」
「うぅむ、アマテラスが問題じゃ……」
「その事ですが、天照大御神がフェイクと聞きましたけど?」
「何処に拉致監禁されているのか……未だ、分からぬのじゃ……」
「そうなんですか……それで、レミさんの力が必要になるんだわっ!」
「レミとは?」
「はい。恐らく、天岩戸から出て来させた様に、音楽の力で天照大御神の居場所を特定し、救出するのだと思います」
「ほぅ。それは、頼もしいのぅ。天国主大神も抜かりは無いと云う事よのぅ……得心したぞ」
「あの……」
「何じゃ?」
「それ故、命が狙われております」
「何ぃ!?」
めぐみの不安は的中していた――
「おいっ! 小林一蔵が消されたぞっ!」
「消された?」
「と、云う事は、神業だな。一体、誰だ?」
「武御雷神だ」
〝 何ぃ―――――――――――――――――いっ! ″
「武御雷神なら、鹿島に祀られている筈では無いか?」
「ところが、息子が天の国から降臨して来たそうなんだ……」
「息子だと? そんな馬鹿なっ!」
「嘘じゃない、まるで、シャドウの様に、地上で活動を始めたそうなんだ……」
「武御雷神の身元確認は後にして、宍戸レミの抹殺を急がなければならないな……」
何も知らないレミは、Mistyでのんびりと音楽を聴きながら、コーヒーを飲んでいた――
「はぁ……」
「どうしたの? さっきから、ぼんやり外を眺めたり、溜め息を吐いたり。感心しないわねぇ。何か悩み事でも有るの?」
「そうなんです。BANDの方向性が決まらなくて……」
「音楽なんだから、そんなに、難しく考えたらダメよ」
「そうなんですよねぇ……」
「主人が何時も言っていたけど、理屈じゃなくて直感的に。考えるより、まず心に響く事が大切だって」
「脳より先に、心に届いてこそ音楽ですよね……」
「肩に力が入り過ぎよ。もっとリラックスして、楽しまなくちゃ」
「マダム……」
悪神達はMistyを包囲しつつあり、レミの心に響くのは、音楽よりも先に銃弾になりつつあった――
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