あなたの出番ですっ!
めぐみは、物々しい雰囲気に息を飲んだ。すると、駐車場の警護の者達が一斉に動き出し、整列するや敬礼をした――
「あれ? あぁっ! 和樹さんっ!?」
和樹は、武者修行の甲斐有って、鍛え上げられたボディもさる事ながら、顔つきがシュッと引き締まり、男っぷりを上げていた――
「やぁ。めぐみさん久し振りだね。何時もピースケが迷惑を掛けてすまない」
「いいえ、迷惑だなんて……一生懸命働いているの。皆からも頼りにされているわ」
「そうかい? そりゃぁ良かった。あっはっはっはっは」
めぐみは、豪快に笑う以前と変わらぬ和樹を見てホッとした――
「おっと、此処でのんびり話をしている分けにはいかないんだ。では」
柔和な表情の和樹に緊張の色が見えた。その頃、本殿では珠美と萌絵ちゃんがこってりと油を搾られていた――
「その方達、申し開きがあれば申してみよ」
「はい。あの、私は……」
「黙れっ!」
「ひい―――――ぃっ!」
「申し開きの余地など無いのじゃっ!」
「…………」
「…………」
言えと云うから口を開けば、黙れと言われてしまう珠美と萌絵ちゃんだった――
「その方達が、確りとしていれば、この国は、こんな事にはなっていないはずじゃっ!」
「しかし、伊邪那美様……」
「何ぃ? この期に及んで見苦しいっ! 鯉乃めぐみが天の国から地上に来たのは、その方達の怠慢が原因だと言うに、それを、責任転嫁するなど言語道断なのじゃっ!」
「そ、そんなぁ……」
「珠美よ……百姓が苦しんでおるのに、今の今まで何をしておったのじゃ?」
「はぁうぅ……」
「萌絵よ……富士の山を噴火させてやるなどと、脅迫をして何になると?」
「しゅんっ……」
珠美と萌絵ちゃんは、電源がOFFになったロボットのようになっていた。そして、見るに見かねた伊邪那岐がフォローをした――
「まぁ、ふたりも反省をしているのですから……」
「あなたは黙っていて下さいっ! あなたは女子に甘い、大甘なのです。このふたりは、それを良い事に怠惰な生活をしていたのです。 鯉乃めぐみの活躍に嫉妬するなど、筋違いも甚だしいのです。地上に来なければならなくなった原因を作ったのが、このふたりなのですから」
「すみません……」
そこへ、和樹がやって来た――
「失礼します。伊邪那美様、お呼びでしょうか?」
「おぉおっ! 和樹殿ぉ、精悍な顔つきで貫録が出て、見違える程、立派になられて……御父上も、さぞやお喜びでしょう」
「いやぁ、それ程でも……」
伊邪那美はキラキラと瞳を輝かせ、1オクターブ高い声で話すものだから、珠美と萌絵ちゃんは顔を見合わせた――
「何だよ、男子には甘々じゃねぇ――かよっ!」
「私達と、態度が違い過ぎるわ」
「何? 食糧の輸入も阻止出来ない役立たずと、災を避けるどころか『起こす』と脅す様な不届き者が、達者な口を聞くのう?」
「……」
「……」
「その方達は、もう、下がって良いぞ。和樹殿と話が有るでのぅ」
「では、失礼致しました」
「失礼致しましたぁ……和樹さん、ごゆるりと……」
「余計な事を申すなっ! それから、今日から鯉乃めぐみに対する態度を改めるが良いぞ」
珠美と萌絵ちゃんは、伊邪那美に睨まれ、正座して痺れた足で、よろめきながらその場を離れた――
「あっ! 珠美っ! 萌絵ちゃん、どうしたの? 何だかふたり共、ゾンビみたいになっているよ? 」
「どーもこーもねぇわ……」
「取り付く縞も無いよ……」
「あぁっ!! 怒られたんだぁ。ザマぁ無いねぇ。クックック」
「テメェ、笑ってんじゃ……」
萌絵ちゃんは、反論しようとする珠美の腕を掴み、首を横に振った――
「あうっ、分かったよ……」
「何だよ、珠美っ! 言いたい事が有るなら言ってみ?」
「いいえ。何もございません。めぐみ様」
「はぁ? 何だよ急に?」
「めぐみ様。知らぬ事とはいえ、これまでの非礼をお許し下さいませ」
「はぁ? 何なの、萌絵ちゃんまで……」
「私達は、これで……」
「失礼致します……」
「ちょっと、ふたり共どうしたのよ? 余所余所しいじゃないの? ねぇ、ってばぁっ!」
珠美と萌絵ちゃんは、生気の抜けたゾンビの様な表情のまま、めぐみに背を向けて参道を去って行った――
「討伐? そのために私を呼んだのですか?」
「左様」
「ふぅむ。その話が、事実だとするならば、復讐の芽を摘むために全員、皆殺しにしなければなりませんね」
「うむ。やって貰えるな?」
「ははっ! では、異国人の排除のために全力を尽くしますっ!」
「おぉ、何と頼もしい。流石は鹿島様の息子よのぅ。でも、異国人に罪は有りません」
「はぁ? では、どの様に戦えば良いのでしょうか? 敵を明確にして頂かないと困ります」
「うむ。敵は異国人を引き入れ、国を破壊して我が物にし、甘い汁を吸っている連中なのじゃ」
「なるほど。自らの手を汚さず、異国人を利用して、乗っ取りを企てている連中が居ると云う事ですね?」
「和樹君。それに関して具体的な話は私からしましょう。真っ先に始末しなければならないのは小林一蔵という男です」
「小林一蔵?」
「その男は、金と権力のためなら家族さえも売り飛ばす様な人非人です」
「愛情を受けずに生きて来た人間と云う事ですか?}
「違います。確りと両親の愛情を受けて育っていたのですが、愛情に価値は無いと判断したのでしょう、家族を捨て、友人を売り、他人を騙す様になってしまった彼には、利益以外に何も無いのです」
「そりゃあ……酷い。常人のメンタルとは、掛け離れていますね」
「えぇ。悪神が憑りついてコントロールされている分けではないので、それ故に厄介な存在となっています」
「ふーん、悪神の仕業ではなく、素の人間なんですね……恐ろしい奴が居たものだ……」
「異国人の排除なら、伊邪那美は一瞬にして解決出来ますがねぇ、人権だとかダイバーシティと言った美名の元に、異国人を引き入れてやりたい放題なんです」
「手強そうですね。だが、それ故にやり甲斐を感じますよ。フッフッフ」
和樹は、腕試しを前に武者震いをしていた――
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