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縁は異なもの味なもの。

 伊邪那美は、膝を擦りながら伊邪那岐ににじり寄った。すると、息も出来無い程、本殿の空気が薄くなった――


「地上の空気の淀んでいる理由、その正体を知りたいのです」


「まぁまぁ、冷静に。これでは息が出来ませんよ。けっほ、けっほ。窒息します」


「この期に及んで仮病とは……見苦しいですよ。息など、しなくても平気でしょうに? さぁ、本当の事を聞かせて下さい」


「ふぅむ。地上の空気が淀んでいる理由は……つまり、あなた様が冥府から送り込んだ刺客による物で御座います」


「私の責任だと言うのですか?」


「まぁ、そう云う事になりますねぇ。本当に手を焼きました」


「いいえ。それだけでは……有りませんね」


「未だ、何か?」


「何か……嗅いだ事の無い、嫌な匂いがするのです」


「そうですか……気が付いてしまいましたか……」


「当たり前です。あの異臭は異国の者。この私が産んだ覚えのない者の臭いです」


「まぁ、それは人間同士の問題ですから、人間に任せておけばよいでしょう」


「しかし、それでは……」


「それよりも、優先しなければならないのは、あなたが冥府から放った刺客です」


「…………」


天照大御神アマテラスオオミカミが、拉致され、すり替わってしまった為、刺客と悪神が手を結び、やりたい放題です。人間を洗脳し、支配しているのですよ」


「そんな事とは、露程も知りませんでした……」


「特に、あの小林一蔵。悪神を手玉に取る程ですからねぇ、何か得体の知れないモノが取り憑いているのかもしれません」


「ふむ……冥府に於いても、鬼達を愚弄し弄ぶ、あの振る舞い……最早、人間ではないと?」


「えぇ。他人を利用し食い物にするだけに留まらず、自分の親兄弟でさえ食い尽くすのですから、人の心を完全に失っています」


「ならば、討伐あるのみかと……」


「まぁまぁ、あまり物騒な事は考え無い方が良いでしょう」


「しかし、それでは……」


「きっと、お嬢さんが何とかしてくれるでしょう」



 ―― 二月二十二日 仏滅 丙午


 喜多美神社は神聖な空気と静寂に包まれていた――


「おざぁ―――すっ!」


「めぐみさん、お早う御座います」


「おはようですぅ」


「めぐみ姐さん、お早う御座います。今日は朝から元気ですね」


「うん、まぁね。昨日はゆっくり寝れたからさぁ、何時も以上に体力が回復した感じなのよねぇ」


「昨日は、どうなる事かと思いましたけど、良かったですね」


「若いからね、一晩寝れば余裕なのよ」


 ピースケは、人気を感じて何気なく参道に目をやると、視界に入って来たのは鵜飼野珠美だった――


「あれ? めぐみ姐さん、あれは珠美ですよね?」


「あっ? 本当だ。今日は販売の日じゃないのに、何しに来たんだろ?」


「おや? 珠美の後ろに誰か居ますよ……」


 ピースケの視線の先に、珠美の背後に隠れる様に歩く佐倉萌絵の姿が有った――


「あぁっ! 萌絵ちゃんだっ!」


「本当だぁ、何で?」


 珠美と萌絵は、胸の前で手を合わせ、すうっと吸い込まれるように本殿に向かって行った――


「素通りかいっ! 何か一言あんだろーにっ!」


「めぐみ姐さん。あれはきっと……」


「きっと何よ?」


「伊邪那美様に呼ばれたのだと思われます」


「あぁ、そゆこと?」


「足が動いていませんでしたから。呼び出されたに違いありませんよ」


「まぁ、私としては案内係をさせられるのは御免だからね、あのふたりが代わりになってくれれば云う事無しっ!」


「なーんか、嫌な予感がしますけど」


「気にしない気にしない」


「そうですね」


 

 めぐみとピースケは、珠美と萌絵の事を忘れ、何時も通りに仕事をしていた。その頃、レミはMistyに向かっていた――



 ‶ カラン、コロン、カラン、カラララ―――――ンッ! ″



「いらっしゃいませ」


「こんにちは」


「あら、レミちゃん、元気そうね」


「お陰様で。マダムもお変わりなさそうですね。何時ものをお願いします」


「はい。丁度良かったわ。どうぞ」


「丁度? 良かったって……」


「ほら、あそこよ、あそこ」


「あぁっ!」


 マダムの指さす方に居たのは、レミのメン募で集まり、コテンパンに叩きのめされた連中だった――


「こんちは……」


「あんた達、こんな所で何してんのよ?」


「いやぁ、そのぉ……」


「……」


「あぁ、あのぉ……」


 見かねたマダムが声を掛けた――


「レミちゃん、この人達はレミちゃんが来るのを待ち侘びていたのよ」


「はぁ? だってマダム、この連中は……」


「レミちゃんとバンドがやりたいんだって。来る日も来る日もコーヒー一杯で粘られたら、お店が潰れちゃうわよ」


「迷惑行為は止めなさいよ、とっとと出て行きなさいっ!」


「レミちゃん、そんな風に言わないで。一緒に、やれば良いじゃない?」


「マダム、そんな事言ったて、リズムが逆なんですよ? 音がひっくり返っているのに分からないんですよ。時間の無駄です」


「どうせ時間の無駄なら、一緒に音を出した方が楽しいでしょう?」


「楽しくなんかありませんっ! むしろ苦痛です」


「どうせ暇を弄んでいるのでしょう? 付き合ってあげれば良いじゃない?」


「そんなの、無理ですよ」


「おのぉ、俺達、あれから考えたんですよ、グルーブが無い事は自覚が有ったし……」


「でもぉ、洋楽の完コピだと……何か、乗り切れないって云うか……」


「それはそれで、ツマラナイ感じがして……」


「はぁ? だから何よ」


「あぁ、俺達、レミさんと新しい音が作りたいって云うか……」


「今迄に無い音楽をやりたいって云うか……」


「出来るんじゃないかって、結論に達した訳ですっ!」


「うんうん。良いわよ。そう言う『気概が何より大切』だって。主人が何時も言っていたわ。ねぇ」


「『ねぇ』って、私は……」


「レミちゃん。コレも何かの縁よ。アレじゃないコレじゃないって、無い物ねだりをしていたらメンバーは永遠に集まらないわよ」


「だって……」


「はい。何時ものアイリッシュ・コーヒーね」


「マダム……」



 レミは、自分の事を愛娘の様に接するマダムに、抵抗が出来なくなっていた――







お読み頂き有難う御座います。


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次回もお楽しみに。

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