笑って堪えて。
和樹は、小林一蔵の退治に向かう為、立ち上がり、伊邪那美に深々と頭を下げて、本殿から立ち去ろうとした――
「和樹君。良かったらコレをお持ち下さい」
「伊邪那岐様、コレは?」
伊邪那岐の差し出したタブレットには小林の詳細が保存されていた――
「小林一蔵の生い立ちから今日までの記録です。動画と音声を中心に構成してありますので、目を通して見て下さい」
「有難う御座います。それでは、早速、確認させて頂きます」
和樹は「小林」のタブをタップして、幹部に対する講演動画を再生した――
‶ 諸君っ! 良いですか、国民奴隷化計画は必然なのですっ! 分断工作にまんまと乗せられ、助け合い、お互いに支え合う精神を忘れ、一個人の幸せだけを追求し、それを自己実現だの、リア充等と云い、マウント合戦に明け暮れ、悦に居る様なノー天気な馬鹿共の、唯一の活用方法が「奴隷化」なのですっ! ″
‶ ウオォ――――――――――――――ォッ! ″
‶ パチパチパチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチパチ ″
‶ 我々は搾取をしているのでは有りませんっ! 役立たず共を奴隷にしてあげた手数料として、正当な対価を受け取っているだけなのですっ!
‶ ウオォ――――――――――――――ォッ! ″
‶ パチパチパチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチパチ ″
‶ ノー天気な馬鹿共は、呆れる程に御し易い。綺麗事で生きて行けると思っているポンコツなのだっ! 街を見てみるが良い、異国人が日本の製品を買い占め、日本人に高額転売しているではありませんかっ! 異国人に取り上げられた製品を買わされているのを、ぼんやり眺めている様な間抜けな連中なのだっ! 我々が奴隷化を躊躇っていれば、異国人に利用されるだけなのだっ! 奴隷化を躊躇ってはならないっ! ″
‶ ウオォ――――――――――――――ォッ! ″
‶ パチパチパチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチパチ ″
‶ 諸君、君達は「見えざる支配者」として選ばれし精鋭なのですっ! ″
‶ ウオォ――――――――――――――ォッ! ウオォ――――――――――――ォッ! ウオォ――――――――――――――ォッ! ″
‶ パチパチパチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチパチ ″
「フッ、なるほど……ノー天気な馬鹿共を『見えざる支配者』などと持ち上げ、おだてて利用して居る分けですね」
「えぇ。そして、それを人質として利用し、身を守っているのです」
「中々、狡猾な野郎だ。相手にとって不足は有りませんよ」
「せっかく、苦労して冥府に連行したと云うのに、鬼達を手玉に取り、妻が地上に戻してしまったものですからねぇ」
「和樹殿、御迷惑をお掛けして申し訳ありません……」
「妻も、この様に反省しております。どうか、後始末を宜しくお願いします」
「お安い御用です。丁度、身体がなまっていた所ですから、私にお任せ下さい」
「御武運を」
本殿には緊張感が漲っていた。そして、めぐみは社務所の整理を終えて、参道の掃除に表に出た――
「警護の皆さぁ――ん、参道の、掃除をしますからぁ――っ、少しの間、移動して下さいねぇ――っ!」
「はぁ――い!」
「御協力、有難う御座います。直ぐに終わりますからね」
めぐみが参道の清掃に精を出していると、何やら気配を感じた――
「おや? あの木の陰に誰かいるよ? あの――ぉ、もしもし?」
‶ サッツ、ガサガサッ! ”
「あらららららら? 隠れるなんて、怪しいぞっ!」
‶ ハッ! トウッ! ヤァ! ″
‶ サササッ、ガサガサガサッ! ”
「おりゃぁっ! ハイ捕まえたっ! でって、珠美? こんな所で何やってんの?」
「うっせ――なっ! ほっとけ!」
「はぁ?」
「あ――、ほっといて下さいデス。めぐみ様」
「何なん? 本殿から出て来たら言葉遣いがおかしいよ? それに……あぁっ!」
「わぁあっ!」
珠美は、めぐみを躱した時に和樹へのラブ・レターを落としてしまい、それを拾われてしまった――
「おやおやおや――ぁ? 珠美ちゃぁ――ん、ガチで、告る気、満々やないかぁ――――いっ!」
「ちょっと、ダメよっ! 返してっ!」
「中を見ちゃおっか、なぁ―――――――っと!」
「ちょ、待てよ、ふざけんなっ! 見たらぶっ殺しますデス、めぐみ様っ!」
「おやおや? 顔真っ赤だよ? 大丈夫だよ。見やしないよ。ど――せ、アレでしょ? 初めましてぇ。突然のお便り、驚かせてゴメ――――んご。珠美はぁ、ずっとずっと和樹様の事が、しゅきでしゅ、ヘけっ。ペコリ。みたいな?」
めぐみは、適当な事を言って揶揄ったつもりだったが「中見たんか―――いっ!」と言いたくなる程、内容を当てていたので、珠美は白目をむいて倒れそうだった――
「図星かぁ――いっ! 恋愛初心者か? ヘタクソか? 文才無いなぁ」
「だってぇ。しょうがないじゃん。本気になると……臆病になるのっ! どうしてなの? おせぇ――て神様!」
「ったく、語彙力ねぇなぁ……昭和か?」
「だって瞳はLoneliness、私の心、tendernessだから……」
「気付いてしまったTrue love たったひとつのTrue heart。七五調で横文字入れるのダサくない? ってか、顔に似合わないんだよっ!」
「顔で恋愛する訳じゃねぇだろーがっ! ふんごっ!」
珠美が、興奮して豚になったその時、和樹が真後ろに居た――
「はっ! か、和樹様ぁ」
「ようっ! 珠美じゃないか? お前も伊邪那美様に?」
「はい……あのぉ……」
珠美は、めぐみからラブレターを取り返すと、和樹に渡そうとした。だが、その瞬間――
「えっ!? 和樹様ぁ……」
「な、何ぃ!?」
めぐみが驚いたのも無理は無かった。和樹が珠美の腕を掴んで引き寄せると、顎を掴んで顔を上にあげると、真剣な眼差しで珠美を見つめた。そして、今にも唇を奪われそうな珠美は、静かに瞳を閉じた――
「和樹さんが、顎クイするなんて、そんな、馬鹿なっ……」
和樹は、珠美の肩を掴んで、グッと引き寄せると、親指と人差し指を鼻の穴に突っ込んで、珠美の鼻毛を抜いた――
‶ ブチブチッ! ″
「ほら? な? 鼻毛が出ていたぜ。珠美、お前は農作業も多いし、何より、都内でトラックを転がしていると、排気ガスのせいで鼻毛が伸びるのが一段と早いんだ……百年の恋も冷めるし、モテないぜ」
「あうぅ……」
「女なら、そこんとこ、気を付けなっ! あばよっ! フゥーーッ!」
和樹が抜いた鼻毛を吹き飛ばすと、珠美の心に咲いた恋の花も散っていた。そして、それを見ていためぐみは、笑いを堪えるのに必死だった――
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